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第二章 アストライア大陸
第三十一話 絶対強者との会合
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低い木々が空を覆い隠す深い森の中、その場には不釣り合いでしかない存在が激闘を繰り広げていた。
本来は海の生物であるタイタンロブスター。しかし彼は地上での活動を選択し、知り合った村人のためにこんな場所まで来ていたのだ。
枝葉をまたいで空の方には、無数のトンビが飛び回っている。彼らは全て霊獣の類で、通常の魔獣などとは比べ物にならない戦闘力を有していた。
流石の俺も、あの数を相手に直接戦闘なんて出来るわけない。
だから今まで通り、頭を使う。
さっき放ったのは、実は爆発魔法などではない。魔法のカラクリを利用した簡単なフェイクだ。
その威力は実証済みで、現に十数羽のトンビが気絶して落下してきている。そうでなくとも、頭が混乱しているのか飛行能力に被害を受けている者もいるようだった。
本来あの数のトンビを爆発魔法で撃ち落とそうとすれば、それなりの量の魔力を使う。
しかし俺の体内の魔力は水属性がほとんどで、爆発魔法などをむやみやたらに使うわけにはいかない。
かといって、空中を飛ぶ彼らに水系魔法が通用するとも思えなかった。
アレは水中ならばかなりの力を発揮するが、超高速で動く彼らに命中させられるほどの速度はなく、罠に使えるような応用力もないのだ。
そこで導き出した答えがこれ。
水系魔法の弾を射出し奴らへと魔法を近づける。俺が最も得意とする水系魔法ならば、数だけは揃えられる。しかし内蔵されている魔力がごくわずかで、この程度では奴らを撃ち落とすなんて到底できない。
そう、奴らを撃ち落とすなんて、本当は不可能なはずなのだ。
しかし、一部の水球にはそれが可能な量の魔力を持たせている。しかし無数に存在する意味のない水球を目にした彼らは、その全てを無視し始めたのだ。もう俺の罠に嵌っている。
次に、外見は一瞬だけ炎を出して爆発を偽装する。見た目だけだから熱量も内容量も大したことはなく、当然ながら奴らを撃破できるほどの威力もない。
しかし奴らはこの攻撃が炎属性だと勘違いし、必死こいていくつも炎系の対抗魔法を試し始めた。
流石は霊獣。使える魔法も多彩だし、対抗魔法も単に炎を消すだけのものから爆発を抑え込むものまで、様々だ。
まったく意味がないとも知らずに、無駄に魔力を消費させ続けるのは気持ちいい。こんなにも俺の策が完璧に嵌るとは。
奴らの高い機動力は間違いなく魔力によるもの。それが消費されれば、必ず隙が生まれるはずだ。
そして最後に、音系魔法。
巧みに作り出した爆発の音を発生させ、さらに奴らの聴覚を直接刺激して気絶させる。攻撃が炎系だと勘違いしている奴らは、なすすべなくこの音圧に敗北した。
奴らはどの水球から爆発が起きるのかも分からず、ただこちらから距離をとるしかなくなったのだ。向こうの動きを完封した。
魔力効率は上出来である。単純に爆発魔法を放つのに対し、驚きの三分の一の魔力しか使わない。
当然だ、火属性・水属性・音属性の三種類に分割しているのだから。それだけ魔力の効率の良くなる。
まあ、全ての者に可能な作戦ではないがな。俺の類まれなる魔法制御能力あってこそだ。
そもそも、三属性の魔法を個別に、かつ同時に扱うなんてのは、一流の魔術師ですら難しい高等テクニック。普通は出来なくて当然である。
だがこんなもの長くは続かない。いくら鳥頭と言えど、やはり奴らは霊獣なのだ。すぐに対応策を講じるか、または新しい対抗魔法を生み出すだろう。そうなってしまえば俺は今度こそ逃げ切れなくなる。
であれば、今のうちにさっさとここを立ち去ってしまうのが得策だろう。仕方がないが、森の探索は中断するべきだ。むしろ、森の強者の存在が確定しただけでも収穫である。あとはどうやって村の問題を解決するかだ。
とにかく俺は、未だ俺の多重魔法に騙されて奴らが怯んでいる隙に、来た道を引き返し始めた。
機動力は低いが魔法を維持するためにはしょうがない、人間の姿にはならずにこのままタイタンロブスターの状態で逃げ切って見せる。
村まで辿り着ければ、ウチョニーがいる。彼女は魔法こそからっきしだが、それでも俺より高い戦闘能力を持っている。彼女の実力ならば、十数羽のトンビを追い返すくらいなんてことはないだろう。
何より彼女は類まれなる肉体を持っており、その体重もさることながら、外骨格の強度は奴らの攻撃程度で傷つくものではないのだ。
肉体の完成度だけで言うならば、大英雄アグロムニーにも匹敵する。
とにかく今一番安全な場所は村の中だ。最悪村まで引き連れて行っても大丈夫という安心感の中、俺は奴らに背を向けて猛ダッシュする。
背を向けていても、タイタンロブスターの魚眼には背面までくっきり映っているのだ。
「面白い奴がいるではないか。この霊王ウチェリトのテリトリーで、好き勝手やってくれている」
時に木々をなぎ倒しながら、時に地面をひっくりかえしながら走っていると、不意に後方から声が聞こえてきた。
俺たちが用いるような、念話魔法だ。しかしその音声はクリーンで、魔法ということを一瞬感じさせない見事もものだった。
まさかと思いそちらに視線を合わせた瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなってしまった。目線はそこに固定されたまま、どの方角をも映すことができない。
視界の中心にいるのはこれまた一羽のトンビ。他のどの者よりも立派で、宙に浮くその姿すら神々しく見える。
本能で感じ取った。コイツは強い。周りのトンビなどとは比べ物にならない力を宿している。まず間違いなく、俺では勝てない。ウチョニーと共闘したとしても、1000に1つも勝ちの目はないだろう。
逃げることすら叶わない。彼の眼力が、彼の表情が、それを確信させた。
きっと何処まで逃げようとも余裕の表情で追いつき、また微笑んで見せるのだ。
「どうした、逃げないのか? ならば良い。お前、アグロムニーの血縁だろう? 少し話がしたい。本来ならばこいつらの餌になってもらっているところだが、今回はそれで見逃してやる」
! 父を知っているのか。いや、彼ほどの実力ならば知っていて当然だろう。海の絶対強者といえば、それは父のことである。そして彼は、空の絶対強者なのだ。
霊王ウチェリト、その名前はムドラストから聞いている。
魔法の起源にして、この世界に魔法を広めた存在。彼が保有する魔法は、全属性の魔法を操るタイタンロブスターよりも多彩だという。
「吾輩もその話に同席させてもらおうか、ウチェリト。構わないだろう? 吾輩はロンジェグイダ=ブルターニャ。この森、そしてこの大陸の精霊種を束ねる長だ。これからよろしく、若きタイタンロブスター」
これまた、大物が出てきた。ウチェリトと同時期に現れた大精霊、ロンジェグイダ=ブルターニャ。彼はあそこに見える霊峰ブルターニャに住まう者。
父が海、ウチェリトが空の絶対強者ならば、彼は大地の絶対強者である。
彼もまた魔法の起源に深くかかわっており、膨大な知識をその身に宿している。彼に知略勝負を挑んだところで、敗北するのは目に見えているのだ。
ウチェリトの迫力で目線は動かせないが、俺の右手側にある大木から超強力な魔力をビシビシと感じた。
恐らく彼は、森と同じ色をした瞳でこちらを眺めているのだろう。
「お、俺はタイタンロブスターの旅人ニーズベステニー。おっしゃる通り、俺はアストライアの英雄アグロムニーの息子だ。こちらも話がしたい。どうか穏便にお願いする!」
俺を貫く絶対強者の力に震えつつも、俺はそう宣言した。
本来は海の生物であるタイタンロブスター。しかし彼は地上での活動を選択し、知り合った村人のためにこんな場所まで来ていたのだ。
枝葉をまたいで空の方には、無数のトンビが飛び回っている。彼らは全て霊獣の類で、通常の魔獣などとは比べ物にならない戦闘力を有していた。
流石の俺も、あの数を相手に直接戦闘なんて出来るわけない。
だから今まで通り、頭を使う。
さっき放ったのは、実は爆発魔法などではない。魔法のカラクリを利用した簡単なフェイクだ。
その威力は実証済みで、現に十数羽のトンビが気絶して落下してきている。そうでなくとも、頭が混乱しているのか飛行能力に被害を受けている者もいるようだった。
本来あの数のトンビを爆発魔法で撃ち落とそうとすれば、それなりの量の魔力を使う。
しかし俺の体内の魔力は水属性がほとんどで、爆発魔法などをむやみやたらに使うわけにはいかない。
かといって、空中を飛ぶ彼らに水系魔法が通用するとも思えなかった。
アレは水中ならばかなりの力を発揮するが、超高速で動く彼らに命中させられるほどの速度はなく、罠に使えるような応用力もないのだ。
そこで導き出した答えがこれ。
水系魔法の弾を射出し奴らへと魔法を近づける。俺が最も得意とする水系魔法ならば、数だけは揃えられる。しかし内蔵されている魔力がごくわずかで、この程度では奴らを撃ち落とすなんて到底できない。
そう、奴らを撃ち落とすなんて、本当は不可能なはずなのだ。
しかし、一部の水球にはそれが可能な量の魔力を持たせている。しかし無数に存在する意味のない水球を目にした彼らは、その全てを無視し始めたのだ。もう俺の罠に嵌っている。
次に、外見は一瞬だけ炎を出して爆発を偽装する。見た目だけだから熱量も内容量も大したことはなく、当然ながら奴らを撃破できるほどの威力もない。
しかし奴らはこの攻撃が炎属性だと勘違いし、必死こいていくつも炎系の対抗魔法を試し始めた。
流石は霊獣。使える魔法も多彩だし、対抗魔法も単に炎を消すだけのものから爆発を抑え込むものまで、様々だ。
まったく意味がないとも知らずに、無駄に魔力を消費させ続けるのは気持ちいい。こんなにも俺の策が完璧に嵌るとは。
奴らの高い機動力は間違いなく魔力によるもの。それが消費されれば、必ず隙が生まれるはずだ。
そして最後に、音系魔法。
巧みに作り出した爆発の音を発生させ、さらに奴らの聴覚を直接刺激して気絶させる。攻撃が炎系だと勘違いしている奴らは、なすすべなくこの音圧に敗北した。
奴らはどの水球から爆発が起きるのかも分からず、ただこちらから距離をとるしかなくなったのだ。向こうの動きを完封した。
魔力効率は上出来である。単純に爆発魔法を放つのに対し、驚きの三分の一の魔力しか使わない。
当然だ、火属性・水属性・音属性の三種類に分割しているのだから。それだけ魔力の効率の良くなる。
まあ、全ての者に可能な作戦ではないがな。俺の類まれなる魔法制御能力あってこそだ。
そもそも、三属性の魔法を個別に、かつ同時に扱うなんてのは、一流の魔術師ですら難しい高等テクニック。普通は出来なくて当然である。
だがこんなもの長くは続かない。いくら鳥頭と言えど、やはり奴らは霊獣なのだ。すぐに対応策を講じるか、または新しい対抗魔法を生み出すだろう。そうなってしまえば俺は今度こそ逃げ切れなくなる。
であれば、今のうちにさっさとここを立ち去ってしまうのが得策だろう。仕方がないが、森の探索は中断するべきだ。むしろ、森の強者の存在が確定しただけでも収穫である。あとはどうやって村の問題を解決するかだ。
とにかく俺は、未だ俺の多重魔法に騙されて奴らが怯んでいる隙に、来た道を引き返し始めた。
機動力は低いが魔法を維持するためにはしょうがない、人間の姿にはならずにこのままタイタンロブスターの状態で逃げ切って見せる。
村まで辿り着ければ、ウチョニーがいる。彼女は魔法こそからっきしだが、それでも俺より高い戦闘能力を持っている。彼女の実力ならば、十数羽のトンビを追い返すくらいなんてことはないだろう。
何より彼女は類まれなる肉体を持っており、その体重もさることながら、外骨格の強度は奴らの攻撃程度で傷つくものではないのだ。
肉体の完成度だけで言うならば、大英雄アグロムニーにも匹敵する。
とにかく今一番安全な場所は村の中だ。最悪村まで引き連れて行っても大丈夫という安心感の中、俺は奴らに背を向けて猛ダッシュする。
背を向けていても、タイタンロブスターの魚眼には背面までくっきり映っているのだ。
「面白い奴がいるではないか。この霊王ウチェリトのテリトリーで、好き勝手やってくれている」
時に木々をなぎ倒しながら、時に地面をひっくりかえしながら走っていると、不意に後方から声が聞こえてきた。
俺たちが用いるような、念話魔法だ。しかしその音声はクリーンで、魔法ということを一瞬感じさせない見事もものだった。
まさかと思いそちらに視線を合わせた瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなってしまった。目線はそこに固定されたまま、どの方角をも映すことができない。
視界の中心にいるのはこれまた一羽のトンビ。他のどの者よりも立派で、宙に浮くその姿すら神々しく見える。
本能で感じ取った。コイツは強い。周りのトンビなどとは比べ物にならない力を宿している。まず間違いなく、俺では勝てない。ウチョニーと共闘したとしても、1000に1つも勝ちの目はないだろう。
逃げることすら叶わない。彼の眼力が、彼の表情が、それを確信させた。
きっと何処まで逃げようとも余裕の表情で追いつき、また微笑んで見せるのだ。
「どうした、逃げないのか? ならば良い。お前、アグロムニーの血縁だろう? 少し話がしたい。本来ならばこいつらの餌になってもらっているところだが、今回はそれで見逃してやる」
! 父を知っているのか。いや、彼ほどの実力ならば知っていて当然だろう。海の絶対強者といえば、それは父のことである。そして彼は、空の絶対強者なのだ。
霊王ウチェリト、その名前はムドラストから聞いている。
魔法の起源にして、この世界に魔法を広めた存在。彼が保有する魔法は、全属性の魔法を操るタイタンロブスターよりも多彩だという。
「吾輩もその話に同席させてもらおうか、ウチェリト。構わないだろう? 吾輩はロンジェグイダ=ブルターニャ。この森、そしてこの大陸の精霊種を束ねる長だ。これからよろしく、若きタイタンロブスター」
これまた、大物が出てきた。ウチェリトと同時期に現れた大精霊、ロンジェグイダ=ブルターニャ。彼はあそこに見える霊峰ブルターニャに住まう者。
父が海、ウチェリトが空の絶対強者ならば、彼は大地の絶対強者である。
彼もまた魔法の起源に深くかかわっており、膨大な知識をその身に宿している。彼に知略勝負を挑んだところで、敗北するのは目に見えているのだ。
ウチェリトの迫力で目線は動かせないが、俺の右手側にある大木から超強力な魔力をビシビシと感じた。
恐らく彼は、森と同じ色をした瞳でこちらを眺めているのだろう。
「お、俺はタイタンロブスターの旅人ニーズベステニー。おっしゃる通り、俺はアストライアの英雄アグロムニーの息子だ。こちらも話がしたい。どうか穏便にお願いする!」
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