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第二章 アストライア大陸
第二十三話 いざ、アストライア大陸!
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父であり、大英雄であるアグロムニーに対抗する力を得るため、旅を始めた。
しかし、力を得ると言っても俺は無知で若い。誰が、どのような力を持っているのか知らないのだ。
だから、この旅の目的は父を超えることであっても、旅の進行自体は決まっていない。波の行くまま気の向くまま旅をするのも悪くないだろう。何より、父もそうやって旅をしてきたという。
それに、俺は半ば無理やりウチョニーを連れてきた。
隣に惚れている雌がいるのだから、そう殺伐としたものではなく、楽しい旅をしても良いだろう。
ウチョニーは俺よりも遥かに大きく、実年齢こそかなり離れているが、知能を獲得したのは俺が生まれたときとさほど変わらない。ほぼ同い年みたいなもんだ。
ただ、脱皮の回数の分彼女の方が戦闘力は高いが。
「ニー、まずはどこに向かうの? こんなに浅い海域まで来ちゃったけど」
「うん、取り敢えず人間たちに会いに行こうと思うよ。目指すはアストライア大陸だ」
知識を得るのならやはり人間だ。ムドラストの知識よりもさらに多彩で、数多くの種類の知識を付けられるはず。
彼女からはもう魔法理論の全てを学んだ。あとはそれを身に着けるだけである。
「それって、例の優しいクジラを助けるため? 姉さんが言ってた悪い遊牧民を倒すの?」
「ああ、もちろんそれも気にはなってる。俺たちにも無関係ではないし、いつまた人間たちが問題を起こすかわからない。海の生態系は変動しやすいんだ。陸上よりも遥かに多様な生き物が暮らしているからな。適応しようと、皆必死に生きている。人間たちにはそれを理解してもらおう」
正直、彼らはやりすぎだ。ひとつの種類の生物を絶滅させることがどれだけ罪深いか、彼らは分かっていない。それは、あくまでも自然の一部である人間が行ってはいけないのだ。特に実害になる訳でもないのに。
とは言え、今すぐ制裁を加えるかは別問題だ。彼等にも生活がある。
元はと言えば、旱魃によって食料が減り、賊が増えたのが原因。食料事情を解決することでも事態の収束は可能なはず。
そもそも、紀元前千数百年前程度の文明しか持たない彼らが、高い航行技術を持っていたことも気になる。弱いとはいえ、海の生物であるクジラを舟で追いかけまわすのはある程度の技術力が必要だ。
もしかしたら俺以外に異世界からやってきた者がいるかもしれない。少なくとも、この時代には珍しい発明家の類がいることは確実だろう。そいつにも話を聞きたい。
気になることが多すぎるな。
「でもさ~、人間たちに会うって言っても、この姿じゃ怖がられちゃうと思うよ。人間たちはタイタンロブスターのこと良く知らない訳だし、もしかしたら襲われちゃうかも! ニーはアタシより小さいんだから気を付けなきゃ!」
「は? 俺は生態魔法で人間の姿になれるけど……。ああ、ウチョニーは水系魔法以外持ってないのか。それは考えてなかった。俺が急に話を持ちかけたから、そんなに準備もしてきてないし」
そうだった、彼女は魔法が得意ではないんだ。そんなの昔から知っていたのに、なまじ俺が日常レベルで魔法を使っているから、心のどこかで彼女も大丈夫だと思ってしまっていたのだろう。
「え!? 生態魔法って、かなり難易度の高い魔法じゃないの? いつの間にそんなの習得してたのさ!」
「ああ、師匠にそれとなくお願いしてな。実はメルビレイ戦が始まる前から行き詰まりは感じてた。だから旅に出るのは前から考えてて、ちょっと時間をかけて習得したんだよ。ま、慣れればそう難しいもんでもないし、今度ウチョニーにも教えるさ。今は取り敢えずそのままの姿で上陸しよう」
生態魔法は魔力の属性がちょっと特殊で、俺たちタイタンロブスターにとって複雑というだけだ。使えるようになれば難しいものではない。
ウチョニーでも時間をかけて脱皮を繰り返せば必ず習得できる。
「このままって……。怖がられない? ちょっと不安かも」
「大丈夫だよ、人間たちは師匠を知ってる人も多いから。師匠はかなりの頻度でこのアストライア大陸に上陸してるし、タイタンロブスターの姿も見せてるはずさ」
師匠は知識の提供として何度も村や町を訪れている。彼女も人間たちと良い関係を築くために頑張っているのだ。
師匠を知っている者たちならば、きっとウチョニーを見ても驚かないはずだ。
しかし、師匠が農作に関して知識を授けていれば、こんなに被害は拡大しなかったろうに。
おっと、彼女は知恵者と言っても地上のことは詳しくないんだった。これは俺の仕事か。
「っと、そんなこと話してると、見えてきたぞ。あれがアストライア大陸だ。大きな湾があるけど、あそこは漁港の中心のはずだから、もう少し離れた小さな湾に上陸しようか」
見えてきたのは超巨大な山脈を持つ大陸。
ムドラストの話では、東と西にある巨大な二つの大陸が重なり合ったような地形をしているそうだ。そして先程言った大きな湾というのが、この大陸の中心地点にあたる。
あそこは大陸付近だというのに水深100m近い深さがあり、漁港の中心地としても栄えているそうだ。
件の賊も、あの大きな湾を拠点に活動しているらしい。
「あ! 見て、あそこに村が見えるよ!」
「ウチョニーは目が良いな。俺は水面から出ると視界が安定しないや」
今の俺はタイタンロブスターの姿。水中の屈折の中安定した視力を保つため、目は球形で全てが中心に向かって歪んで見えるのだ。
魔法で疑似的な視力を作り出せば安定するが、それが出来ないはずの彼女はどうしてこんなにも視力がいいのか。
「取り敢えずあの港に上陸しよう。今日は宿と食事の確保だな。最悪野宿でも良いけど」
俺たちタイタンロブスターは、正直に言えば特定の家を必要としない。宿に困っても、テキトウに穴を掘って寝ればいいのだ。
俺たちにとって家とは寝るときに身を隠せる場所であって、安心して帰る場所ではない。
しかしここは人間の町。人間のことを改めて理解するためにも、彼らの生活に合わせるのが良いだろう。
そう言えば、この時代の人間に金銭という概念は存在するのだろうか。
というか、宿屋というものが存在しない可能性がある。紀元前数千年前なら、まだ物々交換に頼っていても何らおかしくはないからな。
おっと、ここから波の向きが変わった。沖から浜辺に向かっている。
波に逆らわず、特に水流操作を使わずとも浜辺まで辿り着けそうだ。
「そろそろ人間の姿になろうかな。生態魔法、人間!」
水中ではあるが、今のうちに生態魔法を使っておく。
人間たちと出会った時に、タイタンロブスターが二匹というよりは、片方が人間の方が受け入れられやすいだろう。
身体の構造が変わっていく感覚は、何度やっても慣れない。
ロブスターは脱皮によって内臓をリセットするという仮説があったが、まさにそのような変革が俺の身体に起こっている。
よし。手、足、頭、あらゆる部位の筋肉は正常に動いている。身体に問題はなさそうだ。
水流操作も充分扱えるな。ロブスターの身体とは勝手が違うが、魔力にも問題ないようで何より。
この身体は、成人男性よりも少し幼いくらいか。ロブスターの中では立派な大人だが、人間の姿だと少し幼くなってしまう。
だが身体の機能は充分大人の男性である。
「ウチョニー、ちょっと失礼するぞ」
「どうぞ~。ニーを乗せるのなんて久しぶりだな~」
俺が泳いで浜まで来たら変だろう。彼女の上に乗らせてもらう。大丈夫だ、人間の姿でも彼女の方が遥かに大きい。俺が乗った程度で負担になることはない。
さあ行こう、人間たちのいるアストライア大陸へ!
しかし、力を得ると言っても俺は無知で若い。誰が、どのような力を持っているのか知らないのだ。
だから、この旅の目的は父を超えることであっても、旅の進行自体は決まっていない。波の行くまま気の向くまま旅をするのも悪くないだろう。何より、父もそうやって旅をしてきたという。
それに、俺は半ば無理やりウチョニーを連れてきた。
隣に惚れている雌がいるのだから、そう殺伐としたものではなく、楽しい旅をしても良いだろう。
ウチョニーは俺よりも遥かに大きく、実年齢こそかなり離れているが、知能を獲得したのは俺が生まれたときとさほど変わらない。ほぼ同い年みたいなもんだ。
ただ、脱皮の回数の分彼女の方が戦闘力は高いが。
「ニー、まずはどこに向かうの? こんなに浅い海域まで来ちゃったけど」
「うん、取り敢えず人間たちに会いに行こうと思うよ。目指すはアストライア大陸だ」
知識を得るのならやはり人間だ。ムドラストの知識よりもさらに多彩で、数多くの種類の知識を付けられるはず。
彼女からはもう魔法理論の全てを学んだ。あとはそれを身に着けるだけである。
「それって、例の優しいクジラを助けるため? 姉さんが言ってた悪い遊牧民を倒すの?」
「ああ、もちろんそれも気にはなってる。俺たちにも無関係ではないし、いつまた人間たちが問題を起こすかわからない。海の生態系は変動しやすいんだ。陸上よりも遥かに多様な生き物が暮らしているからな。適応しようと、皆必死に生きている。人間たちにはそれを理解してもらおう」
正直、彼らはやりすぎだ。ひとつの種類の生物を絶滅させることがどれだけ罪深いか、彼らは分かっていない。それは、あくまでも自然の一部である人間が行ってはいけないのだ。特に実害になる訳でもないのに。
とは言え、今すぐ制裁を加えるかは別問題だ。彼等にも生活がある。
元はと言えば、旱魃によって食料が減り、賊が増えたのが原因。食料事情を解決することでも事態の収束は可能なはず。
そもそも、紀元前千数百年前程度の文明しか持たない彼らが、高い航行技術を持っていたことも気になる。弱いとはいえ、海の生物であるクジラを舟で追いかけまわすのはある程度の技術力が必要だ。
もしかしたら俺以外に異世界からやってきた者がいるかもしれない。少なくとも、この時代には珍しい発明家の類がいることは確実だろう。そいつにも話を聞きたい。
気になることが多すぎるな。
「でもさ~、人間たちに会うって言っても、この姿じゃ怖がられちゃうと思うよ。人間たちはタイタンロブスターのこと良く知らない訳だし、もしかしたら襲われちゃうかも! ニーはアタシより小さいんだから気を付けなきゃ!」
「は? 俺は生態魔法で人間の姿になれるけど……。ああ、ウチョニーは水系魔法以外持ってないのか。それは考えてなかった。俺が急に話を持ちかけたから、そんなに準備もしてきてないし」
そうだった、彼女は魔法が得意ではないんだ。そんなの昔から知っていたのに、なまじ俺が日常レベルで魔法を使っているから、心のどこかで彼女も大丈夫だと思ってしまっていたのだろう。
「え!? 生態魔法って、かなり難易度の高い魔法じゃないの? いつの間にそんなの習得してたのさ!」
「ああ、師匠にそれとなくお願いしてな。実はメルビレイ戦が始まる前から行き詰まりは感じてた。だから旅に出るのは前から考えてて、ちょっと時間をかけて習得したんだよ。ま、慣れればそう難しいもんでもないし、今度ウチョニーにも教えるさ。今は取り敢えずそのままの姿で上陸しよう」
生態魔法は魔力の属性がちょっと特殊で、俺たちタイタンロブスターにとって複雑というだけだ。使えるようになれば難しいものではない。
ウチョニーでも時間をかけて脱皮を繰り返せば必ず習得できる。
「このままって……。怖がられない? ちょっと不安かも」
「大丈夫だよ、人間たちは師匠を知ってる人も多いから。師匠はかなりの頻度でこのアストライア大陸に上陸してるし、タイタンロブスターの姿も見せてるはずさ」
師匠は知識の提供として何度も村や町を訪れている。彼女も人間たちと良い関係を築くために頑張っているのだ。
師匠を知っている者たちならば、きっとウチョニーを見ても驚かないはずだ。
しかし、師匠が農作に関して知識を授けていれば、こんなに被害は拡大しなかったろうに。
おっと、彼女は知恵者と言っても地上のことは詳しくないんだった。これは俺の仕事か。
「っと、そんなこと話してると、見えてきたぞ。あれがアストライア大陸だ。大きな湾があるけど、あそこは漁港の中心のはずだから、もう少し離れた小さな湾に上陸しようか」
見えてきたのは超巨大な山脈を持つ大陸。
ムドラストの話では、東と西にある巨大な二つの大陸が重なり合ったような地形をしているそうだ。そして先程言った大きな湾というのが、この大陸の中心地点にあたる。
あそこは大陸付近だというのに水深100m近い深さがあり、漁港の中心地としても栄えているそうだ。
件の賊も、あの大きな湾を拠点に活動しているらしい。
「あ! 見て、あそこに村が見えるよ!」
「ウチョニーは目が良いな。俺は水面から出ると視界が安定しないや」
今の俺はタイタンロブスターの姿。水中の屈折の中安定した視力を保つため、目は球形で全てが中心に向かって歪んで見えるのだ。
魔法で疑似的な視力を作り出せば安定するが、それが出来ないはずの彼女はどうしてこんなにも視力がいいのか。
「取り敢えずあの港に上陸しよう。今日は宿と食事の確保だな。最悪野宿でも良いけど」
俺たちタイタンロブスターは、正直に言えば特定の家を必要としない。宿に困っても、テキトウに穴を掘って寝ればいいのだ。
俺たちにとって家とは寝るときに身を隠せる場所であって、安心して帰る場所ではない。
しかしここは人間の町。人間のことを改めて理解するためにも、彼らの生活に合わせるのが良いだろう。
そう言えば、この時代の人間に金銭という概念は存在するのだろうか。
というか、宿屋というものが存在しない可能性がある。紀元前数千年前なら、まだ物々交換に頼っていても何らおかしくはないからな。
おっと、ここから波の向きが変わった。沖から浜辺に向かっている。
波に逆らわず、特に水流操作を使わずとも浜辺まで辿り着けそうだ。
「そろそろ人間の姿になろうかな。生態魔法、人間!」
水中ではあるが、今のうちに生態魔法を使っておく。
人間たちと出会った時に、タイタンロブスターが二匹というよりは、片方が人間の方が受け入れられやすいだろう。
身体の構造が変わっていく感覚は、何度やっても慣れない。
ロブスターは脱皮によって内臓をリセットするという仮説があったが、まさにそのような変革が俺の身体に起こっている。
よし。手、足、頭、あらゆる部位の筋肉は正常に動いている。身体に問題はなさそうだ。
水流操作も充分扱えるな。ロブスターの身体とは勝手が違うが、魔力にも問題ないようで何より。
この身体は、成人男性よりも少し幼いくらいか。ロブスターの中では立派な大人だが、人間の姿だと少し幼くなってしまう。
だが身体の機能は充分大人の男性である。
「ウチョニー、ちょっと失礼するぞ」
「どうぞ~。ニーを乗せるのなんて久しぶりだな~」
俺が泳いで浜まで来たら変だろう。彼女の上に乗らせてもらう。大丈夫だ、人間の姿でも彼女の方が遥かに大きい。俺が乗った程度で負担になることはない。
さあ行こう、人間たちのいるアストライア大陸へ!
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