初めての異世界転生

藤井 サトル

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セブンナイト

思わぬ訪問者

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 大地達がナイトガーデンへ着いてから一日が経過した。

 だけどルーナがお願いした精霊からはいい情報が聞けなかった。ただ、この広い街だ。簡単にリリアの居場所がわかるとは思っていないと言うのもある。

 だからがっかりと言う程ではないのだけれど、大地としてはリリアが心配なわけで浮かない顔になるのは許してほしいと思う。

「う~ん。今日はお城の中も探して貰った方が良さそうだよね」

 広い街の中を探す人手……と言っても精霊だが、その数が減ってしまう。それはもしリリアが街に居た場合、探し出すまでの時間の遅延に直結するだろう。

「……そうだな」

 ただ、城の方も怪しく見えてくる訳で……。だから大地は肯定すると共に一つの案を提示した。

「そのぶん俺が街の中を見てみるよ」

 減った人手はそれで解消されるのだろうが、大地は昨日、お尋ね者として追われているのだ。それが一日経った程度で取り下げられているはずはなく危険な行為だと誰もがわかる。

「ダメだよ!危険だよ!」

 ルーナが大地の手を取る。大地を止めるためだ。

「昨日は私がたまたま大地さん達を見かけたから助ける事が出来たんですよ!」

 今ここでルーナの意向を無視して押し通そうとしても押し問答になってしまうかもしれない。そう考えた大地は一旦話をそらすことにした。

「ああ。すごく助かったよ……でもルーナはどうしてここに?月の都に居なくていいのか?」

 その質問にルーナは当たり前のように答える。

「うん。私はここの王様と王妃様に会いたくてね。それに一昨日がお祭りの日だったからついでに遊んでたんだけど……結局遊ぶだけで帰るところだったの」

 それはつまり王様と王妃様に会うことが出来なかった。ということだ。だが、テッドの話と照らし合わせるとそれもそのはずである。何せ今その二人は呪いにかかっていてそれどころじゃ無いはずだから。

「……ルーナは王様と王妃様にあって何をするつもりだったんだ?」

 呪いの一件は誰が掛けているかわからない。とはいえルーナではないだろうと言うのを根底に置きながら純粋に気になった大地はそう質問をした。

「えっとね。私達、月の都の方針が少し変わったの。精霊の事でずっと隠れ続けてきていたけれど、いっそナイトガーデンの保護下に入った方が安全かなってことでそのお願いを……ね」

「なるほどな。でもそれって自分達が精霊使いだって広めることにならないか?」

 それはそれでハイリスクなのではなかろうか。前に精霊使いという理由でシーラが狙われたことを考えると得策である……とは言い難い気がしてなら無い。

 もっともこの国の王様と王妃様がどのような人柄かにもよってくるだろうけれど……。精霊使いと聞いて目の色を変えてくる輩だった場合は利用しようとしてくる可能性がある。

「うん。もちろんわかってる」

 それでもルーナは危険を承知で来たのだという。

「でもね。変わらなきゃダメだって思ったの。あの時はダイチさんとリリアちゃんが助けてくれたからよかったけど、次もダイチさん達が居るとは限らないから……少しでも安全を確保しないとダメだってみんなで決めたから……」

 その言葉には確かな意思がある。どれ程の覚悟でルーナがこの国に来たのかわからなかった大地としても止めるのは憚れた。

「そうか……それならどっちにしろリリアを探すのが最優先だ。ルーナを王様と会わせるためにな」

「リリアさんを探す事と私が王様に会えることに関係があるの?」

 さも当然の疑問を投げ掛けてくるルーナへ答えたのはフルネールだった。

「ええ。今の王様は体調不良ではなく呪われているらしいですからね。だからリリアちゃんに呪いを解いて貰うしか無いんですよ」

「ええ!?それ本当なの!?」

 驚きを隠せないルーナは勢いよくフルネールへと振り向いた。その表情には信じられないと言った驚の表情が見える。

「はい。あ!この事は街の人に広めてはダメですよ?」

 口許に人差し指を重ねて秘密事であることを示しながらフルネールは釘を刺す。

「う、うん」

「ま、そんなわけだ。直ぐに見つかるかはわからないがちょっと街を探索してくる」

 そう言って席を立った大地を見ていたレヴィアが同じように立ち上がった。

「それならアタシも行きたいわ!」

 それに続いてナルまで立ち上がる。

「はーい、わたしも!わたしもー!」

 大地としても外に出してやりたいのはやまやまだが、人数が増えれば人目につきやすくなるのも確かだ。

「レヴィアちゃんもナルちゃんも危険だからここで大人しく待ってましょうね」

 フルネールが二人の体を引き寄せて止めてくれた。こういう時にやはり頼りになるのだ。

 心の中でお礼を言いつつ大地はレヴィアとナルの頭に手を乗せた。

「直ぐ戻ってくるからな」

 大地はそう告げて部屋の出口に振り替えるとフルネールが待ったを掛ける。

「あ、大地さん。一つだけ忠告ですが今、魔法は使わない方が良いですからね?たぶん異質な魔法を感知する結界のようなものが張られています」

「まじかよ。小蜘蛛出せれば楽なんだが……わかった」


 外へ出ると大地はまず回りを確認した。騎士の姿が視認できる距離に居ないことを。もしここで見つかったらとても面倒くさい事になるのだが……幸いなことに騎士は見当たらない。

 少しの安心感を覚えた大地は素早く路地裏へと身を隠す。大通りを歩くよりはいくぶんましなはずだ。

「さて、移動開始だな」

 ぽつりと呟くと大地は目的の場所へと歩き出す。土地勘があれば目的の場所へ一目散でつけるのだろうが……こればかりは諦めて歩いて探すしかない。

 精霊達の探す方法は街中を移動し続けての事だろう。それでも広い街をぐるりと一周するだけでも時間はかかる。そしてきっと今日も同じ方法のはずだ。

 だから大地は別の方向性からリリアを探すことに決めていた。だこらこそ歩いてその店を探すしかない。

 路地裏から路地裏へと歩きわたりつつ、大通りへ慎重に顔を出して辺りを見回す。少々危険だけれど恐らくは大通りにあるはずたから致し方ない。

 そう言ったことを何度か繰り返しているうちに腹の虫が昼時を告げてきた。

 それでも、いかんせん見つからないのは普段の行いが悪いのか、それともただただ自分の探し方が下手なのか。そう思った矢先にそれは見つかった。

 と言っても看板の名前が読めないために『恐らくは』と頭につけるが……雰囲気からしてほぼ当たりだろう。

 情報収集をするならもってこいの場所、酒場だ。

 回りを見て騎士が居ない事を確認すると大地は酒場の扉をゆっくりと開いて中へ足を踏み入れた。

 アルコールの独特の匂いが鼻をかすめてくる。内装から見てもビンゴだ。満席ではないが8割りほどの席の埋まり具合に酒が入っているからか賑わいの声がそこかしこであがる。

 まず最初にやるべき事は……腹ごしらえだ。

 大地はカウンターの席をつくと酒場のマスターに顔を向けた。もちろんメニュー表を見たところで文字が読めないのだからそれでの注文は出来ない。

「お客さん。注文は?」

「そうだな……腹が減ってるんだ。ここのおすすめをくれ」

 マスターは「あいよ」と頷いてから調理を開始した。

 これで飯の方の心配は大丈夫だろう。あとは……。

 大地はカウンターに座りながら耳を傾ける。ここがもし人の少ない酒場だったら意味の無い行為であったが幸いそんな事がない。

 このざわめきの中で何かしら気になる言葉を発している者が居ないかを探すことだ。例えば……リリア。その名前を口にする者がいたら拉致した人物に近づけるかもしれない。

 だが、聞こえてくるのは、やれ俺の奥さんが給料あげろだの、やれ同僚は頭が固いだの。そんな日常の中の出来事ばかりだ。

 やはりそう簡単に有用な情報は得られないよな……。

 そう落胆していると目の前に料理が入った皿がコトリと置かれた。

「おまちどうさま」

 置かれた料理はピラフのようなもので、立ち上る湯気からは出来立てを連想させつつ、その湯気にのって運ばれてくる旨そうな匂いが食欲をそそってくる。

 大地は一旦落ち込んだ気持ちを切り替えることを兼ねて早速運ばれてきた料理に口をつけた。

「ん。旨いな」

 二口、三口と運んでいく。それを繰り返すうちに腹も徐々に満たされていく。その感覚を感じつつこの後の事を考える。

 なんと言うかこの酒場に入った理由も、もっと『ファンタジーあるある』のような冒険者達が密かな情報交換のようなものをしているんじゃないかと期待したからだ。

 なのに居るのは冒険者等ではなく、この街でゆったりと暮らしているようなおっさん達である。

 このまま話を聞いているだけではどうにもなら無いか。そう思い場所を変えてみることにした大地は席から立ち上がる。

 その時、酒場の扉が開く。入ってきたのはフードを深く被り、マントで姿を覆った人物が二人だ。そんな怪しい二人組へ大地は扉が開いた音につられて目を向けてしまった。フードの奥で大地からは見えないがあちらからは目が合ってしまっただろう。

 しまったと思いながら直ぐに目を背けてカウンターに座り直すが……もう遅かった。二人組はツカツカと足音をならしながら大地の近くへとやってくると、そのうちの一人がその名前を呼んだ。

「ダイチか?」
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