初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
261 / 281
セブンナイト

ドジっ娘はそれだけで必殺の威力

しおりを挟む
 大地はハンナの言っている意味がすんなりと入ってこなかった。リリアは小さくてちんちくりんでも弱くはない。何かあれば大地の下へ来ることだって出きるはず。なのに今の今までなんの音沙汰もなかったのだ。

「ハンナさん?それはどういう……」

 大地がもう一度聞こうとした時だった。慌てた様子で近づいてきたハンナが「きゃっ」と言う小さな悲鳴と共に足をもつれさせたのだ。それもハンナの両手は自信の胸より開けた状態であり……つまるところ胸の柔らかみを大地の胸に押し付ける形となった。

「おっと」

 そのままハンナを受け入れる形で抱きとめる。

「だ、大丈夫か?」

 心の中で『平常心!平常心!』と念仏のように唱えながらポーカーフェイスを維持するのがやっとの大地にハンナは少し驚いたせいで涙目になりながら「うぅ……ありがとうございます」と顔を上げてお礼を言う。

 わかるだろうか?彼女が動く度に伝わる柔らかい体の感触。そして頭を動かした事で香る女性特有の髪のいい匂い。ポーカーフェイスも限界に……。

「はっ!?」

 フルネールから視線を感じる。これはつまるところ……女性にドキドキしていることがバレた……?

 大地が恐る恐る顔を動かしてフルネールへ向くとすんごい面白そうな者を見るような顔をしている。

 ハンナが大地から離れる。それは惜しいと思える事でもあるが……それよりもフルネールにバレてしまったのは非常に不味いかもしれない。オモチャにされる……。

「ダイチさん。リリア様が……」

「ああ。そうだ!リリアが拐われたってどう言うことだ?」

 ここは勢いにまかせてごまかす作戦だ。それにリリアが拐われたなんて何かの勘違いだろう。

「これを……」

 そう言ってハンナが取り出したのは小さな紙だ。その紙には魔方陣が描かれている。

「なるほどな」

 わからん……。

 わからないなら頷かなければいいのに……。かっこよく見せたいんですか?ハンナさんに抱きつかれていい匂いでもしましたか?

 うぐぅ……。

「それって転移魔道具ですね。もしかしてリリアちゃんの部屋にそれが?」

 いつの間にかに横に立っていたフルネールが助け船を出してくれる。それに乗る形でわかってるぜと言うような顔で大地はハンナの方へ向く。

「はい。使われてしまった後ですから何処に行ったとかはわからないんですけど……」

「使われたとしたら昨日の夜中かな?まずはこの事を早く王様に伝えた方がいいかも?」

 フルネールとは逆サイドに立ったクラリスがハンナにそう助言するとハっとしたように顔を上げた。

「そ、そうでした!今からお城に行ってきます!」

 そう言って嵐のように現れたハンナはギルドの扉をバタンと開けて走って出ていった。

「それにしてもリリアちゃんが拐われたのに大地さんは落ち着いてますね」

「え?ああ。本当に拐われたのか?って思ってな。リリアだって何かあれば自衛できるほどの実力はあるからな。もしかしたら緊急な用事でついていったとかはないか?」

 争い事がないのがその証拠だろ。そう言うように大地は推測をたてたがフルネールはそれを一つのため息で一蹴した。

「大地さんのおバカさん!」

 フルネールの言葉と同時に両頬に軽い衝撃が走る。フルネールの両手で頬を勢いよく挟まれたのだ。

「いいですか?確かにリリアちゃんなら自衛はできるでしょう。でもそれは弱みを握られなかったときの話です。例えば相手がリリアちゃん以外の人を襲うと明言した場合、リリアちゃんなら黙ってしたがっちゃいますよ」

「……」

 フルネールが言った事は十分あり得る。それどころかそれこそ最低でもハンナに何か一言云えただろう。それがないと言うことは弱みを握られたか何かで嫌がるリリアを無理やり連れてった可能性の方が高い。

「そうだな……くそっ誰がリリアを……!」

 フルネールの言葉で目が覚めたように大地は苛立ちを露にする。だが、そんな大地をフルネールは冷めた目で見つめてくる。

「怒ってるところアレですけど、大地さんはリリアちゃんの恋人でもなんでもないのですよね?」

「いや、まぁそうだけど……」

「お姉さんのアーデやクルス王子が怒るならわかるんですけどね……」

 フルネールさん?その、俺の心を秒殺するのはやめてくれよぉ……。

 ハンナさんに欲情してたくらいですしリリアちゃんの事どうでもいいのかと思いまして?せっかくだから遊んじゃおうとも思いまして?

 いやあれは……。

 でも大地さんも男の子ですからね。抱きつかれたら反応しちゃいますよね!わかってます。まったくしょうがない大地さんですね。もしかしてリリアちゃんに抱きついたときもそんな風に鼻の下を伸ばしたていましたか?あ~あ、リリアちゃんがそんな事に気づいたらきっと傷ついちゃうだろうなぁ。大地さんがそんな人だなんて知ったら泣いて我慢しながら体を差し出すも知れませんね!大地さん、鬼畜ですね!!

 おま……笑顔でなんて事言うんだよ……。だいたい俺からリリアに抱きついたことなんて――。

 無いですか?

 欲を出しては……ナイデスヨ……。

「ダイチさんって誰か親しい人を作ってなの……?」

 口にしたやり取りだけを聞いていたクラリスが俯いてそう呟くとフルネールはとても優しそうな表情で頷いた。

「そうですよ」

 そしてクラリスの耳に唇を近づける。秘密の話と言うように小声で言うのだ。

「クラリスちゃんもチャンスはありますよ。だから……ね?先ほど言った事を実行してみてくださいね」

「――――――っ!?」

 恥ずかしさからか声になら無い声を抑えた声量で吐き出すとクラリスはフルネールへ勢いよく振り向く。

「あ、ついでなんですけど。それをやるのは八日以降にしてください。あとあと――」

 フルネールが再びお耳を拝借と言うようにクラリスの耳へ内緒話をする。

「――あの服屋さんで……っていう……が売ってるので…………って置いてくださいね?」

「え、えええええ!!そ、そんなの――!?」

 クラリスが飛び上がりそうな声で反応したがフルネールはそれを笑顔でいなしながら人差し指をたてる。

「まぁまぁ。クラリスちゃんが嫌だと言うなら無理にとは言いませんよ?これはお願いではなくてあくまでも提案なのですから。でも、きっと大地さんは見てみたいと思いますよ?」

「ふぇ!?そ、そうなのかな!?……ダイチさん……その、私でも……見てみたい?」

 え?な、何を!?

 大地さん。ここで頷けば大地さんにとってとってもいい事になりますから頷いておいてください。可愛いクラリスちゃんが見れますよ!

 いや、それは……気になるけど!……クラリスが辱しめられる事じゃないんだよな?

 それはに誓ってあり得ません。

 自分に誓うのな。って当たり前か?……まぁいいや。

「そうだな……可愛いクラリスの姿なら見てみたいな」

 大地がそう言うとクラリスの顔は真っ赤に染まっていく。ただ、もじもじする仕草から恥ずかしそうにしているのだとわかるが、こういうときに大地はどうしたらいいのかよくわからない。

「く、クラリス。大丈夫か?」

 だから反応がないクラリスの肩をポンと叩くと背筋を伸ばすような驚きかたの反応を示した。

「わひゃぁっ!?だ、大丈夫だよ!ダイチさん!あのね……楽しみにしていてね!」

 フルネールとクラリスがどんな話をしたのかを知る術がない大地は赤い顔のままギルドを出ていったクラリスを見送りながら『まさか変なこと言ってないよな……俺』と思わざるを得ないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...