初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
257 / 281
セブンナイト

新能力!狸寝入り

しおりを挟む
 この世界に来て大地は一つの能力を開花させていた。もちろんそれは、フルネールから授かった能力の話ではないがフルネールとは全くの無関係と言うことでもない。

 むしろ彼女がいたからこそ開花したとも言える。更に言うなればレヴィアも能力開花に貢献している。だが、二人は大地がそんな能力を得たことなんて知るよしもないのだ。

 能力の発動方法は自動型だ。大地の意思関係なく発動される。そう言うと危険なのではないかと思えてくるだろうが危ない能力ではない。言うなれば非戦闘系能力だ。

 ただ、戦闘向きではないけれど大地自身は意外にも気に入っている能力だ。便利かどうかは人によるとしか言えないが、この能力自体は素質があれば誰でも使えてしまうものだ。

 その能力とは……目をつむりながら目覚める事が出来ることだ。つまり、起き抜けは狸寝入りが出来ることである。

 これは普段からフルネールとレヴィアに両腕を枕にされてきた事で起き抜けの時、腕に頭を乗せられている感触が際立ってきたことで開花したのだ。

 もちろんこの能力で出来ることなんて無いだろう。だが、この起き方をすると寝ぼけないという副次効果まである。

 更に言うと狸寝入り中に誰かが近づいてくることもわかってしまう。今のように……。

「ダイチさん。今日は大丈夫そうですね。お腹に乗ってるのはモンスター姿のナルちゃんですし……?」

 公共の場で女性と女の子がくっついて居ることに問題視することが出来なくなる程、ユーナはこの状況を見慣れてしまっていた。ただそんな自分の発言にも少しだけ違和感があった。何かを忘れているような。

「ユーナ……さん?」

 いかにも今起きましたと言わんばかりの台詞を呟いたのは大地だ。

 少し狸寝入りしたのはユーナのご危険度はを計るためだ。この前は人型ナルを乗せている状態だったから怒ったのかもしれない。なれば今回はモンスターの姿……つまり狐の姿で寝てもらっていることで反応を見ていたのだ。

「あら、ダイチさん起きたのですね。昨日はお疲れさまでした。モンスターの強さや……敵についてもアーデルハイド様から聞いてますよ」

 敵とはホワイキングダムを襲っている組織の事だろう。

「俺はそんなに……頑張ったのはレヴィアやナルですよ」

「ふふ。それでもお二人を連れているのはダイチさんですからね。こんなに可愛らしい寝顔と姿なのに強いなんて不思議ですね」

 ユーナが大地の腕枕で寝ているレヴィアに近づく。その視線はレヴィアとナルを交互に彷徨わせ、今にも手を伸ばして撫でてしまいそうにしている。

「あれ?ダイチさん。どうしてフルネールさんの方向を見てるのですか?」

「いや……ユーナさんはもう少し自分の服装を考えて行動してくれ…」

 ユーナはギルドの職員だ。ギルドとは国が街の困り事を解決するために建てた施設だ。何が言いたいかと言うと……ギルドの職員は国から支給された制服に身を包む必要がある……だ。

 そして、ユーナの制服はスカートの丈が短く、大地の頭近くで膝を曲げて中腰になっている。この状況下で大地がユーナの方向を向けば見えてしまうのだ。

「えーっと……あ!そ、そうですね!」

 ようやく気づいたユーナこの人妻はそそくさと手でスカートの裾を押さえながら立ち上がる。

「そ、それじゃあダイチさん。ごゆっくり……」

 と急ぎ足でユーナがギルドに入っていくのだが、何をどうゆっくりすればいいのだろうか……。そんなことを頭の片隅に思いながら我に返ると目の前のフルネールは目を開けていた。

「大地さん。そんなに見つめられると照れちゃいますね。私の寝顔は可愛かったですか?」

「あ、いや、ま、そうだな。可愛かったな」

 ……ん?あれ、今俺何て言った?

 睡眠から覚醒してるはずなのに寝ぼけているのだろうかと思うような一言を滑らしたことに気づいて大地は徐々に顔を紅くする。

「そうですか?それならもう近くで少し見ますか?」

「え?」

 フルネールは言うや否や目をつむる。そしてゆっくりと顔を近づけてくるのだ。それは大地から見てもキスの予備動作にしか見えず、焦った大地はレヴィアとナルがいることを忘れてガバッと起き上がる。

「きゃぁっ!?」
「きゅー!?」
「きゃっ」

 レヴィアとナルはいきなり体が浮き上がるほどの勢いで動かされた為、起き上がりと同時に驚きの声をあげた。ただフルネールは驚くと言うよりは楽しそうな声ではしゃぐように声をあげていた。

 かろうじてレヴィアとフルネールは背中へ手を回して胸の内に抱き締めるように、ナルは膝の上に乗るようにして地面との接触は避けることに成功させたのはほめて欲しいところだ。

「もう、何なのよ~」

 不満の声をあげているレヴィアは指で目を軽く擦る。

「いや、すまん。ちょっとな……」

「ところで大地さん。寝起きに抱き締めるのは人目がありますからやめたほうが良いですよ?」

 あんなおふざけをしておいてどの口が言うのか……。そう思うのをぐっと堪え――。

「お前がふざけなかったらこんなことしてねぇよ!」

 堪えられなかった。

「えー?」

「えー?じゃねぇよ。ったく……」

「それで、まだ抱き締めているのは何故ですか?」

 ずっと抱き締めたままの状態である。せめてフルネールもレヴィアを抵抗なりなんなりしてくれればすぐに気づいたと思いながら大地はあわてて抱きよせる力を緩めるのだった。

 そんな朝からの一幕を終わらせると何時ものように滝業……もとい水浴びである。ただ、フルネールの黒と光の魔法により読者サービスは破壊されるが致し方ない。

 この間、レヴィアとナルは慣れたもので既に氷の生け簀いけすに水を張った状態で作り、ナルが魚をいれていた。

 でも、氷の生け簀じゃ冷たすぎで魚は死ぬんじゃなかろうか?とも思うが新鮮なのは変わらないだろうから……ヨシ!

 こうして何時ものルーティンを終わらせてホワイトキングダムへ戻っている時に一人の騎士と出会った。

 何故騎士と思ったかって?まず格好がそれっぽいからだ。上下の真っ白な鎧は聖騎士感があり、特別な騎士に見えることからアルメルスを連想させられる。

 ただ、アルメルスとの違いは兜をつけていない事だ。短い髪にその素顔は整っていてクルス王子のようイケメンなのである。

「あの、道に迷っていて……ホワイトキングダムはこちらを進めばつけるかな?」

 爽やかに言ってくる奴はイケメン力を遺憾なく発揮してきている。

 大地さんと比べれると月とスッポンかもしれませんね。

 ちょっと辛辣過ぎない?

 どちらが、とは言っていませんよ?

 いや、結局辛辣だろ……。

「まぁそうだな……俺達もホワイトキングダムに戻るから一緒に行くか?」

 何にせよ悪意を感じる事もなく、レヴィアやナルを見ても敵意すら示して来ない為、無害と判断した大地はそう提案した。

「いいのかい?助かるよ!」

 目の前の騎士は本当に困っていたのか満面の笑みを向けてお礼を言ってきた。その姿からわりと人懐こい性格なのかもしれない。

「そう言えば、今のホワイトキングダムにはあの不殺の英雄がいるんだよね!?戦争で誰も殺さず1000の敵を倒したんだよね!すごいよね!会えるかなー?」

 大地の隣に並びながら楽しそうに騎士は話す。それも憧れに似た何かを胸に秘めているように。

「あ、あー。そうだな会えると思うぞ」

「本当かい!?」

 背中越しでフルネールがクスクス笑っている気がする……いや、笑ってる!しかし、隣の騎士を無視して反応することが出来ない。

「その英雄にあってどうするんだ?」

「いや、どうするとかはないんだ。ただ一目見てみたいだけでね」

「そう言うものか。ま、ホワイトキングダムはすぐそこだし行こうぜ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...