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迷って腐って浄化して
リビングデッド化
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南の森の深部。巨大な木が多く、ただでさえ薄暗い森の中は日が落ちたことで深淵に近い黒の世界だ。その中で手元の明かりを消して物陰に隠れているのはカイだ。
大量のモンスターから逃げ切る事はできた。だがすぐに隠れなければならない事態へとおちいってしまった。体力の消耗と隠れるという緊張感からなる乱れた息が五月蝿く聞こえてしまう。
「アレは何なんだ……」
南の森の出る殆どのモンスターはCランクのハンターでも倒せるレベルだ。しかもBランクになろうとしているカイ、それとCランクのマリン、オーガスがいれば大量に出たところで問題はない。
しかし、人を守りながら戦うとなると厳しいといわざるを得ない。更に夜の暗い森ならば尚更だ。それ故に一人囮となってモンスターを引き付けるカイの判断は正解の一つだ。
ただ、この場合、深部ではBランクのモンスターと出会ってしまう可能性がある事が問題だ。Bランクモンスターの血吸いベア。南の森の中で言えば食物連鎖の頂点に君臨する。その凶悪な牙で噛みついた獲物の血を啜り食い殺すところからその名の由来が来ているモンスターだ。もしカイがコイツと戦った場合、勝率は五分五分の戦いを繰り広げることだろう。しかし、この暗い夜の森の中ということを加味すると勝率はガクッと下がる。
それ故にカイは身を隠した。木の裏に体を押し込んで血吸いベアがどこかへ去っていくのを待ち、安全に森を出ればそれでよかった。だが、それどころではなくなってしまったのだ。その南の森では王者と言ってもいい血吸いベアが別のモンスターに殺されたのだ。
そのモンスターは白く発光していた。人のような姿だが全身が真っ白く輪郭が無い。腕は手のようなモノが無く、まるで長い棘を腕としているようだ。それは足も同様なのだが歩く仕草は人そのものである。その白い人型のモンスターが血吸いベアへ近づくと一刺しで息の根を止めるのを目撃してしまった。正確には刺された後、生命を吸い取られる様に血吸いベアがみるみるうちに動かなくなっていったのだ。
まさに息をのむような光景だった。だが、それよりもさらに恐怖する出来事が起きた。動かなくなった血吸いベアが腐敗していくのだ。白い人型のモンスターが刺した腕から徐々に広がるように。所々皮が剥がれ、肉が落ちる。血吸いベアの腐敗が行き渡る。
そうして血吸いベアが朽ちていくのならまだよかった。息絶え腐敗した血吸いベアが起き上がったのだ。その姿はリビングデッドそのものである。
「モンスターがリビングデッドを作り上げる何てことあるのか……?あんなモンスター見たことないぞ」
疑問はつきないが何れにしろ、白い人型のモンスターにもリビングデッドとなった血吸いベアにも気付かれれば危険であることには代わりはない。特に白い人型のモンスターはAランク以上はあるだろう。最悪Sランクだってあり得る。
「一先ずここから抜け出さないとな……」
モンスター達とは反対方向へ視線を向けて退路を探す。その過程でカイは光る小さな女の子を見て声をあげそうになった。
まずい。もしこの状況下で幽霊とされる目の前の女の子が騒ぎ出せばモンスターに気づかれる。
カイの額から冷や汗がこぼれる。だが、慌てて逃げるのは悪手だ。じっと見つめて女の子の出方をうかがう。
ただ、この判断も悪手なのではないかとカイは考える。生きた心地がせず、逃げ出したい焦燥感に駆られ始めた時だった。
女の子が手招きをしている。それも残った片方の手では人差し指を立てて口許に近づけて音を出すなと言っているようだ。
「……静かに来いってことか?」
本当に小さい声で呟いたカイは、噂の幽霊の女の子を信じて良いものか 悩みどころではある。だが、この場所に止まるよりはいいだろう。
カイは慎重に音をたてないように姿勢を低くしたまま女の子の方へと歩いていく。その女の子にある程度近づくと、薄く光る女の子は振り向いてこの場所から離れるように動き出す。
不思議なことにその女の子から足音が一切聞こえてこない。だが、足取りは軽やかなのだ。もし、カイが同じ動きをしたら即座に重い足音が響くだろう。
ようやくモンスター達と離れられた。まだ、森の深部ではあるが少し広い空間に出てこられた。ここまできたなら音を多少出しても問題はないだろう。
「……助かったよ。ありがとう」
目の前で止まった女の子に背中からそう言って礼を言うと、その女の子は顔だけを少しカイに向けて微笑んだあと森の中へと消えていった。
音も出さずに森の中へ居なくなったが、先程まで女の子が立っていた場所を見ると平べったい靴のような足跡がある。
「彼女は幽霊じゃないのか?」
そんな感想を抱いていると森の中からガサガサと音が聞こえてきた。それに反応して即座に剣を引き抜いて構える。
「カイ!無事だったんだね!」
森の中から松明の灯りと共に見えたのはマリンとオーガスで、見慣れた顔に会えたことでカイは心の底からほっとした。
大量のモンスターから逃げ切る事はできた。だがすぐに隠れなければならない事態へとおちいってしまった。体力の消耗と隠れるという緊張感からなる乱れた息が五月蝿く聞こえてしまう。
「アレは何なんだ……」
南の森の出る殆どのモンスターはCランクのハンターでも倒せるレベルだ。しかもBランクになろうとしているカイ、それとCランクのマリン、オーガスがいれば大量に出たところで問題はない。
しかし、人を守りながら戦うとなると厳しいといわざるを得ない。更に夜の暗い森ならば尚更だ。それ故に一人囮となってモンスターを引き付けるカイの判断は正解の一つだ。
ただ、この場合、深部ではBランクのモンスターと出会ってしまう可能性がある事が問題だ。Bランクモンスターの血吸いベア。南の森の中で言えば食物連鎖の頂点に君臨する。その凶悪な牙で噛みついた獲物の血を啜り食い殺すところからその名の由来が来ているモンスターだ。もしカイがコイツと戦った場合、勝率は五分五分の戦いを繰り広げることだろう。しかし、この暗い夜の森の中ということを加味すると勝率はガクッと下がる。
それ故にカイは身を隠した。木の裏に体を押し込んで血吸いベアがどこかへ去っていくのを待ち、安全に森を出ればそれでよかった。だが、それどころではなくなってしまったのだ。その南の森では王者と言ってもいい血吸いベアが別のモンスターに殺されたのだ。
そのモンスターは白く発光していた。人のような姿だが全身が真っ白く輪郭が無い。腕は手のようなモノが無く、まるで長い棘を腕としているようだ。それは足も同様なのだが歩く仕草は人そのものである。その白い人型のモンスターが血吸いベアへ近づくと一刺しで息の根を止めるのを目撃してしまった。正確には刺された後、生命を吸い取られる様に血吸いベアがみるみるうちに動かなくなっていったのだ。
まさに息をのむような光景だった。だが、それよりもさらに恐怖する出来事が起きた。動かなくなった血吸いベアが腐敗していくのだ。白い人型のモンスターが刺した腕から徐々に広がるように。所々皮が剥がれ、肉が落ちる。血吸いベアの腐敗が行き渡る。
そうして血吸いベアが朽ちていくのならまだよかった。息絶え腐敗した血吸いベアが起き上がったのだ。その姿はリビングデッドそのものである。
「モンスターがリビングデッドを作り上げる何てことあるのか……?あんなモンスター見たことないぞ」
疑問はつきないが何れにしろ、白い人型のモンスターにもリビングデッドとなった血吸いベアにも気付かれれば危険であることには代わりはない。特に白い人型のモンスターはAランク以上はあるだろう。最悪Sランクだってあり得る。
「一先ずここから抜け出さないとな……」
モンスター達とは反対方向へ視線を向けて退路を探す。その過程でカイは光る小さな女の子を見て声をあげそうになった。
まずい。もしこの状況下で幽霊とされる目の前の女の子が騒ぎ出せばモンスターに気づかれる。
カイの額から冷や汗がこぼれる。だが、慌てて逃げるのは悪手だ。じっと見つめて女の子の出方をうかがう。
ただ、この判断も悪手なのではないかとカイは考える。生きた心地がせず、逃げ出したい焦燥感に駆られ始めた時だった。
女の子が手招きをしている。それも残った片方の手では人差し指を立てて口許に近づけて音を出すなと言っているようだ。
「……静かに来いってことか?」
本当に小さい声で呟いたカイは、噂の幽霊の女の子を信じて良いものか 悩みどころではある。だが、この場所に止まるよりはいいだろう。
カイは慎重に音をたてないように姿勢を低くしたまま女の子の方へと歩いていく。その女の子にある程度近づくと、薄く光る女の子は振り向いてこの場所から離れるように動き出す。
不思議なことにその女の子から足音が一切聞こえてこない。だが、足取りは軽やかなのだ。もし、カイが同じ動きをしたら即座に重い足音が響くだろう。
ようやくモンスター達と離れられた。まだ、森の深部ではあるが少し広い空間に出てこられた。ここまできたなら音を多少出しても問題はないだろう。
「……助かったよ。ありがとう」
目の前で止まった女の子に背中からそう言って礼を言うと、その女の子は顔だけを少しカイに向けて微笑んだあと森の中へと消えていった。
音も出さずに森の中へ居なくなったが、先程まで女の子が立っていた場所を見ると平べったい靴のような足跡がある。
「彼女は幽霊じゃないのか?」
そんな感想を抱いていると森の中からガサガサと音が聞こえてきた。それに反応して即座に剣を引き抜いて構える。
「カイ!無事だったんだね!」
森の中から松明の灯りと共に見えたのはマリンとオーガスで、見慣れた顔に会えたことでカイは心の底からほっとした。
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