初めての異世界転生

藤井 サトル

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迷って腐って浄化して

シャーリーのお部屋

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 アルテリナの誕生日パーティーが終わった。パーティーで料理の代金を払おうと思ったが、野暮だと言われて受け取ってもらえなかった。ただ言い方はあれだが5000ゴールドが浮いたのは助かる話だ。

 大地が店の外を出るとシャーリーも一緒に出てきた。そして大地の顔を覗き込みながら聞いてきた。

「ダイチさん。この後、時間ありますか?」

 時間帯的にはもう数時間で夕方になる頃合いだ。これからすることなんて何もないだろう。敢えて言うなら南の森の依頼もしたくはない……。

「やることないから時間はあるぞ」

「それなら家に来てもらえませんか?そ、その見てほしいものがあるんです」

 シャーリーは顔を赤くして少しだけモジモジしながらそう言ってくる。なんとも男心をくすぐる言動だろうか。

「わかった……けれどいいのか?」

「はい。兄さんにもさっきダイチさんを家に招く事を伝えてますから。こっちです」

 シャーリーが先導して歩いてくれる。そうして誘われるままに大地もついていくが、心の中ではこれは下心じゃなくて呼ばれたからいくのであってやましいことはない!……はず!と何に対してかの言い訳を呟く。

 そうしていると直ぐにシャーリーが立ち止まった。目の前には立派な家だ。一階建ての少し広めな家だ。

 シャーリーは家の扉の前に立つと、扉の横にある魔石へと掌を当てた。すると魔石が光り扉が横にスライドする。

「すげえな。どうなってんだ?」

「これは私と兄さんの魔力で反応してくれるんです。なので、私達以外では入ることができないんですよ」

 オートロック+指紋認証見たいなものか。ハイテクだな。

 シャーリーが家の中に入るのを見て大地も「お邪魔します」と言いながら入っていく。

「ほぉ。良い家だな」

 大地が感心しながら見渡すと、シャーリーが意外そうな顔をして大地へと振り向いた。そして直ぐに「う、うん。こんな良い家を貰っちゃったんだ」と笑顔なのだがどこかぎこちなく言った。

 それに違和感を覚えながらシャーリーの後ろを歩くと部屋に続く扉の前で止まった。

「ここが私の部屋なの」

 そう案内されてシャーリーが扉を開き部屋へ入るのに大地も続いた。

 部屋の中はタンスや棚、ベッドにテーブルがおいてあり、テーブルの上には綺麗に花が飾ってある。

「えっとね、ダイチさんに見てもらいたいものなんだけど……ちょっと待っててね」

 そう言ってごそごそと棚の中を探していく。ただこうして彼女の後ろ姿を見ているのも悪い気がして大地は何となく後ろへ振り向いた。

 ただ、やましいことはなにも起きないと思っていても、期待2割、あったら困る7割、迫られたらどうしようの妄想1割が頭をよぎる。

「あの、ダイチさん。こっち向いて下さい」

 ついにお呼びがかかった。大地はゆっくりと振り返った。そして徐々に視界に入ってくるシャーリーの服装は……特に変わっていなかった。それが当然と自分に言い聞かせつつ視点を顔に向けてから下げてシャーリーが見せたいものとして掌に乗せている物を見る。

 突如、大地の脳に衝撃が走った。いや、比喩的な意味であるが何故がここにあるのか……まるで宇宙の真理を見せられた様に固まる大地は呆然とそれを見続けた。

 え?なんで?なんでそれをシャーリーが持っているんだ?んんー?

「えーっと。シャーリーそれって……」

「うん。この子……ダイチさんが出したんだよね?」

 シャーリーの掌に乗っているのは小さいものだ。それを通してを大地は見聞き出来る……機械の小蜘蛛。もちろん攻撃性能はもっているが今はそんなことどうでも良い。問題なのはシャーリーがその性能を知っていると言うこと。

 待て待て待て待て……落ち着け俺。今俺は史上最大のピンチを目の当たりにしている。本当になんであれがここに……ああ。シーラを探すためにばらまいたからかーーーー!?このまま行けば盗撮、盗聴の最低野郎になって牢屋暮らしだ。……ま、まずは小蜘蛛が何処で見つけたかを聞こう。これが玄関げんかんならまだ言い訳が出来る!最低でもシャーリーの部屋ならまだ謝り倒せるはず!……だといいな……。

「……間違いなく俺が出した奴だ。そいつ……どこで見つけたんだ?」

「うん……えっと……ね。私――」

 よし!第一声が『私』から始まった!そこから続くのは『の』以外は無いだろう!そして、家でシャーリーの物となるのは限られるはず。つまり部屋だ。部屋を盗撮、盗聴も最低であるのは変わらないが、それでもトイレや風呂と言われないだけマシだ!

「――が」

 ん?『私』の後に『が』が続く?つまり『私が』?え?

「お風呂に入ってるときに見つけて……」

 アウトーーーーー!!!!俺の人生ゲームセット……。フルネールごめんな。これからは牢屋生活だ。

「シャーリー」

 顔を赤くして視線を逸らすように少しだけ床方向へ向いているシャーリーに声を掛けると彼女が大地へと振り向いた。

 ここからの大地の動きは達人の領域へと足を踏み入れていた。一切の無駄のない動き、それでいて力み過ぎない所作は残像が見えてくるようだった。その行動は5000ゴールドが入った袋を手に取りながら一歩下がると同時に金を床に起きつつ土下座した。

「申し訳ありませんでした!!」

「ダ、ダイチさん!?」

 その行動にシャーリーは驚きを見せるが、少し考えた後、顔を赤くした。
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