初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
213 / 281
月光の花嫁

冥土の土産って情報聞けるイベントだよね

しおりを挟む
 モリスと呼ばれた男は黒い衣装に身を包んでいた。闇にとけて敵を暗殺するための衣服だ。

「シーラは無事か?」

 プラムが落ち着いた様子で訪ねるとモリスは少しだけ伏し目がちに言う。

「巫女姫樣は……精霊の魔法でお逃げになられました。ですからその先の事までは……」

「そうか……ありがとうな」

「いえ……これくらいしか出来ない自分が不甲斐なく思います……」

 そうやって落ち込む樣を見せるモリスにプラムが再び名前を読んだ。それに反応してモリスが顔をあげる。

「シーラの事を巫女姫だなんて呼んでやるな。ワシはお前がシーラを好いているのを知っておる」

「そ、それは……!!」

 思い通りに狼狽えるモリスを見てプラムはニヤリと笑みを浮かべる。

「それにシーラも同じ気持ちと言うこともな。ワシはな幼馴染みのお主達が何時くっつくのか楽しみにしているんだが……」

 プラムがチラリと横目でモリスを見ると固まったように俯いていた。彼の言い分もシーラの言い分も一貫して身分差故に愛してはいけない……だ。

 だが、この月の都の主であり城主のプラムは考え方がまったく違う。むしろ、こんな小さい里の中で身分どうこう言っていても仕方ないと思っている。

「……これは孫を見るのもまだまだ先になるか」

 等と小声で呟くと共にモリスにもシーラにも身分云々を考えさせてしまうことに謝りたいとも思う。

「さぁここから逃げましょう!」

 モリスがそう言った直後だ。ふすまが一気に開かれた。そしてその部屋に入ってくるのはフードに白い紋様が刻まれた男。

「やっと出てきやがったな。シーラと言う娘の居場所を聞く前に少し痛め付けるか……」

 マントから両手を出してフードの男はモリスへ一気に詰め寄った。

 フードの男がモリスの腹めがけて掌を突きだした。だが、モリスはその鋭い掌打しょうだを体捌きでやり過ごす。しかし、その直後に鋭い蹴りがモリスの腹へと叩き込まれた。

「ぐっ……」

 モリスは何とか痛みに耐え小刀を振るう。

「バカが。そんな雑に振るった攻撃が当たるものか」

 攻撃距離を見極めた男が紙一重で小刀を避けると掌打を連続で打ち込んだ。

 肩、腹、額へと衝撃を受け、モリスは肺の空気を吐き出されながら床へと転がされる。

「ガハッ」

 口の中で血の味がする。たった四発……いや、掌打の3連撃が予想以上に威力が高くダメージをかなり受けてしまったのだ。

「……お前達は一体なにが目的なんだ!!」

 痛みに耐えながらモリスが立ち上がりながら叫んだ。

「そうだな……冥土の土産に教えてやるよっ!!」

 その瞬間、バキッという音と共にモリスの脇腹に激痛が走る。瞬時に蹴られたことを理解したが受け身を取ることすら出来なかった。

「まずそうだな……名乗っておこうか。俺はマルクス。ブラックボックスの副リーダーだっ!!」

 倒れているモリスを蹴りあげた拍子にマルクスのフードが脱げる。髪は短い白髪がツンツンと逆立ち、そのつり目は冷酷さを表すようだった。

 モリスが「ガフッ」と血を吐きだすと、地面についた手を体を起こす支えにしながらモリスは少しずつ立ち上がっていく。そして顔をマルクスへ向けた。

「俺たちの目的は精霊使いの力によって封印を解くことだ!」

 マルクスがモリスへと殴りかかる。モリスは振るわれた右の拳を自分の左へと受け流す。そしてすかさず逆手にもった小刀を振るう。

 だが、マルクスの頬を掠めて薄く切ることしか出来なかった。そしてそんなマルクスは自身が傷を負ったと言うのに薄い笑みを浮かべる。

「知っているか?この地にモンスターが眠っていることを」

 一撃の重さを捨てたモリスが手数を増やしていく。最初は対処していたものの受けたダメージが響き体が自分の動きに追い付いてこないのだ。

「まさか……デルラトを呼び起こすつもりか!!」

 プラムが心底驚いた様子で問い詰めるように言った。モリスを何度目かの畳の上に転がしたマルクスは頷く。

「その通りよ」

「ばかな……アレを呼び出せばこの地が崩壊するぞ!」

「そんなことは知ったこっちゃないな。我らの命はデルラトを呼び起こして暴れされる為なのだから。そしてその為には精霊使いが必要だ」

 マルクスが倒れているモリスへ再び顔を向けると蹴りあげながら言った。

「だから……あの女を何処へ逃がしやがった!!」

 宙へ打ち上げられたモリスをマルクスは真上から蹴り落として畳の上へ叩きつける。

「アイツからも連絡が入らねぇし……」

 シーラを監禁していた幻覚魔法が使える男。シーラが逃げた後に探しに行くと言って飛び出したきり連絡が一切ない。ならばもう逃がした男に聞くしかない。

  「シーラが何処に……行ったかだと?知っていても答えてやるか!!」

 息も絶え絶えといった様子のモリスが気力を振り絞って立ち上がる。そしてそれによってマルクスの頭に血が上りきってしまった。

「そうかい……それならお前は用済みだ」

 マルクスは自身の手を刃のように揃え、刺突のようにモリスの心臓めがけて突き出す――その直後、襖が勢いよく開いた。

「やめて!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...