初めての異世界転生

藤井 サトル

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月光の花嫁

囚われの城

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 宿から出た大地とリリアとシーラは月の都付近へとやって来ていた。

 ここまでの道のりは久々の出番となる空飛ぶ馬車に乗って空中三歩だ。これを召喚した時にはリリアが目をキラキラと輝かせ、シーラは何処からともなく出てきた馬車に驚いていた。

 リリアが「この馬車はお空を飛べるんですよ!」とはしゃぎながら教えるのだが半信半疑の表情でシーラは乗る。

 座席はリリアのとなりにシーラ、リリアの向かいに大地だ。三人なら余裕で乗れるのだが精霊達も乗り込んできて一気に見た目が窮屈になった。

 シーラの上にノームが、大地の隣にウンディーネが、大地の膝上にシルフが、サラマンダーは座れる場所がなくて立っていた。

 特にシルフは当たり前のように大地の膝上に座ってきて、大地が困惑しているところにリリアが「どうしたのですか?」と首をかしげてくるものだから、どう説明したら良いかで更に困惑した後、素直に「ガキシルフが膝に乗ってきたんだ」と伝えた。

 それにシルフが反応して「今日は国を丸々監視する魔法を使って疲れたんだからこれくらい良いじゃない!」と文句を良いながら頑なに退かない意思を示してくる。

 因みにシルフが言うには「ついでに大人の魅力を教えてあげる」と言うのだが、精霊に触れられる訳でもなく、見た目もガキなので大人の魅力とやらは教えてもらえなかった。

 空飛ぶ馬車が動き空中へ白馬が駆け始めるとシーラがかなり驚いた後、食い入るように外を眺めていたことも記述しておこう。

 そうしてやって来た月の都を上空から見た感じは……京都かな?と思えるほどの建物が建てられていて赤や黄色の紅葉に村が囲まれているのがとても美しい。

「あのマントの奴等が侵略者か?」

 里の中を真っ黒いフード付きのマントで姿を隠した人物がチラチラ見える。その出で立ちに組織めいたものを匂わせていた。

「はい。あれらが急に襲ってきた蛮族ばんぞくどもです」

 里の広さは村に近い規模だ。そして一つ目を引いたのが城である。

「あれは?」

 大地が4階建て程の城へと目を向けた。

「私が住んでいるお城です」

 そう言えば巫女だって言ってたな。このシーラも特別な存在なのだろうか?

「あの場所に私の妹も捕まっているかもしれません」

 城の回りにはかなりのフードマントが居ることから中にはもっといる事が予想できる。そして、それはつまり重要な場所だと言うこともわかる。

「そうか……ならいっそこのまま乗り込むか」

「「え?」」

 リリアとシーラが揃って『嘘でしょ?』と言うように顔を向けてきた。だが、あの城に親玉がいるのならそれを抑えた方が手っ取り早いと大地は考えた。


 一方、月の都の城、その天守閣てんしゅかくでは城の主と妻。そして仕える人達数人が壁際に追いやられてフードマント達に囲まれていた。

「困るんだよなぁ。巫女さんを逃がしてくれちゃって……あの男はどこに居る?」

 フードマント達の内の一人がそう訪ねる。その者の被っているフードの額にあたる部分には立体的なキューブが白色で描かれていた。それだけでこの中では特別な存在なのだとわかる。だが、こいつがリーダーではない事を知っている。何せ、この襲ってきた奴等のリーダーは二人目の娘を月光の塔へ連れ去ってしまったから。

「奴は影のような男よ。ワシとて居場所は知らん」

「知らねぇじゃすまされねぇんだよ!」

 この城の主の態度に怒りのボルテージが上がってしまい、白い紋様のフード男が拳を強く握り始めた。

 だが、目の前の城主でありシーラの親であるコイツは人質だ。シーラに言うことを聞かせるための……。

「……チッ!お前らコイツらに情報を吐かせておけ。なんなら重要人物以外は殺してもいいからよ」

 白い紋様のフードを持つ男はこれ以上この場に居ると殺してしまいかねないと思い、その部屋から出ていった。

 残った下っ端が顔を見合わせる。そして、その中の一人が言った。

「……殺しても良いのなら楽しんでから殺ってもいいよな?ちょうど何人か女がいるしよ?」

 その一言で女中達の顔が一気に青ざめた。それが更に楽しくなったのか下衆げすのいやらしい思想が波紋のように広がっていく。

「いいねぇ。やるならとっとと楽しもうぜ」

 だが、そうやって油断しながら近づいていく下っ端達の後ろから変な音が聞こえてくる。

 ――うっ!?
 ――ドサッ。

 聞こえてくるのは主にこの二つだ。それがだいたい1秒おきに聞こえてくる。最前線にいる下っ端がそれにびくついていると真横にいた奴まで一言発して崩れ落ちた。

「なっ!?」

 彼もその言葉を発した瞬間、同じように崩れ落ちる結果となる。そして、その元凶の男が城主にひざまづいて言った。

「お助けするのが遅れて申し訳ありません。プラム・ロンドメア樣」

「助かったぞ。モリス」
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