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月光の花嫁
情報の鮮度は印象に残っているかどうか
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「何か大きな音でも出してくれたなら良いんだけど」
宿を出るなり回りを見る。当然そこにウサギ耳の女性は居るはずもない。一先ず大地がとれる手段として小蜘蛛をホワイトキングダム全域にばらまくことだ。
北にある貴族御用達の服屋や廃墟区域にやったのと同じ要領でホワイトキングダム内を全てマッピングする。
時間は掛かるが今打てる手はこれだ。だけどまだ足りない。どうしたら……。
「あれ?ダイチのおっさんじゃないか」
大地を見かけた剣士のカイ、斧を武器とするマリン、魔法使いのオーガスが集まってきた。
「カイか」
「おう!今度Bランクへ昇格依頼をやるんだぜ」
「そうか……なぁ、ここいらでウサギ耳を生やした女性は見なかったか?」
せっかくの自慢を軽くスルーされてしまいテンションを少し下げてから大地へと聞いた。
「……亜人ってことか?」
「あー、たぶん?」
本当に亜人であるのかわからない為、そう答えるしかないが、言われたカイとしては曖昧な表現で少し呆れる。
「はぁ。ウサギの亜人が働いている店を知っているが?」
「そう言うのではなく、ここいらじゃ見ない服装の人なんだけど……探しているんだ」
「見かけたことはないな。……もしかして急を要することなのか?」
カイがチラリとリリアへ視線を向ける。そのリリアも心配そうな顔でピンときたカイは大地へそう訪ねる。
「ああ、ちょっと不味いかもしれないんだ」
カイは少しだけ考えるそぶりをして顔をあげた。
「3分ほど待てるか?」
「3分?」
リリアへ顔を向けてどうするかを聞こうとするが、その前に頷いて待てる意思を示してくれる。
「ああ、大丈夫だ」
カイはその言葉を受けて直ぐにその場を離れて回りの店へ入ってはすぐ出てくるを繰り返し始めた。
その意図がわからず怪訝そうに見ている大地とリリアにオーガスが説明してくれる。
「カイは人を探すのが得意でな。特に聞き込み能力だけならSランクも顔負けなほどだ」
「つまり今カイがしてくれているのは」
「聞き込みだな。この宿回りには店が結構並んでいるし、カイの知らない店は殆どないからな。ダイチさんが言う女性について何か情報を渡したいんだろう」
なるほど。とは言え3分でそんなに情報が手に入るものなのか?
「……何でカイはそこまでしてくれるんだ?」
「それは本人から直接聞くといいな」
大地の呟くような言葉にオーガスはニヤリと笑みを作った。そして、ほどなくしてカイが戻ってくる。
「おっさん。そのウサギの亜人だけど北に向かった証言が幾つか取れた。そっちの方面を探した方が良いかもしれない」
「よくそんな情報を手に入れられるな」
「殆どの人が顔見知りだからな。それに今回は亜人だし……」
「ん?そうか。なんにせよ助かったよ!」
なにか含みのある言い方だったが今はそれよりもシーラと名乗った女性を探す方が先決である。
「カイ。またな!」
「ああ。また!」
大地とリリアが北に向かって走るのを見届けたカイはボソッと言う。
「……今度こそ確りクラリスの姉さんに鍛えてもらおうかな」
「貴方……死ぬ気なの?」
「もしかして自暴自棄になっているのか?」
マリン、オーガスは未来ある若者の言葉とは思えないといった様子で言うのに対してカイは「死ぬ気も自暴自棄にもなってない!!」と叫ぶのだった。
北に向かって走る大地にリリアはついていきながら、亜人について伝えておこうと思い口を開いた。
「あの、亜人についてなのですが……」
走りながらのせいか息を少し乱して言うこととなるが、その少しの苦しみをリリアは無視をする。何せそれよりもこれから話す内容の方が言いにくいのだから。
「亜人についてってのは嫌っている人が多い。と言う話か?」
前にリリエッタがそう言っていたのを覚えている。特に少し悲しそうにしていた顔は印象的だった。
「そうですね。……いえ、嫌っている程度なら良いんです。私達が見えないところでこの国の色々な人から虐げられている話しも聞いたことがあります」
迫害されていると言うことなのか?
「確かエルフも亜人だよな?ライズやシャーリーといても嫌そうな顔をしている人を見たことがないが」
「はい。エルフのような方は魔力は高くても身体能力はそれほどではなく、何より基本的に森で住んでいるので国での馴染みは薄いから敵視されないのだと思います」
希少だと認識が違うのか……?
「ですが、動物型の亜人の方は人間よりも非常に高い身体能力を子供の時から持っていて争いが絶えず、エルフと比べると多く住んでいます」
争いね……。
「つまり亜人を怖がっているのか?だから排除しようとしているってところか」
「はい。お父様もお母様も皆仲良くするように何とかしようとしているのですが……」
「仲良く……可愛い言い方だな」
「っ!?も、もー!私は真剣に……!!」
走りながら顔を赤くして怒った様子を見せるリリアを宥める様に大地は言った。
「ああ。わかっている。それにクラリスを見れば頑張っているのだって事もな」
リリエッタも亜人だが姿を隠しているのだ。大地には明かしてくれたがそれを平然としゃべってしまうのは信頼してくれた彼女を裏切ることだ。
「……はい。クラリスさんは本当にすごいと思います。Sランクになる前も、Sランクになってからも亜人だから大変だったと思います」
あー、前にギルド長がクラリスを気にしていたのはそう言うことだったのかな。それに確かハンターが安いお金で住める場所に住んでいるんだっけな。Sランクの彼女がそこに住む理由も関係してるのかな?……ま、まぁ俺よりも良い暮らしなわけだし俺が心配するのは余計なお節介か。
「ですから……。ダイチさん。もしクラリスさんが困っていたら助けて上げてください」
リリア自身が言っていたようにその表情からも真剣さは伝わってくる。だからこそ大地も確りとした口調で応える。
「もちろんだ。クラリスだけじゃない。リリアも困った事があったら言えよ?」
「……はい」
リリアは笑顔で返した。だけど心なしかその笑顔に影が差しているようにも見えた。
宿を出るなり回りを見る。当然そこにウサギ耳の女性は居るはずもない。一先ず大地がとれる手段として小蜘蛛をホワイトキングダム全域にばらまくことだ。
北にある貴族御用達の服屋や廃墟区域にやったのと同じ要領でホワイトキングダム内を全てマッピングする。
時間は掛かるが今打てる手はこれだ。だけどまだ足りない。どうしたら……。
「あれ?ダイチのおっさんじゃないか」
大地を見かけた剣士のカイ、斧を武器とするマリン、魔法使いのオーガスが集まってきた。
「カイか」
「おう!今度Bランクへ昇格依頼をやるんだぜ」
「そうか……なぁ、ここいらでウサギ耳を生やした女性は見なかったか?」
せっかくの自慢を軽くスルーされてしまいテンションを少し下げてから大地へと聞いた。
「……亜人ってことか?」
「あー、たぶん?」
本当に亜人であるのかわからない為、そう答えるしかないが、言われたカイとしては曖昧な表現で少し呆れる。
「はぁ。ウサギの亜人が働いている店を知っているが?」
「そう言うのではなく、ここいらじゃ見ない服装の人なんだけど……探しているんだ」
「見かけたことはないな。……もしかして急を要することなのか?」
カイがチラリとリリアへ視線を向ける。そのリリアも心配そうな顔でピンときたカイは大地へそう訪ねる。
「ああ、ちょっと不味いかもしれないんだ」
カイは少しだけ考えるそぶりをして顔をあげた。
「3分ほど待てるか?」
「3分?」
リリアへ顔を向けてどうするかを聞こうとするが、その前に頷いて待てる意思を示してくれる。
「ああ、大丈夫だ」
カイはその言葉を受けて直ぐにその場を離れて回りの店へ入ってはすぐ出てくるを繰り返し始めた。
その意図がわからず怪訝そうに見ている大地とリリアにオーガスが説明してくれる。
「カイは人を探すのが得意でな。特に聞き込み能力だけならSランクも顔負けなほどだ」
「つまり今カイがしてくれているのは」
「聞き込みだな。この宿回りには店が結構並んでいるし、カイの知らない店は殆どないからな。ダイチさんが言う女性について何か情報を渡したいんだろう」
なるほど。とは言え3分でそんなに情報が手に入るものなのか?
「……何でカイはそこまでしてくれるんだ?」
「それは本人から直接聞くといいな」
大地の呟くような言葉にオーガスはニヤリと笑みを作った。そして、ほどなくしてカイが戻ってくる。
「おっさん。そのウサギの亜人だけど北に向かった証言が幾つか取れた。そっちの方面を探した方が良いかもしれない」
「よくそんな情報を手に入れられるな」
「殆どの人が顔見知りだからな。それに今回は亜人だし……」
「ん?そうか。なんにせよ助かったよ!」
なにか含みのある言い方だったが今はそれよりもシーラと名乗った女性を探す方が先決である。
「カイ。またな!」
「ああ。また!」
大地とリリアが北に向かって走るのを見届けたカイはボソッと言う。
「……今度こそ確りクラリスの姉さんに鍛えてもらおうかな」
「貴方……死ぬ気なの?」
「もしかして自暴自棄になっているのか?」
マリン、オーガスは未来ある若者の言葉とは思えないといった様子で言うのに対してカイは「死ぬ気も自暴自棄にもなってない!!」と叫ぶのだった。
北に向かって走る大地にリリアはついていきながら、亜人について伝えておこうと思い口を開いた。
「あの、亜人についてなのですが……」
走りながらのせいか息を少し乱して言うこととなるが、その少しの苦しみをリリアは無視をする。何せそれよりもこれから話す内容の方が言いにくいのだから。
「亜人についてってのは嫌っている人が多い。と言う話か?」
前にリリエッタがそう言っていたのを覚えている。特に少し悲しそうにしていた顔は印象的だった。
「そうですね。……いえ、嫌っている程度なら良いんです。私達が見えないところでこの国の色々な人から虐げられている話しも聞いたことがあります」
迫害されていると言うことなのか?
「確かエルフも亜人だよな?ライズやシャーリーといても嫌そうな顔をしている人を見たことがないが」
「はい。エルフのような方は魔力は高くても身体能力はそれほどではなく、何より基本的に森で住んでいるので国での馴染みは薄いから敵視されないのだと思います」
希少だと認識が違うのか……?
「ですが、動物型の亜人の方は人間よりも非常に高い身体能力を子供の時から持っていて争いが絶えず、エルフと比べると多く住んでいます」
争いね……。
「つまり亜人を怖がっているのか?だから排除しようとしているってところか」
「はい。お父様もお母様も皆仲良くするように何とかしようとしているのですが……」
「仲良く……可愛い言い方だな」
「っ!?も、もー!私は真剣に……!!」
走りながら顔を赤くして怒った様子を見せるリリアを宥める様に大地は言った。
「ああ。わかっている。それにクラリスを見れば頑張っているのだって事もな」
リリエッタも亜人だが姿を隠しているのだ。大地には明かしてくれたがそれを平然としゃべってしまうのは信頼してくれた彼女を裏切ることだ。
「……はい。クラリスさんは本当にすごいと思います。Sランクになる前も、Sランクになってからも亜人だから大変だったと思います」
あー、前にギルド長がクラリスを気にしていたのはそう言うことだったのかな。それに確かハンターが安いお金で住める場所に住んでいるんだっけな。Sランクの彼女がそこに住む理由も関係してるのかな?……ま、まぁ俺よりも良い暮らしなわけだし俺が心配するのは余計なお節介か。
「ですから……。ダイチさん。もしクラリスさんが困っていたら助けて上げてください」
リリア自身が言っていたようにその表情からも真剣さは伝わってくる。だからこそ大地も確りとした口調で応える。
「もちろんだ。クラリスだけじゃない。リリアも困った事があったら言えよ?」
「……はい」
リリアは笑顔で返した。だけど心なしかその笑顔に影が差しているようにも見えた。
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