初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
170 / 281
フェアリーダウン

ダレンの魔法

しおりを挟む
 白髪のイケメンが大地に声をかけてきた。もちろんこいつを大地は見たことがある。ゲルゴスが戦場まで率いたメンバーの一人だ。

「あー。えーっと……」

 だが名前が出てこない。喉まで出かかっているのだ。しかし……出てこない。

「覚えていませんか?」

 その隣からはいつぞやの銃弾を切り裂いた刀を武器とする女性のロアが立っている。

「あー。お前は覚えてるぞ。確かロアって言ったっけな」

「ええ。貴方の名前は聞いてはいるんですけど直接は伺っていませんでしたね」

 穏やかな笑みを浮かべながらそう言って訪ねてくるロアや隣の白髪イケメンに確かに名乗った事は無かった。

「そういえばそうだな。俺は大地。Cランクのハンターだ」

「え?お前Cランク?っていうかロアの事は覚えているのに俺の事は忘れてるのかよ!!」

 もう抗議してくる白髪だ。だけどコイツの印象はゾンビくらいしか覚えてないんだから仕方なくない?印象の強さって大事だよ。

 等と思いながら大地は苦笑いを浮かべてやり過ごそうとするが、それがまた白髪の怒りを買ったらしく声を荒げてきた。

「だー!!俺の名前はダレンだ!死人形《デスドール》のダレン!」

 最後の自分の名前を特に強調して教えてくれる。確かにそんな名前だったなと思い出してきた。

「あー。悪い悪い。お前らもここで捕虜しているのか?」

「まぁな。こんな場所簡単に逃げられるがそれじゃあ芸がないしな」

 何か企てていると言ったように不敵な笑みを浮かべているダレンをしり目にロアが口を開いた。

「そうは言っていますが実際にはここの人達と仲良くなって居心地がいいみたいですよ?」

「あー!!ロア!お前そういう事をばらすなよ!!」

 焦りながらロアに苦言をしているダレンを見ながらこいつもここに馴染んでいるんだなぁっとしみじみ思う。

「全く……。こんな場所じゃなければ死者の軍団でも作ってやってるのに」

 そうやって呟いたダレンは複雑そうな顔をしていた。

「そういえば。お前のその死者を操るのも魔法なんだよな?お前が作ったのか?」

 魔法がどうやって作られるのか分からないが、存在しているのなら作られていないってことはないだろう。

「いや?そもそも死者を操る魔法と言うのは回復魔法の派生で生まれたんだ」

「回復魔法の派生?嘘ついていないか?イメージ的には真逆なんだけど……」

「嘘じゃない!ただ……正確には少しだけ違うんだ」

 ダレンが回復魔法の歴史を口にする。はるか昔の話だ。

「回復魔法と言うのは勘違いされがちなんだけど人の生命力の増幅……ではないんだよ。回復魔法と言うのは人の失った細胞を作って当てはめているんだ。だから治癒じゃなくて回復魔法って言うんだ」

「……なるほど」

 神妙そうにうなずく大地を見てダレンは満足そうに続けようとしたが……。

「わからん!」

 その大地の言葉でこけそうになった。

「分からないのかよ!怪我が治るんじゃなくて、部品を当てはめて怪我していない状態に戻すってことだよ!!」

「ほー。難しそうな魔法だな」

「そりゃそうだよ。生物の細胞なんてそれぞれだし。だから回復魔法が使える人間は少ない」

「ん?失った細胞っていうけど例えば殴られた時に腫れたりするよな?それも回復魔法で治療できるよな」

「ああ。大体そう言うのも損傷した部分をうまく入れ換えてるからな」

 この話は難しいなぁ。

「それで回復魔法の派生っていうのは?」

「今言ったように回復魔法と言うのは細胞を作る魔法だ。そこに着目した一人の魔法使いがそれならば命も作れるのではないか?と思ったようだ」

 命を作るってホムンクルス見たいな考え方だなぁ。

「とはいえ魂をいちから作る何てまず無理だ。そこで考えられたのが死亡の前後の魂の動きだ。死ぬ前、死の瞬間、死んだ後。どの状態でも魂の残滓が残っていれば……観測が出来れば作り元の体に当てはめる事が出来るんじゃないか……と。人間で幾つも実験が重ねられた」

「蘇生魔法……の実験か……。中々えぐそうな絵面になってそうだな」

 ダレンは頷く。まるでその実験を知っていて、そしてその現場を思い出した様に顔を少しだけ暗くさせながら。

「まぁな。とても……公に出来るような実験じゃないのは確かさ。でも蘇生魔法は完成する事はなかった。何度やっても失敗続きで……そして少しずつ時を重ねる事でいつしか死者を動かす魔法へと変わっていったんだ。それが俺が使う死者を操る魔法だな」

「よくもまぁそんな曰くついてますよ~見たいな魔法を使う気になるな」

「そこまはまぁ便利な物は使わないともったいないだろ?それに戒めの為にこういう魔法もあると忘れない様にな。因みに俺は回復魔法も使えるぜ?」

 最後にニヤリと笑いながらダレンは得意気に言った。

 白髪で、イケメンで、難しい魔法も難なく使える。なるほど……それがパートナーに選んだ理由なのだろうか?

 そう言いたそうに大地はロアへと振り向くとその思ったことが伝わったのかロアが口を開いた。

「勘違いしないでください。私がこいつをパートナーにしたのは何時でも切り捨てられるからです」

 ばっさりと言葉でも切り捨てるロアにより涙目になるダレンの肩を大地は慰めるように優しく叩く。

「それよりダイチがこの町に来たっていうことは……捕虜になったのか?」

「ならねぇよ!!調査に来たんだよ光の玉が出るっていうな」

「光の玉?それは南の草原に出るというやつですか?」

 ダレンへ突っ込んでいたらロアが気にしたように聞いてきた。

「ん?そうだな。もしかしたらSランクのモンスターかもしれないという事を聞いてな」

「そうですか。手伝いたいところですが私たちも仕事が有りますので……」

 確かにもしSランクのモンスターだった場合、戦闘は避けられないだろう。そしてその時にこの二人の力を借りることが出来れば楽になるのは間違いない。でも今回の仕事を受けたのはレイヴンと大地なのだ。緊急性が無いのなら巻き込むわけにはいかない。

「ああ。気にするなよ。これは俺達が受けている仕事だからな」

 ロアの気づかいに笑みをもって大地が返すとロアもつられて笑みをこぼした。

「そうですか……いや、そうですね。これは無粋なことを言いました」

「そうだぞ?俺達には俺達の仕事があるんだ。まったくロアは何かとあると直ぐ突っ込むんだから。突っ込むなら夜の俺の部屋にし――でっ!?」

 ロアが無言でダレンの足の甲をかかとで思いっきり踏んだ。その衝撃と威力は骨をも砕く……まではいかなかったが、ぴょんぴょんと跳ねるダレンの姿から痛みが想像できた。

「ダレン?そんなに突っ込んで欲しいなら今すぐ突っ込んであげましょうか?この剣を……」

 剣が収められている鞘の先をダレンの喉元へと突きつける。傍から見ても目が本気まじなのがわかり、ダレンは顔を青くしながら「ストップ、ストップ!」と叫んでる。

「待ってくれ。話し合おう?」

「貴方の戯言にこれまでどれくらい付き合ってきたとお思いですか?」

「悪かったよ。でも今回も戯言だからさ許してくれない?……ベッドの・う・え・で」

 その最後の一言でロアの堪忍袋の緒が切れた。ロアが鞘を腰に戻した瞬間にチャキと音が聞こえた。それは大地も聞いたことがる濃い口を切った音だ。

 一瞬にして刃がダレンの首へ近づいていくがダレンはすんでのところで屈んでそれを避けた。後にはハラリと散った――否、斬られた白髪が少しだけ舞った。

「あぶ!あぶぅ!本当に斬ろうとしただろう!?」

「当たり前だ!下品な事ばかり言いおって!そこに直れ!」

 そう言いながら刃を煌めかせてダレンを切り落とそうとするが、ダレンはすんでのところで二撃三撃と降りかかる死を避ける。だが同じ場所をジッとしているとその内やられると思ったようでダレンは大地に「またなー!」といつの間にかに気安い仲になったかのように軽い挨拶をしながら去っていく。それを追うロアは大地に何かを言う前に目の前の男を切り伏せる事しか考えていないのか一心不乱に刀を振りながら追いかけていった。

 残った大地とレイヴンパーティはその姿を見ながら『仲いいなぁ』等と思いつつ見送るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移の特典はとんでも無いチートの能力だった。俺はこの能力を極力抑えて使わないと、魔王認定されかねん!

アノマロカリス
ファンタジー
天空 光(てんくう ひかる)は16歳の時に事故に遭いそうな小学生の女の子を救って生涯に幕を閉じた。 死んでから神様の元に行くと、弟が管理する世界に転生しないかと持ち掛けられた。 漫画やゲーム好きで、現実世界でも魔法が使えないかと勉強をして行ったら…偏った知識が天才的になっていたという少年だった。 そして光は異世界を管理する神の弟にあって特典であるギフトを授けられた。 「彼に見合った能力なら、この能力が相応しいだろう。」 そう思って与えられた能力を確認する為にステータスを表示すると、その表示された数値を見て光は吹き出した。 この世界ではこのステータスが普通なのか…んな訳ねぇよな? そう思って転移先に降り立った場所は…災害級や天災級が徘徊する危険な大森林だった。 光の目の前に突然ベヒーモスが現れ、光はファイアボールを放ったが… そのファイアボールが桁違いの威力で、ベヒーモスを消滅させてから大森林を塵に変えた。 「異世界の神様は俺に魔王討伐を依頼していたが、このままだと俺が魔王扱いされかねない!」 それから光は力を抑えて行動する事になる。 光のジョブは勇者という訳では無い。 だからどんなジョブを入手するかまだ予定はないのだが…このままだと魔王とか破壊神に成りかねない。 果たして光は転移先の異世界で生活をしていけるのだろうか? 3月17日〜20日の4日連続でHOTランキング1位になりました。 皆さん、応援ありがとうございました.°(ಗдಗ。)°.

処理中です...