初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
167 / 281
フェアリーダウン

メイドが嫌いな男の子はそんなにいない説

しおりを挟む
「それにしても貴族を殴る何て恐ろしい事する一般人がいるんだな」

 ゲルゴス達と別れたあとしばらく町の中を歩きながら先ほどの話を思い返す。

「そんな事したら牢屋に入れられるんだけど、どんだけ怖いもの知らずな奴なんですかね。兄貴」

 レイヴンが隣を歩きながらそんな怖いもの知らずの男がどういう奴なのかを考える様に空の雲を眺めながら言った。

「全くだ。正直、そんな無鉄砲な馬鹿と会いたいとも近寄りたいとも思わないな」

 やれやれ。といように両手の掌を上にあげて首を横に振った大地がミルへ視線を移すと何故か彼女はこちらをずっと見てきていた。

「な、なんだ?」

「……あんた本気で言っているの?」

 彼女の表情が信じられないものを見ているような顔へと変わっていた。

「え?えーっと?」

 妖精のミルが少し呆れた顔をしながら「まぁいいわ」と言って離れて行くのをただ見ている事しか出来なかった。

「一体何なんだ?……まぁとりあえずこれからどうするんだ?」

「今回は調査を依頼してきた人に会うのが先だな」

 レルムがその依頼人とされる人物の居場所を知っているようで迷わない足取りで町の中を歩いていく。

 一体誰なんだろうな。と思いつつも出会ってきた貴族の殆どは嫌な奴という印象が強い。そして大地の勘が告げるのは今回も嫌味たっぷりな奴な気がしてならない。だ。

「あー、俺は基本的に貴族と話す必要はないんだよな?」

 少しだけ苦々しい表情で聞く大地にレルムは頷く。

「もちろん。俺が表立って話すから後ろに控えていてくれ」

 それを聞いて安心した大地は心の鬱屈が晴れた様に晴れ晴れとした表情へと変わっていった。

「兄貴。そんなに貴族と話したくないのか?」

「ああ。貴族とはあまりいい出会いがないからな。出来れば関わりたくない」

 そう言い切る大地を見る視線は何故か悲しそうなものだった。

「ミルといいレルムといい。さっきからその視線は何なんだよ……」

「いやまぁ……有名人は大変だなって」

 他人事のようにレルムは言ってくるがこちらはたまったものではない。知らぬところで名前が広がっていちゃもんをつけられるのだから。

 ……あれ?名前でいちゃもんをつけられたことあったかな?

 気づくとレルムが足を止めていた。まだ何かあるのかと思ったがそうではないようだ。目の前には大きな門だ。立派な門は庭へと続きその先に屋敷。そこに貴族が住んでいるのだろう。

「ここがそうなんだよな?」

 確認を含めて聞くとレルムが頷き再び歩みを開始した。既に開かれている門へ足を踏み入れ綺麗な色とりどりの花が咲いている庭の中央を通っていく。

「あら……中々良い花が揃ってるのね」

 フラフラと咲いている花へとミルが飛んでいく。開いている黄色く美しく咲いている花弁に触れている絵は実に目を引く。

 大地の世界のお伽噺おとぎばなしに出てくる妖精のイメージにピッタリとはまる。

「ミル。余り離れないでくれ」

 その行動をレイヴンが窘めるように言った。てっきり何か言うにしてもレルムが動くのかと思っていただけに少々意外である。

「そうね、ちょっと残念だけど」

 そう言って尾を引きながらも素直に戻ってくるミルは確かに表情からも残念そうにしているのが伺えた。

「やっぱり花は好きなのか?」

「そうね。綺麗に咲けている花は好きよ?花によっては蜜も美味しいしね」

「おお、妖精っぽいな」

 思わず笑いながら言う大地にミルは少しムッとした顔をしながら抗議する。

「失礼ね、私は立派な妖精よ!」

 そう言いながらミルは無断で大地の肩へと座る。

「悪い悪い。ついな。飯を奢るから許してくれ。レイヴンが」

「ええ!?俺っすか?」

 急な振りで貴族の庭の中ということも忘れてレイヴンは驚きながら大地へ振り向いた。

「今手持ちないしな」

「いつもでしょ?」

 ミルの素早い切り替えしに放った言葉のトゲで大地は心臓を射抜かれるがギリギリ耐えられた。

「……あれだったら報酬の取り分から引いてもいいからよ」

「……いえ!こんな機会も滅多にないんで奢りますよ!ここでの依頼が終わったら飯にしましょう」

 少し考えたレイヴンは爽やかそうにそう言ってから目の前までに来ていた屋敷の扉についているノッカーを鳴らす。

 直ぐに扉が開くとメイド服を着た侍女が出迎えてくれた。その案内を受けて屋敷へと入っていく。

「ずっと見ているけど、やっぱりメイド服が好きなの?」

 まさかミルに難癖をつけられるとは思わなかった。まったく酷いもんだぜ。

「何を言っているんだ?丈が長くていいなとか、白と黒の割合が素晴らしいなとか、メイドっていいなとかって思いながら見てねぇよ?」

「語るに落ちてるわよ……あんた……」

 あるぇー?

「ところで『やっぱり』って俺がメイド服好き見たいに言うんだな?」

「実際に好きなんじゃないの?ここに来る前にフルネールが言ってたわよ?」

 アイツ……なんて余計な事を。

 今レヴィアと楽しんでいるだろうと思うフルネールへ恨み言を心の中で呟く。

「あのなぁ俺はメイド服が――」

 その時、前を歩いていたメイドが目的の場所へ着いたのか止まって扉へと彼女は向いた。問題はその時の所作だ。メイドはくるりと少しだけ勢いをつけて振り返ったのだ。それが故意かわざとはか分からないがその動きによって起きた作用が大地の目をくぎ付けにさせた。それは……遠心力によってメイドのスカートが少しだけふわりと浮き上がったのだ。

「好きです……」

「素直でよろしい」

「こうやって俺のシークレット情報がどんどん流出するんだ」

 しくしくと泣きまねする大地にミルが少し呆れ顔しながら大地の頬を掌で押し込んで遊ぶ。

「いいじゃない別に」

 脳天気に入ってくる妖精に性癖を暴露される事のダメージは分かるまい……。

 恨み言のような事を心で呟くもミルの声と小さな手が頬にめり込む感触は女の子とイチャついている感が醸し出していて、これはこれで良いものだと思い精神的ダメージが緩和された気がした。
 ふと視線をメイドに戻すと彼女が口を開いた。

「あの……そろそろよろしいでしょうか?」

 メイドが少し困った顔をしながらこちらを見てきていたのだ。確かに茶番をしたままでは開ける事も出来ないだろう。それに少しだけ申し訳なく思いながら掌で扉を開くように促す。

「あ。はい。すみません。どうぞ」

 メイドが一礼した後に精工に出来ている扉へ向き直るとその取手に手をかける。手に力を込めるとほんの少し音を立ててながら扉が開いていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】政略結婚をしたらいきなり子持ちになりました。義娘が私たち夫婦をニヤニヤしながら観察してきます。

水都 ミナト
恋愛
私たち夫婦は祖父同士が決めた政略結婚だ。 実際に会えたのは王都でのデビュタントだけで、それ以外は手紙で長らく交流を重ねてきた。 そんなほぼ初対面にも等しき私たちが結婚して0日目。私たちに娘ができた。 事故で両親を亡くした遠い親戚の子を引き取ることになったのだ。 夫婦としてだけでなく、家族としてもお互いのことを知っていかねば……と思っていたら、何やら義娘の様子がおかしくて――? 「推しカプ最高」って、なんのこと? ★情緒おかしめの転生幼女が推しカプ(両親)のバッドエンド回避のため奔走するハイテンション推し活コメディです ★短編版からパワーアップしてお届け。第一話から加筆しているので、短編版をすでにご覧の方も第一話よりお楽しみいただけます!

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

辺境伯はつれない妻を口説き落としたい

さくたろう
恋愛
 素行不良で王家を追われた王子ヒースは、弟の元婚約者エレノアを押し付けられ仕方なく結婚するが、彼女が行った弟の毒殺未遂の罪を着せられ、あろうことか処刑されてしまう。  だが目覚めると、なんと結婚式当日に戻っていた! こうなっては二度と死にたくない! 死んでたまるものか!  浮かんだ妙案は、エレノアの弟への未練を断ち切るべく、彼女を口説き落とすことだった。だが今までの女と違ってつれない態度のエレノアに、ヒース自身がのめり込んでしまう。やがて彼女の本当の目的を知ることになったヒースは彼女のためにあることをしようと決意する。 全7話、短編です。

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】兄妹そろって断罪中のヒロインの中に入ってしまったのだが

ヒロト
恋愛
ここは・・・乙女ゲームの世界!? しかも、ヒロインの中!? そして、妹! さっきからやかましい!! 盛り上がっている場合じゃな〜い!! マトモなのは俺だけかよ・・・

処理中です...