初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
164 / 281
フェアリーダウン

レイヴンパーティへようこそ!

しおりを挟む
「なぁ兄貴!良かったら一緒に依頼をやらないか!?」

 レイヴンの第一声は依頼のお誘いだった。

「レイヴン。まずはどんな依頼か大地に教えないと判断できないでしょ!?」

 目の前を飛んでいるのは妖精のミルだ。彼女が大地とレイヴンの間に入り叱りつけている。

「ダイチさん。依頼なんだけどここから南西に行ったところに町があるんだ。そこでの調査になるんだよ」

 レイヴンパーティの三人目であるレルムが依頼書を渡しながらそう言った。大地はその紙を受けとり目を移す。が……やはり読むことはできない。

「バカ!ダイチが文字を読めないのも知っているでしょ。渡してどうするのよ」

 今度はレルムに振り向いてミルが戒めるように言う。

「あー、俺が文字読めないのは知っているのか……」

「ここのギルドじゃ共通認識ですぜ!」

 大地の嘆きにレイヴンが嬉しそうに話す。本人は兄貴の事をわかっているんだぜ!と言うつもりなんだろうが、文字が読めない=頭が悪いのような劣等感に似たものを感じるためやるせなくなる。

「そうか……」

「因みに大地さん。文字が読めないって覚えることができないの?」

 レルムが興味本意でそう聞くと大地は依頼書へ視線を移した。

「覚えるって……このぐにゃぐにゃした棒の文字や、四角とかの記号で書かれている物をか?」

「え?……大地さんにはそう見えるのか」

 レルムが少し俯きながら考えるしぐさをとる。そして直ぐに顔をあげるとミルへ振り向いた。

「ミル。確か大地さんから何か変な感じがするって言ったよな」

「え?ええ、そうね。普通の人とは違うような感じよ」

「なるほど……もしかしたら大地さんの強さの原因が文字が読めなくしてるのかも知れないな」

 おお、当たりだ。レルムの推理力って半端ないな……。

「依頼書見てもらったのはちょっとした知的好奇心だったんだ。内容についてだけど南西の町の近くにある草原で小さな光る何かが飛んでいる事があるそうなんだ」

 小さな光る何か。大地はその言葉を聞いてミルへ視線を向けた。始めてあった時に光ながら来てくれた彼女の事を思い出したのだ。

 大地がどう考えたのか察したミルは頷いた。

「依頼書ではモンスターかもしれないという懸念で書かれてるんだけど、私も他の妖精なのかなって思ってるの。だからこの調査を引き受けてもらったのよ」

 ちらっとレイヴンへ目を向けたミルは直ぐに大地へと向く。

「妖精って外をふらふら飛んでいるものなのか?」

「ふらふらしているというより人間の世界をあまり知らないのよ。私達は妖精の国で生まれるんだけどあまり外に出ないの。たまに私のように外へ出てくるのがいるくらいよ」

 引きこもり体質か。まぁ人間は横暴な面もあるし、騙したりもするから関わりを持ちたくないのかもしれないな。

「それで国から出てきたばかりの妖精ならこの世界の事を教えてあげないとって思ったのよ」

「悪い奴に捕まる前に……か。でもその調査って俺を誘うメリット無いんじゃないのか?」

 話聞く限り難しそうな依頼ではなさそうだ。であればレイヴン達三人でも余裕だろうし、俺を誘えばその分の報酬が減る。

 ミルの後を引き継ぐようにレルムが口を開いた。

「始めてやるSランクの依頼なんだよ。もし調査してモンスターだった場合は恐らくウィスプってSランクモンスターのはずだ。小さくて光る奴なんて早々居ないからね」

「Sランクってレイヴン達はAランクじゃなかったか?」

 レイヴンがにやにやしてこちらを見ていた。まるでその話をして欲しかった子供のように。

「兄貴。俺のランクはSになったんですよ!」

「ほー。頑張ったな」

 レイヴンが嬉しそうに見せてきたギルドカードには確かにSの文字が刻まれていた。

「まぁ……クラリス姉さんにしごかれたおかげでもあるけど……」

 ホロリとクラリスが主導の修行理不尽を思い出して涙するレイヴンを無視してミルは大地の回りをくるくる回った後に大地の肩に止まる。

「私とレルムはまだA何だけどレイヴンがSだから受けられるのよ」

「……なぁ一つ聞いて良いか?」

「いいけど、何が聞きたいの?」

「レイヴンがランクをSに上げるのはわかるんだが、ミルとレルムがランクをあげる意味ってあるのか?同じパーティだろ?」

 前から少しだけ気になっていたこと、パーティで他のメンバーがランクを上げる理由だ。例えばグラネスがBランクで止まっているのはリリアから離れないためである。

 ランクA以上になればギルドから個人に依頼が飛んでくることがあるという。それはパーティを組んでいても変わらないらしい。つまり場合によってはパーティ全員にバラバラの依頼が飛んでくる可能性もあるわけだ。
 であればリーダーだけランクを上げておいたほうがいいんじゃなかろうか?

「いくつか有るんだ」

 その疑問にはレルムが口を開いてくれた。

「例えば何らかの理由でパーティを解散した場合とかだと、個人のランクがないと別のパーティに入るにも難しかったり」

 ふむ。ランク=実績なら確かにそうだ。

「複数の依頼を同時に受ける事も出来る。例えばレイヴンがSランクを、俺がAランクの依頼を同時に受けたりな」

 レルムが続けて言う。

「最後にホワイトキングダムではこれが一番大事何だが……奴隷じゃない証明になる」

 あー。

 フルネールがカイ青年達に疑われた苦い思い出が蘇る。あれもギルド登録させておけば防げた事かもしれない。

「なるほどな……。話を戻すが俺を誘うのはモンスターだった時の保険か」

「そうなんだよ兄貴。頼めないかな?」

 そう言うことなら仕方ない。それにSランクともなれば報酬はウハウハだろう。だが承諾する前にフルネールとレヴィアにも聞いてみないとな。

 大地は振り替えり掲示板へと目を向けるがフルネールの姿が見当たらない。彼女が消えていて驚いていると逆方向から「大地さん。こっちですよ?」とフルネールの声が聞こえてきた。再び振り替えると大地の頬に人指し指の感触が刺さった。

「簡単に引っ掛かるんですね♪」

「何すんだ……」

 フルネールが指を離したことでようやく振り向けるとレヴィアもすぐ近くに来ていた事に気づいた。

「レヴィアも一緒か」

「うん。大地。ちょっとフルネールと出掛けてきてもいいかしら?」

 二人で出掛けたいだなんて珍しいことを言うレヴィアだ。話ぶりからフルネールも行くのなら何も問題はないだろう。

「ん?何処か行きたいのか?」

 珍しいと思ったことでつい聞いてしまった。特に他意は無かった事だったがフルネールから「レヴィアちゃんだって女の子なんですよ!」と窘められてしまった。

「そ、そうか。悪い……。まぁそのフルネールと行ってきて構わないぞ。俺はこいつらと一緒に依頼をしてくるからさ」

 そう言って親指の先をレイヴンへと向けて言うとフルネールは了承したように頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】政略結婚をしたらいきなり子持ちになりました。義娘が私たち夫婦をニヤニヤしながら観察してきます。

水都 ミナト
恋愛
私たち夫婦は祖父同士が決めた政略結婚だ。 実際に会えたのは王都でのデビュタントだけで、それ以外は手紙で長らく交流を重ねてきた。 そんなほぼ初対面にも等しき私たちが結婚して0日目。私たちに娘ができた。 事故で両親を亡くした遠い親戚の子を引き取ることになったのだ。 夫婦としてだけでなく、家族としてもお互いのことを知っていかねば……と思っていたら、何やら義娘の様子がおかしくて――? 「推しカプ最高」って、なんのこと? ★情緒おかしめの転生幼女が推しカプ(両親)のバッドエンド回避のため奔走するハイテンション推し活コメディです ★短編版からパワーアップしてお届け。第一話から加筆しているので、短編版をすでにご覧の方も第一話よりお楽しみいただけます!

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

辺境伯はつれない妻を口説き落としたい

さくたろう
恋愛
 素行不良で王家を追われた王子ヒースは、弟の元婚約者エレノアを押し付けられ仕方なく結婚するが、彼女が行った弟の毒殺未遂の罪を着せられ、あろうことか処刑されてしまう。  だが目覚めると、なんと結婚式当日に戻っていた! こうなっては二度と死にたくない! 死んでたまるものか!  浮かんだ妙案は、エレノアの弟への未練を断ち切るべく、彼女を口説き落とすことだった。だが今までの女と違ってつれない態度のエレノアに、ヒース自身がのめり込んでしまう。やがて彼女の本当の目的を知ることになったヒースは彼女のためにあることをしようと決意する。 全7話、短編です。

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】兄妹そろって断罪中のヒロインの中に入ってしまったのだが

ヒロト
恋愛
ここは・・・乙女ゲームの世界!? しかも、ヒロインの中!? そして、妹! さっきからやかましい!! 盛り上がっている場合じゃな〜い!! マトモなのは俺だけかよ・・・

処理中です...