初めての異世界転生

藤井 サトル

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フェアリーダウン

その後のナインテイル

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 ベルナーから帰った大地は早速ギルドの中でフルネールに依頼を選んでもらっていた。依頼をこなすことはハンターだから当然ではあるのだが……義務感よりも生活のためである。

 温泉から戻ってきた大地には金がないのだ。いや……戻ってくるときに金がなくなったと言うべきか。

 クルスから受けた人探しや火山調査の依頼のお金をフルネールが勝手に使った……とかではない。その報酬で暖かかった懐が寒くなるイベントにエンカウントした事が原因となる。

 その出来事は温泉宿から出た時だ。すぐ近くの店の前で人が集まっているのに気付き耳を済ましてみるとその中から聞き逃せない単語が聞こえてきた。「モンスター」という単語だ。それを耳にした事で気になり近寄って見ることにした。

 大地が謝りながら人をかき分けて中心へと出ると、いきなり「きゅー!」と言う鳴き声と共に顔に飛び付く影があった。

 顔面でその毛むくじゃらな体を受け止めた大地は直ぐに両手で抱き上げるように引き離す。

「お前……何でこんなところにいるんだ?また人に迷惑をかけているのか?」

 大地がナインテイルの子供にそう聞くと「きゅー」と返事しながら慌てたようすで首を横に何度も振る。

「俺達もまた盗みに来たのかと疑ったんだ」

 ナインテイルの様子を見ていたら店のおっちゃんが声をかけてきた。

「だけど、ここに座ったまま動かなくてな。意図はわからないが何もしてはいないな」

 回りの人だかりの中からもその言葉にうんうんと頷く声が聞こえてくる。その様子を見る限り確かに迷惑はかけていなさそうだ。

「そうなのか……」

 大地がナインテイルを地面に下ろすと人だかりの中からレヴィアが出てきた。

「大地。その子はここの人たちに謝りに来た見たいなの。けれど回りの人たちがざわついてるし、どうしたらいいかわからないって」

 彼女自信もモンスターであるからこそ、他のモンスターの言葉がわかるのだ。

「謝りに……?って盗んだりした事のか?」

「そうみたいね」

 人間みたいな考え方をする奴だな……。

「謝りにねぇ」

 店のおっちゃんがナインテイルに近づくとナインテイルは少しだけ怖がって後ろへ一歩退く。

「だがなぁ……お前さんがここで物を盗んだことで被害にあった人もいるんだ。中には諦めはするが許しはしないと言う奴もいるだろう」

「こいつがしたのって盗んだだけじゃないのか?」

「やったことは盗んだだけさ。でもその過程で色々なことが起こる。もっとも不可抗力だろうけど……」

 店のおっちゃんは首を捻って後ろにいる男達に視線を向けた。その視線の先には焼き串を持った男も要るのが目に映る。料理を並べている最中だったのかもしれない。

「例えば後ろにいるあいつはそこの店の主人だが、そこでお前さんが盗んで逃げる時に皿を割った事もあった。その隣の奴は追いかけた時に怪我をした。宿の温泉で見かけて追い出そうとした時に施設が壊れたりした奴もいた。……損害が大きいやつは受け入れられないだろう」

 確かにナルを見たグラネスやライズは攻撃しようとしていた。もし二人が攻撃を加えてそれを避けられていたら……と考えるとあり得る話だ。

 店のおっちゃんはナインテイルを怒っているんじゃなくて守ろうとしているのだ。今までの事を良しとしない人間の手から。

「きゅー……」

 耳を頭ごと下げて鳴いているナインテイルが何を言っているかはわからないが、その様子とレヴィアの悲しそうな表情から読み取れるものはある。

 町の人が怒っているのも当然だし、諦めてくれただけでも寛容だと思う。でも……ナインテイルも必死だった事もわかるから……罪悪感を感じてうなだれているこいつを可哀想に感じてしまう。

 謝りたくても言葉を話せず、誠意を見せることすら難しい。だからどうしていいかわからずここで座って待っていた……と。

 まったく。モンスターの癖にしょうがない奴だ。しょうがないから……大人の汚いやり方でもしようかね。

「一つきいていいか?」

 大地が店のおっちゃんへと近寄ってから訪ねる。

「ん?なんだ?」

「まぁ損害が出たから許せないのはわかったよ」

 大地がはっきりそう言うと、店のおっちゃんの後ろにいる先の二人や他数人が大地の目を反らした。

「だけどよ、それって絶対に水に流せないことか?」

「おりゃあ流してもいいんだけどよ……店を持つものにとって損害って言うのはこの先の生活に響くものなんだぜ?」

「だろうな。じゃあコイツが出した損害費用は俺が全部払えばどうだ?」

 この時点で察したフルネールはニコニコしながら大地へと近づき、シャーリーやライズは結果が見えたことで明日からの大地を想ってホロリと涙する。

「お前が?いや、払ってくれるならそれに越したことはないけどよ、結構な額だぜ?」

「どれくらいだ?」

 店のおっちゃんが指で六本の指を立てて「ざっとこれくらいだ」と六万ゴールドの額を示した。大地はそれを見てからフルネールへ向く。

 どうだ?あるか?

 あーちょうどですね。

 そうか。フルネールすまん。まだ宿の生活は出来ないみたいだ。

 構いませんよ。ナルちゃんのためですもんね!

 ……お前ほんと女神だな。

 知ってます。ふふ。

 そんな脳内会話を終わらせ、フルネールからちょうどの金額を大地が受け取り、大地から店のおっちゃんへと渡した。

「それじゃあこれでこいつの謝罪を受け入れてやってくれるよな?」

 店のおっちゃんがしっかりとその金のつまった袋を受けとると後ろへ振り向いた。

「お前らはどうなんだ?これをもらっても水に流すことは出来ないか?」

 店のおっちゃんの言葉にポツリポツリと受け入れていく声が広がっていく。その中で皿を割られたという男がナインテイルへと近づいていった。
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