139 / 281
叶わぬ願いと望んだ未来
魔石調査
しおりを挟む
下まで降りきると大地は振り返り糸の階段へと目を向けた。このまま残していれば熱して良くないだろうと考え大地は蜘蛛の糸で作り上げた階段を消した。
そして大地はリリアの方へ振り向くのだが、そのリリアは魔石を険しい表情で見つめている。
「……状況はきびしいのか?」
大地の声に反応したリリアだが返す「はい」という言葉は少し暗さを伴っていた。だが、それもしかたがない。リリアが魔石から感じ取った魔力の量は予想よりもかなり集められているのだ。
魔力を直接見ることは普通の人間には出来ない。アーデルハイドでさえ感じとる感覚は鋭いが見ることは不可能である。
これが出来るのは妖精や特殊な訓練をした一部のエルフだけなのだ。また、稀に希少な才を持った人間は可能であるがリリアにはそんなものがない。
リリアが魔石を調べた少ない時間でわかったのは魔石に何故かかなりの魔力が集まってくる事だ。その魔力は熱に変換されるも地面に殆ど伝達していないようである。
リリアはその熱の行方がどこに動いているのかがある程度調べることができた。だけど、どうしてこういう事態になっているのかわからない。理解しようと更に魔力の流れを感じ取ろうと集中し始めた。
こういう時にアーデルハイドお姉ちゃんがいればもっとわかったかもしれない。この緊急事態にリリアはそんな泣き言のような事を考えてしまう。
「何が原因でこんなことに……」
このまま魔石に魔力が溜まり続ければ熱の放出が増え続ける。そしてその熱は地面ではなく回りの壁へと流れる。これにより壁の中に浸透した熱が溶岩になって流れ落ちている。
更に熱気はこの場所に留まっているだけではない。高まった熱は上空にも舞い上がっていく。その熱はやがて何処にいくか?リリアはその答えを瞬時に出していた。
風に乗りいつも温度が上がった熱はホワイトキングダムへと流れるだろう。そして、このまま放置をすれば熱は灼熱となり町を焼いてしまうかもしれない。
或いは、魔石が魔力量に耐えられず爆発するかもしれない。この規模の魔石が爆発すればこの辺り一帯は火の海に包まれてしまう。いや、それだけに留まらず爆発で砕けた山の一部がその衝撃で空に放り出され被害を広げるかもしれない。それかホワイトキングダムに降り注いでしまえばたくさんの死傷者が出てしまう。
どちらの予想でもホワイトキングダムに多大なる被害が出るのも時間の問題だ。
「今解決しないといけないことは……なに?」
自分自身に対しての質問だ。
「今の鍵となるのは……なに?」
考えていられる時間はそう多くない。その焦燥感が胸を占領し始めてくる中でリリアは必死に考える。
そもそも何故こんなにも魔石に魔力が集まっているのか。目の前には真っ赤に光る魔石。その魔力を感じとると魔石の中で魔力が内側から外側に向けて渦巻いていてる。その過程で魔力は熱になり魔石の外へ漏れでた熱が壁に伝わる流れを感じる。
「この魔力はどこからきているの……?」
今しなければいけないのは恐らく魔石に集まる魔力の道を遮断すること。普通の魔力の集まり具合ではないということは魔石に魔力を送る何かがあるはずだ。それさえ止めれば熱を産み出すことは無くなり事態は収まるかもしれない。
だが、肝心の魔力源が全くわからない。
「早く見つけない……と……」
その言葉を口にしたリリアが何もないところで一瞬バランスを崩す。すぐさまリリアは体勢を立て直した事で倒れることはなかった。
熱による体力の消耗が激しいのだ。時間が経つに連れて熱量は増える挙げ句、魔石の近くということは放出された熱を目の前で浴び続けているのだ。
耐熱用の高級マントを羽織っていても汗が直ぐに蒸発してしまう熱量だ。一瞬油断しただけで立ちくらみが起きてしまったのだ。
リリアは今倒れるわけにはいかないと帯を閉め直すつもりで意気込みを新たにする。
「なぁリリア。いっそこの魔石を壊すか?」
リリアの体調と状態を見て危険域も近いと感じた大地が短絡的な思考をもって聞くがリリアは慌てて答えた。
「だ、ダメです!今、魔石の中には膨大な魔力と熱が宿されています。その魔石という殻が壊れてしまったら魔石の中の魔力と熱が融合して大変なことが起きてしまいます。だから、魔石にどこから魔力が送られてるか調べないと……」
それは大爆発だけではなく灼熱を撒き散らすことになる。その灼熱は触れたもの全てを灰にする程の高温となり絶大な範囲の土地を焦土とかしてしまうだろう。
それはリリアが先程考えた被害より更に酷い惨状だ。
「そ、そうか……」
今の自分に出来ることは何もないのだと痛感させられた大地はそれ以上の言葉を返すことは出来なかった。
リリアの焦る表情を見るだけなのはとても辛い。何もしてやることが出来ないのだ。ちらりとグラネスを見るとグラネスはリリアを見ていない。大剣を握りしめて周辺に視線を配って警戒していた。
グラネスは信頼しているのだ。リリアなら必ず打開策を見つけると。そして、その邪魔が入らないようにするためにグラネスは何時でも対処出来るように一部の隙も見せてはいけないのだ。
そしてそれこそがリリアとグラネスのパーティスタイルだ。魔法知識の事についてグラネスはリリアを全面的に信頼して任せる。二人はそうやって数多くの依頼をこなしてきた。
何もしてやれる事がないとは……余りにも愚かな考えだったと大地は反省するしかない。今まで何かとあると守ってきたから?リリアを守らないといけないと勝手に考えていた。思い上がりも甚だしい。
大地はショットガンを召喚する。そしてグラネスの真似をしてモンスターがいつ現れても対処出来るように警戒し始めた。
今リリアにすることは信じることだ。それ以外は全て邪魔になる。何せ彼女はハンターの大先輩なのだから……。
その行動からリリアも大地が示す意味を察した。大地が自分を信じてくれた事……それが嬉しくなる。だからその信頼には応えたいとリリアは強く思いながら魔石へ挑む。
今も尚、魔石へ送る魔力の源はわからない。もしかしたら大気中に漂う魔力を調べればわかるかもしれないのだが……大気中の魔力が薄ければそれも難しい。漂う微細な魔力を感知することなんてアーデルハイドですら出来はしない。……でも。
出来ないじゃダメ!やらなきゃ皆が死んじゃうから……!出来なきゃダメなんです!!
リリアは魔石から目を離して大地達がいる広い空間を一度視野に入れた。そして、目をつむって自身の視界を遮る。視界という大事な情報が減ることでより魔力感知に集中出来るようにするための苦肉の策だ。
今大きくて濃い魔力は二つ。一つは後方にある熱気を吐き出し続けている魔石だ。そしてもう一つは自分の前方にいる大地が内包する魔力だ。
確かフルネールは大地が物凄い魔力を有していると示唆していた。正確に魔力量を感じることは出来ない。ただ大きいことだけはわかる。
今必要なのはその情報ではない。もっと小さく、もっと微量で、もっと薄い。そんな魔力を感知し続けなければいけない。そしてその上で異なる魔力の流れを探さなければいけない。
心の内で『無理だ』と、ふと思う瞬間をすぐに「そんなことない!」と心で叫び振り払う。しかし、熱量が増え続ける中で一向に魔力が感じ取れず焦燥感が募り集中力が乱れ始める。
やらなきゃいけないのに!出来なきゃいけないのに!時間がないのに!
「どうしても感じ取れないよぉ…………」
泣いてる場合でも泣き言を漏らしている場合でもないのに……声が震える。
どうしたらいいのかわからない。でも海龍の時のように誰かが大地が代わりに助けてくれる事なんてない。
リリアの頭の中は既に不安と絶望。そして焦りだけで敷き詰められてしまった。期待に応えたかったのに……何も出来ない。…………もう――む。
「リリア!」
「ひゃい!……あ」
反射的に目を開いたリリアがその視界いっぱいに見たものは……大地だった。
「ダイチ……さん……わた……わたし……」
気が緩んだ……出来そうにないと。リリアは呟いてしまいそうになるところをギリギリで堪えた。でも察しのいい大地には伝わってしまっているだろう。それなのに彼は何一つ言葉を発しずリリアの瞳を見ているだけだった。
ただそれは、困り果てた様に呟いたリリアに大地はつい名前を読んでしまっただけなのだ。いてもたってもいられずに。先の事なんて考えられなかった大地はその後になんて声を掛けたらいいのかなんてわからずに……。
そこでズボンのポケットに違和感がある事に気づいた。そこから連想してフルネールに押し渡されたものがある事を思い出した。それはいつかの雪山に行く時にフルネールが購入した玩具であり大地が苦手とする『魔力を込める』技法を用いる事で音が鳴る魔道具だ。
大地のあやつる武器ハンドバスター等は腕に魔力を集めれば勝手に吸い取ってくれるのだが魔道具はそうはいかない。自分の体から魔力を切り離してその魔道具に詰めなければいけないのだ。つまり魔力をコントロールするという事。大体の人なら子供の時から魔道具に触れる事が多いため自然と使えるようになるもの……要は慣れである。
大地はポケットに手を突っ込だ大地は目当ての物を握りしめる。
……いま、こっそり練習してきた成果を見せる時だ。
魔力を手に集め魔力を切り離し魔道具へ送り込んだ後、ポケットから手を引き抜いた。そしてリリアに語り掛けるのだ。
「なぁリリア。そんなに困っているなら……フルネールを呼び出すか?」
「え!?」
やっと口を開いたと思いきやとんでもない事を言いだす大地にリリア固まるしかなかった。だけどその内に思う事は見限られたのかもしれないという思いだ。そして確かに大地なら女神を呼び出す事が出来るかもしれない。そして今の状況ならそうしたほうがいいのかもしれない。
それが最善だとわかる。わかるけれど……暗くなるこの気持ちは抑えられない。
俯き始めたリリアに向けて大地は「それじゃあ手を出してくれ」と。その言葉に意味が分からず顔を反射的に上げるが大地はリリアが行動してくれることを待っている。だからついおずおずと手をだすと大地の手が重なったと思いきや何かを渡された。
「フルネールがこれを自分だと思えって言ってたぞ」
それは掌に乗る程の大きさでフラッシュバードを模した魔道具。そう視認した瞬間、魔道具から音が鳴った――。
ぷえぇ~~~。
そんな気が抜けるような間抜けの音がさして大きくもない音量で鳴ったのだ。魔道具に埋め込まれている魔石へ均一に魔力が込められていないのだろう。これに魔力を入れた物は驚くほど魔力コントロールが下手なのだろう。この魔力コントロールが下手くその相手は直ぐに大地の事だと気づく。何せ渡してきた本人なのだから……。
「あれ?練習してた時よりもさらに変な音になったぞ?」
更に本人の口からもそれを示唆する言葉が聞こえてきたのだから間違いない。しかも彼は言い訳めいた事をあせりなが真剣そのもの表情で首をかしげているのだから……間抜けな音と相乗効果で……笑えて来てしまった。
クスクスと笑いながらリリアは「魔道具の中の魔石に魔力が行き渡っていないんですよ」と伝えると「まじか……練習の成果がこれじゃあ俺には才能なんてないのかね」と少々愚痴りながら言う。
「練習ですか?」
「ああ。寝る前にフルネールに少し教わってな……これでも練習してた時はまだましな音が鳴ったんだけど」
練習……魔道具を込められない大人はいないわけではない。それは子供の時から魔道具を触らなかったことで生まれる弊害ともいえる。何故なら年を取れば感性が鈍ってくる為、魔力コントロールの習得が難しくなってくるのだ。それを知ると大抵の大人は諦めてしまう。
別の世界から来た大地は尚更、魔力のコントロールと言うものは難しいはずなのだ。それなのに彼は音を鳴らすまでに至ったのだ。……こんなにすごい事なんてない。
「才能ないなんて……有りえないです……」
ボソリとリリアが言う。
別世界から来た大地がそこまでしたのに……私は……諦めたくも逃げたくもない!
リリアは視線を掌から上へと持ち上げる。その瞳には再び光を宿ったのが分かった大地はリリアの邪魔にならない様にそっと横へ移動した。
大地が移動してくれたことで目の前には火口内部が見える。だからリリアはこの広間を視界に収める。今見るのは大地じゃない。玩具でもない。この空間だから!
再びリリアは魔力感知へ挑む。それも先ほど切り捨てた視界という大事な情報を持ったまま……否。むしろ全てを視る為に目を見開き魔力を探る。
「私に世界を……視せて!!」
そして大地はリリアの方へ振り向くのだが、そのリリアは魔石を険しい表情で見つめている。
「……状況はきびしいのか?」
大地の声に反応したリリアだが返す「はい」という言葉は少し暗さを伴っていた。だが、それもしかたがない。リリアが魔石から感じ取った魔力の量は予想よりもかなり集められているのだ。
魔力を直接見ることは普通の人間には出来ない。アーデルハイドでさえ感じとる感覚は鋭いが見ることは不可能である。
これが出来るのは妖精や特殊な訓練をした一部のエルフだけなのだ。また、稀に希少な才を持った人間は可能であるがリリアにはそんなものがない。
リリアが魔石を調べた少ない時間でわかったのは魔石に何故かかなりの魔力が集まってくる事だ。その魔力は熱に変換されるも地面に殆ど伝達していないようである。
リリアはその熱の行方がどこに動いているのかがある程度調べることができた。だけど、どうしてこういう事態になっているのかわからない。理解しようと更に魔力の流れを感じ取ろうと集中し始めた。
こういう時にアーデルハイドお姉ちゃんがいればもっとわかったかもしれない。この緊急事態にリリアはそんな泣き言のような事を考えてしまう。
「何が原因でこんなことに……」
このまま魔石に魔力が溜まり続ければ熱の放出が増え続ける。そしてその熱は地面ではなく回りの壁へと流れる。これにより壁の中に浸透した熱が溶岩になって流れ落ちている。
更に熱気はこの場所に留まっているだけではない。高まった熱は上空にも舞い上がっていく。その熱はやがて何処にいくか?リリアはその答えを瞬時に出していた。
風に乗りいつも温度が上がった熱はホワイトキングダムへと流れるだろう。そして、このまま放置をすれば熱は灼熱となり町を焼いてしまうかもしれない。
或いは、魔石が魔力量に耐えられず爆発するかもしれない。この規模の魔石が爆発すればこの辺り一帯は火の海に包まれてしまう。いや、それだけに留まらず爆発で砕けた山の一部がその衝撃で空に放り出され被害を広げるかもしれない。それかホワイトキングダムに降り注いでしまえばたくさんの死傷者が出てしまう。
どちらの予想でもホワイトキングダムに多大なる被害が出るのも時間の問題だ。
「今解決しないといけないことは……なに?」
自分自身に対しての質問だ。
「今の鍵となるのは……なに?」
考えていられる時間はそう多くない。その焦燥感が胸を占領し始めてくる中でリリアは必死に考える。
そもそも何故こんなにも魔石に魔力が集まっているのか。目の前には真っ赤に光る魔石。その魔力を感じとると魔石の中で魔力が内側から外側に向けて渦巻いていてる。その過程で魔力は熱になり魔石の外へ漏れでた熱が壁に伝わる流れを感じる。
「この魔力はどこからきているの……?」
今しなければいけないのは恐らく魔石に集まる魔力の道を遮断すること。普通の魔力の集まり具合ではないということは魔石に魔力を送る何かがあるはずだ。それさえ止めれば熱を産み出すことは無くなり事態は収まるかもしれない。
だが、肝心の魔力源が全くわからない。
「早く見つけない……と……」
その言葉を口にしたリリアが何もないところで一瞬バランスを崩す。すぐさまリリアは体勢を立て直した事で倒れることはなかった。
熱による体力の消耗が激しいのだ。時間が経つに連れて熱量は増える挙げ句、魔石の近くということは放出された熱を目の前で浴び続けているのだ。
耐熱用の高級マントを羽織っていても汗が直ぐに蒸発してしまう熱量だ。一瞬油断しただけで立ちくらみが起きてしまったのだ。
リリアは今倒れるわけにはいかないと帯を閉め直すつもりで意気込みを新たにする。
「なぁリリア。いっそこの魔石を壊すか?」
リリアの体調と状態を見て危険域も近いと感じた大地が短絡的な思考をもって聞くがリリアは慌てて答えた。
「だ、ダメです!今、魔石の中には膨大な魔力と熱が宿されています。その魔石という殻が壊れてしまったら魔石の中の魔力と熱が融合して大変なことが起きてしまいます。だから、魔石にどこから魔力が送られてるか調べないと……」
それは大爆発だけではなく灼熱を撒き散らすことになる。その灼熱は触れたもの全てを灰にする程の高温となり絶大な範囲の土地を焦土とかしてしまうだろう。
それはリリアが先程考えた被害より更に酷い惨状だ。
「そ、そうか……」
今の自分に出来ることは何もないのだと痛感させられた大地はそれ以上の言葉を返すことは出来なかった。
リリアの焦る表情を見るだけなのはとても辛い。何もしてやることが出来ないのだ。ちらりとグラネスを見るとグラネスはリリアを見ていない。大剣を握りしめて周辺に視線を配って警戒していた。
グラネスは信頼しているのだ。リリアなら必ず打開策を見つけると。そして、その邪魔が入らないようにするためにグラネスは何時でも対処出来るように一部の隙も見せてはいけないのだ。
そしてそれこそがリリアとグラネスのパーティスタイルだ。魔法知識の事についてグラネスはリリアを全面的に信頼して任せる。二人はそうやって数多くの依頼をこなしてきた。
何もしてやれる事がないとは……余りにも愚かな考えだったと大地は反省するしかない。今まで何かとあると守ってきたから?リリアを守らないといけないと勝手に考えていた。思い上がりも甚だしい。
大地はショットガンを召喚する。そしてグラネスの真似をしてモンスターがいつ現れても対処出来るように警戒し始めた。
今リリアにすることは信じることだ。それ以外は全て邪魔になる。何せ彼女はハンターの大先輩なのだから……。
その行動からリリアも大地が示す意味を察した。大地が自分を信じてくれた事……それが嬉しくなる。だからその信頼には応えたいとリリアは強く思いながら魔石へ挑む。
今も尚、魔石へ送る魔力の源はわからない。もしかしたら大気中に漂う魔力を調べればわかるかもしれないのだが……大気中の魔力が薄ければそれも難しい。漂う微細な魔力を感知することなんてアーデルハイドですら出来はしない。……でも。
出来ないじゃダメ!やらなきゃ皆が死んじゃうから……!出来なきゃダメなんです!!
リリアは魔石から目を離して大地達がいる広い空間を一度視野に入れた。そして、目をつむって自身の視界を遮る。視界という大事な情報が減ることでより魔力感知に集中出来るようにするための苦肉の策だ。
今大きくて濃い魔力は二つ。一つは後方にある熱気を吐き出し続けている魔石だ。そしてもう一つは自分の前方にいる大地が内包する魔力だ。
確かフルネールは大地が物凄い魔力を有していると示唆していた。正確に魔力量を感じることは出来ない。ただ大きいことだけはわかる。
今必要なのはその情報ではない。もっと小さく、もっと微量で、もっと薄い。そんな魔力を感知し続けなければいけない。そしてその上で異なる魔力の流れを探さなければいけない。
心の内で『無理だ』と、ふと思う瞬間をすぐに「そんなことない!」と心で叫び振り払う。しかし、熱量が増え続ける中で一向に魔力が感じ取れず焦燥感が募り集中力が乱れ始める。
やらなきゃいけないのに!出来なきゃいけないのに!時間がないのに!
「どうしても感じ取れないよぉ…………」
泣いてる場合でも泣き言を漏らしている場合でもないのに……声が震える。
どうしたらいいのかわからない。でも海龍の時のように誰かが大地が代わりに助けてくれる事なんてない。
リリアの頭の中は既に不安と絶望。そして焦りだけで敷き詰められてしまった。期待に応えたかったのに……何も出来ない。…………もう――む。
「リリア!」
「ひゃい!……あ」
反射的に目を開いたリリアがその視界いっぱいに見たものは……大地だった。
「ダイチ……さん……わた……わたし……」
気が緩んだ……出来そうにないと。リリアは呟いてしまいそうになるところをギリギリで堪えた。でも察しのいい大地には伝わってしまっているだろう。それなのに彼は何一つ言葉を発しずリリアの瞳を見ているだけだった。
ただそれは、困り果てた様に呟いたリリアに大地はつい名前を読んでしまっただけなのだ。いてもたってもいられずに。先の事なんて考えられなかった大地はその後になんて声を掛けたらいいのかなんてわからずに……。
そこでズボンのポケットに違和感がある事に気づいた。そこから連想してフルネールに押し渡されたものがある事を思い出した。それはいつかの雪山に行く時にフルネールが購入した玩具であり大地が苦手とする『魔力を込める』技法を用いる事で音が鳴る魔道具だ。
大地のあやつる武器ハンドバスター等は腕に魔力を集めれば勝手に吸い取ってくれるのだが魔道具はそうはいかない。自分の体から魔力を切り離してその魔道具に詰めなければいけないのだ。つまり魔力をコントロールするという事。大体の人なら子供の時から魔道具に触れる事が多いため自然と使えるようになるもの……要は慣れである。
大地はポケットに手を突っ込だ大地は目当ての物を握りしめる。
……いま、こっそり練習してきた成果を見せる時だ。
魔力を手に集め魔力を切り離し魔道具へ送り込んだ後、ポケットから手を引き抜いた。そしてリリアに語り掛けるのだ。
「なぁリリア。そんなに困っているなら……フルネールを呼び出すか?」
「え!?」
やっと口を開いたと思いきやとんでもない事を言いだす大地にリリア固まるしかなかった。だけどその内に思う事は見限られたのかもしれないという思いだ。そして確かに大地なら女神を呼び出す事が出来るかもしれない。そして今の状況ならそうしたほうがいいのかもしれない。
それが最善だとわかる。わかるけれど……暗くなるこの気持ちは抑えられない。
俯き始めたリリアに向けて大地は「それじゃあ手を出してくれ」と。その言葉に意味が分からず顔を反射的に上げるが大地はリリアが行動してくれることを待っている。だからついおずおずと手をだすと大地の手が重なったと思いきや何かを渡された。
「フルネールがこれを自分だと思えって言ってたぞ」
それは掌に乗る程の大きさでフラッシュバードを模した魔道具。そう視認した瞬間、魔道具から音が鳴った――。
ぷえぇ~~~。
そんな気が抜けるような間抜けの音がさして大きくもない音量で鳴ったのだ。魔道具に埋め込まれている魔石へ均一に魔力が込められていないのだろう。これに魔力を入れた物は驚くほど魔力コントロールが下手なのだろう。この魔力コントロールが下手くその相手は直ぐに大地の事だと気づく。何せ渡してきた本人なのだから……。
「あれ?練習してた時よりもさらに変な音になったぞ?」
更に本人の口からもそれを示唆する言葉が聞こえてきたのだから間違いない。しかも彼は言い訳めいた事をあせりなが真剣そのもの表情で首をかしげているのだから……間抜けな音と相乗効果で……笑えて来てしまった。
クスクスと笑いながらリリアは「魔道具の中の魔石に魔力が行き渡っていないんですよ」と伝えると「まじか……練習の成果がこれじゃあ俺には才能なんてないのかね」と少々愚痴りながら言う。
「練習ですか?」
「ああ。寝る前にフルネールに少し教わってな……これでも練習してた時はまだましな音が鳴ったんだけど」
練習……魔道具を込められない大人はいないわけではない。それは子供の時から魔道具を触らなかったことで生まれる弊害ともいえる。何故なら年を取れば感性が鈍ってくる為、魔力コントロールの習得が難しくなってくるのだ。それを知ると大抵の大人は諦めてしまう。
別の世界から来た大地は尚更、魔力のコントロールと言うものは難しいはずなのだ。それなのに彼は音を鳴らすまでに至ったのだ。……こんなにすごい事なんてない。
「才能ないなんて……有りえないです……」
ボソリとリリアが言う。
別世界から来た大地がそこまでしたのに……私は……諦めたくも逃げたくもない!
リリアは視線を掌から上へと持ち上げる。その瞳には再び光を宿ったのが分かった大地はリリアの邪魔にならない様にそっと横へ移動した。
大地が移動してくれたことで目の前には火口内部が見える。だからリリアはこの広間を視界に収める。今見るのは大地じゃない。玩具でもない。この空間だから!
再びリリアは魔力感知へ挑む。それも先ほど切り捨てた視界という大事な情報を持ったまま……否。むしろ全てを視る為に目を見開き魔力を探る。
「私に世界を……視せて!!」
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる