初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

魔石調査

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 下まで降りきると大地は振り返り糸の階段へと目を向けた。このまま残していれば熱して良くないだろうと考え大地は蜘蛛の糸で作り上げた階段を消した。

 そして大地はリリアの方へ振り向くのだが、そのリリアは魔石を険しい表情で見つめている。

「……状況はきびしいのか?」

 大地の声に反応したリリアだが返す「はい」という言葉は少し暗さを伴っていた。だが、それもしかたがない。リリアが魔石から感じ取った魔力の量は予想よりもかなり集められているのだ。

 魔力を直接見ることは普通の人間には出来ない。アーデルハイドでさえ感じとる感覚は鋭いが見ることは不可能である。
 これが出来るのは妖精や特殊な訓練をした一部のエルフだけなのだ。また、稀に希少な才を持った人間は可能であるがリリアにはそんなものがない。

 リリアが魔石を調べた少ない時間でわかったのは魔石に何故かかなりの魔力が集まってくる事だ。その魔力は熱に変換されるも地面に殆ど伝達していないようである。

 リリアはその熱の行方がどこに動いているのかがある程度調べることができた。だけど、どうしてこういう事態になっているのかわからない。理解しようと更に魔力の流れを感じ取ろうと集中し始めた。

 こういう時にアーデルハイドお姉ちゃんがいればもっとわかったかもしれない。この緊急事態にリリアはそんな泣き言のような事を考えてしまう。

「何が原因でこんなことに……」

 このまま魔石に魔力が溜まり続ければ熱の放出が増え続ける。そしてその熱は地面ではなく回りの壁へと流れる。これにより壁の中に浸透した熱が溶岩になって流れ落ちている。

 更に熱気はこの場所に留まっているだけではない。高まった熱は上空にも舞い上がっていく。その熱はやがて何処にいくか?リリアはその答えを瞬時に出していた。

 風に乗りいつも温度が上がった熱はホワイトキングダムへと流れるだろう。そして、このまま放置をすれば熱は灼熱となり町を焼いてしまうかもしれない。

 或いは、魔石が魔力量に耐えられず爆発するかもしれない。この規模の魔石が爆発すればこの辺り一帯は火の海に包まれてしまう。いや、それだけに留まらず爆発で砕けた山の一部がその衝撃で空に放り出され被害を広げるかもしれない。それかホワイトキングダムに降り注いでしまえばたくさんの死傷者が出てしまう。

 どちらの予想でもホワイトキングダムに多大なる被害が出るのも時間の問題だ。

「今解決しないといけないことは……なに?」

 自分自身に対しての質問だ。

「今の鍵となるのは……なに?」

 考えていられる時間はそう多くない。その焦燥感が胸を占領し始めてくる中でリリアは必死に考える。

 そもそも何故こんなにも魔石に魔力が集まっているのか。目の前には真っ赤に光る魔石。その魔力を感じとると魔石の中で魔力が内側から外側に向けて渦巻いていてる。その過程で魔力は熱になり魔石の外へ漏れでた熱が壁に伝わる流れを感じる。

「この魔力はどこからきているの……?」

 今しなければいけないのは恐らく魔石に集まる魔力の道を遮断すること。普通の魔力の集まり具合ではないということは魔石に魔力を送る何かがあるはずだ。それさえ止めれば熱を産み出すことは無くなり事態は収まるかもしれない。

 だが、肝心の魔力源が全くわからない。

「早く見つけない……と……」

 その言葉を口にしたリリアが何もないところで一瞬バランスを崩す。すぐさまリリアは体勢を立て直した事で倒れることはなかった。

 熱による体力の消耗が激しいのだ。時間が経つに連れて熱量は増える挙げ句、魔石の近くということは放出された熱を目の前で浴び続けているのだ。

 耐熱用の高級マントを羽織っていても汗が直ぐに蒸発してしまう熱量だ。一瞬油断しただけで立ちくらみが起きてしまったのだ。

 リリアは今倒れるわけにはいかないと帯を閉め直すつもりで意気込みを新たにする。

「なぁリリア。いっそこの魔石を壊すか?」

 リリアの体調と状態を見て危険域も近いと感じた大地が短絡的な思考をもって聞くがリリアは慌てて答えた。

「だ、ダメです!今、魔石の中には膨大な魔力と熱が宿されています。その魔石という殻が壊れてしまったら魔石の中の魔力と熱が融合して大変なことが起きてしまいます。だから、魔石にどこから魔力が送られてるか調べないと……」

 それは大爆発だけではなく灼熱を撒き散らすことになる。その灼熱は触れたもの全てを灰にする程の高温となり絶大な範囲の土地を焦土とかしてしまうだろう。

 それはリリアが先程考えた被害より更に酷い惨状だ。

「そ、そうか……」

 今の自分に出来ることは何もないのだと痛感させられた大地はそれ以上の言葉を返すことは出来なかった。

 リリアの焦る表情を見るだけなのはとても辛い。何もしてやることが出来ないのだ。ちらりとグラネスを見るとグラネスはリリアを見ていない。大剣を握りしめて周辺に視線を配って警戒していた。

 グラネスは信頼しているのだ。リリアなら必ず打開策を見つけると。そして、その邪魔が入らないようにするためにグラネスは何時でも対処出来るように一部の隙も見せてはいけないのだ。

 そしてそれこそがリリアとグラネスのパーティスタイルだ。魔法知識の事についてグラネスはリリアを全面的に信頼して任せる。二人はそうやって数多くの依頼をこなしてきた。

 何もしてやれる事がないとは……余りにも愚かな考えだったと大地は反省するしかない。今まで何かとあると守ってきたから?リリアを守らないといけないと勝手に考えていた。思い上がりも甚だしい。

 大地はショットガンを召喚する。そしてグラネスの真似をしてモンスターがいつ現れても対処出来るように警戒し始めた。
 今リリアにすることは信じることだ。それ以外は全て邪魔になる。何せ彼女はハンターの大先輩なのだから……。

 その行動からリリアも大地が示す意味を察した。大地が自分を信じてくれた事……それが嬉しくなる。だからその信頼には応えたいとリリアは強く思いながら魔石へ挑む。

 今も尚、魔石へ送る魔力の源はわからない。もしかしたら大気中に漂う魔力を調べればわかるかもしれないのだが……大気中の魔力が薄ければそれも難しい。漂う微細な魔力を感知することなんてアーデルハイドですら出来はしない。……でも。

 出来ないじゃダメ!やらなきゃ皆が死んじゃうから……!出来なきゃダメなんです!!

 リリアは魔石から目を離して大地達がいる広い空間を一度視野に入れた。そして、目をつむって自身の視界を遮る。視界という大事な情報が減ることでより魔力感知に集中出来るようにするための苦肉の策だ。

 今大きくて濃い魔力は二つ。一つは後方にある熱気を吐き出し続けている魔石だ。そしてもう一つは自分の前方にいる大地が内包する魔力だ。

 確かフルネールは大地が物凄い魔力を有していると示唆していた。正確に魔力量を感じることは出来ない。ただ大きいことだけはわかる。

 今必要なのはその情報ではない。もっと小さく、もっと微量で、もっと薄い。そんな魔力を感知し続けなければいけない。そしてその上で異なる魔力の流れを探さなければいけない。

 心の内で『無理だ』と、ふと思う瞬間をすぐに「そんなことない!」と心で叫び振り払う。しかし、熱量が増え続ける中で一向に魔力が感じ取れず焦燥感が募り集中力が乱れ始める。

 やらなきゃいけないのに!出来なきゃいけないのに!時間がないのに!

「どうしても感じ取れないよぉ…………」 

 泣いてる場合でも泣き言を漏らしている場合でもないのに……声が震える。
 どうしたらいいのかわからない。でも海龍の時のように誰かが大地が代わりに助けてくれる事なんてない。

 リリアの頭の中は既に不安と絶望。そして焦りだけで敷き詰められてしまった。期待に応えたかったのに……何も出来ない。…………もう――む。

「リリア!」

「ひゃい!……あ」

 反射的に目を開いたリリアがその視界いっぱいに見たものは……大地だった。

「ダイチ……さん……わた……わたし……」

 気が緩んだ……出来そうにないと。リリアは呟いてしまいそうになるところをギリギリで堪えた。でも察しのいい大地には伝わってしまっているだろう。それなのに彼は何一つ言葉を発しずリリアの瞳を見ているだけだった。

 ただそれは、困り果てた様に呟いたリリアに大地はつい名前を読んでしまっただけなのだ。いてもたってもいられずに。先の事なんて考えられなかった大地はその後になんて声を掛けたらいいのかなんてわからずに……。

 そこでズボンのポケットに違和感がある事に気づいた。そこから連想してフルネールに押し渡されたものがある事を思い出した。それはいつかの雪山に行く時にフルネールが購入した玩具であり大地が苦手とする『魔力を込める』技法を用いる事で音が鳴る魔道具だ。

 大地のあやつる武器ハンドバスター等は腕に魔力を集めれば勝手に吸い取ってくれるのだが魔道具はそうはいかない。自分の体から魔力を切り離してその魔道具に詰めなければいけないのだ。つまり魔力をコントロールするという事。大体の人なら子供の時から魔道具に触れる事が多いため自然と使えるようになるもの……要は慣れである。

 大地はポケットに手を突っ込だ大地は目当ての物を握りしめる。

 ……いま、こっそり練習してきた成果を見せる時だ。

 魔力を手に集め魔力を切り離し魔道具へ送り込んだ後、ポケットから手を引き抜いた。そしてリリアに語り掛けるのだ。

「なぁリリア。そんなに困っているなら……フルネールを呼び出すか?」

「え!?」

 やっと口を開いたと思いきやとんでもない事を言いだす大地にリリア固まるしかなかった。だけどその内に思う事は見限られたのかもしれないという思いだ。そして確かに大地なら女神を呼び出す事が出来るかもしれない。そして今の状況ならそうしたほうがいいのかもしれない。
 それが最善だとわかる。わかるけれど……暗くなるこの気持ちは抑えられない。

 俯き始めたリリアに向けて大地は「それじゃあ手を出してくれ」と。その言葉に意味が分からず顔を反射的に上げるが大地はリリアが行動してくれることを待っている。だからついおずおずと手をだすと大地の手が重なったと思いきや何かを渡された。

「フルネールがこれを自分だと思えって言ってたぞ」

 それは掌に乗る程の大きさでフラッシュバードを模した魔道具。そう視認した瞬間、魔道具から音が鳴った――。

 ぷえぇ~~~。

 そんな気が抜けるような間抜けの音がさして大きくもない音量で鳴ったのだ。魔道具に埋め込まれている魔石へ均一に魔力が込められていないのだろう。これに魔力を入れた物は驚くほど魔力コントロールが下手なのだろう。この魔力コントロールが下手くその相手は直ぐに大地の事だと気づく。何せ渡してきた本人なのだから……。

「あれ?練習してた時よりもさらに変な音になったぞ?」

 更に本人の口からもそれを示唆する言葉が聞こえてきたのだから間違いない。しかも彼は言い訳めいた事をあせりなが真剣そのもの表情で首をかしげているのだから……間抜けな音と相乗効果で……笑えて来てしまった。

 クスクスと笑いながらリリアは「魔道具の中の魔石に魔力が行き渡っていないんですよ」と伝えると「まじか……練習の成果がこれじゃあ俺には才能なんてないのかね」と少々愚痴りながら言う。

「練習ですか?」

「ああ。寝る前にフルネールに少し教わってな……これでも練習してた時はまだましな音が鳴ったんだけど」

 練習……魔道具を込められない大人はいないわけではない。それは子供の時から魔道具を触らなかったことで生まれる弊害ともいえる。何故なら年を取れば感性が鈍ってくる為、魔力コントロールの習得が難しくなってくるのだ。それを知ると大抵の大人は諦めてしまう。

 別の世界から来た大地は尚更、魔力のコントロールと言うものは難しいはずなのだ。それなのに彼は音を鳴らすまでに至ったのだ。……こんなにすごい事なんてない。

「才能ないなんて……有りえないです……」

 ボソリとリリアが言う。

 別世界から来た大地がそこまでしたのに……私は……諦めたくも逃げたくもない!

 リリアは視線を掌から上へと持ち上げる。その瞳には再び光を宿ったのが分かった大地はリリアの邪魔にならない様にそっと横へ移動した。

 大地が移動してくれたことで目の前には火口内部が見える。だからリリアはこの広間を視界に収める。今見るのは大地じゃない。玩具でもない。この空間だから!

 再びリリアは魔力感知へ挑む。それも先ほど切り捨てた視界という大事な情報を持ったまま……否。むしろ全てを視る為に目を見開き魔力を探る。

「私に世界を……視せて!!」
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