初めての異世界転生

藤井 サトル

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叶わぬ願いと望んだ未来

失敗しても次をくれたからお礼も言える

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「流石に疲れたな……」

 クルスの背中を見送ったあと、ヘヴィゴーレムの残骸へ近づきながら大地はそう呟いた。
 考えてみれば調査の人探しから大量の小蜘蛛の操作。そしてめちゃくちゃ硬いヘヴィゴーレムとの戦いだ。もっともヘヴィゴーレムとの戦いは肉体よりも大通りに行く前に止めないといけないという精神的な疲れの方が大きいだろう。

「だーいーちーさんっ!お疲れ様です」

 大地の後ろから声がしたかと思えば大地の横からひょこっとフルネールが顔を出してきた。

「おう!フルネールもお疲れさん。捕まってた娘を守ってくれててありがとな」

「いえいえ、私はそんな大層なことはしていませんよ」

 微笑みながらそう謙虚な事をフルネールは言うが、フルネールが頑張ってくれていたことを大地は見ているのだ。

 特に瓦礫や破片がフルネール達に向かって飛ん来たときにはその威力を殺しながら完璧に掴み取って道端へと投げ捨てていたのだ。

 それも腕の動きは水が流れるような美しい動きだった。だからこそ捕まってた娘達は暴れるモンスターや飛翔物に怖がることなく……いや、むしろフルネールの美技に見惚れていたのだ。

「そんなことはないだろ。俺だけだったら流石に手いっぱいだったよ」

 そう大地が言うとフルネールは少し嬉しく思い「ふふ」っと先ほどより暖かい笑みを浮かべた。

「ほらほら。私に構うよりもっと構って欲しそうな子がきましたよ!」

 フルネールがそう言うと悪党達のいる方へと歩いていき、その入れ違いになるような形でクラリスがやって来た。

 しかし、無事に事件が終わったというのにその表情は明るくなく少し沈んでいた。

「あの……助けてくれて……ありがとうございました」

 クラリスは丁寧にお辞儀をしながらそう言った。

 今回の一件。クラリスは本当に運が良かったのだ。最初に猫猫亭で知り合いが来なくなったことを知り、ギルド長から貴族の二人を聞いた。そして直ぐに捜索を開始した行動の早さは完璧だった。

 だが、その後はどうだろうか?Sランクという自尊心からくる慢心故に一人で先行し続けた結果、人質を取られて捕まってしまったのだ。

 これは本当に危険だった。抵抗する術を失わさせられ捕まれたら手を振りほどくことすら出来ない。それが情けなく悲しく怖かった。

 捕まった当日、悪党達は人質の出荷が出来なくなった失敗を取り返すために奔走してくれたお陰で手は出されなかった。

 そして、次の日に腕を捕まれこのまま襲われると嫌なイメージの中、大地が助けてくれたから心身ともに無事なのだ。

 もし大地が遅く来ていたらクラリスの体と心は深い傷を負っていたことだろう。それも一生消えることのない傷を。

 だから……その大地に何か恩返しがしたい。

「ダイチさんに何かお礼をしたいけど……ダ、ダイチさんは何をしたら喜んでくれる……?」

 クラリスは真っ直ぐ大地を見つめて言ってくる。だが、大地は今日助けた女の子達にお礼を貰うために頑張ったわけではないのだ。だから、クラリスを止めるように掌を見せて言う。

「俺は依頼を受けてきたんだ。報酬はそっちからもらうよ。それに……クラリスも捕まっていて疲れだってあるはずだ。変に気を使わなくてもいいんだよ」

 しかし、クラリスはそれで納得なんてする気はないようだ。

「それはダメだよ!だって私の考えが甘かったからこんな迷惑をかけたんだよ?それなのに助けてくれた人にお礼もしないなんて……」

 俯きがちな顔をグイッと上げたクラリスは確りと大地の目を向いて言う、

「どんな事でも言って?お金でもパーティ組むでも。私これでもSランクで強いから」

 この世界で『強い』と言うことが大事なのだと改めて思う。何せお礼としてそれが成り立つくらいなのだから。
 ただ、大地はSランクとかの強いパーティで回りを固める必要性を感じていないのだ。ランクもCだがそれで日銭を稼いで生きていくのもありだとおもう。……現状稼げてないが。

 それ故にどう断ろうかと考えていたらクラリスは大地の表情を見て察した。
 きっとこの人はお金も強い仲間も今は必要としていないのだと。そして、それ以外にお礼と出来るものなんて……自分ぐらいだろう。

「そ、それなら、わたしが出来る事なら何でもするよ!」

 何故そこまで頑なにお礼をしようとするのか?だ。そこで考え付いたのがプライドである。Sランクでありながら借りを作りっぱなしと言うのが嫌なのだろう。
 そうだとしたら断り続ければ彼女を傷つける事になるかもしれない。……それなら要望する事にしよう。

「それならクラリス。一つだけ頼む」

「うん!何でも言って!」

 どんなお願いだってなんでも聞くと言った姿勢でクラリスは両手を胸の前で握りしめながら意気込んで言う。

「もし、俺が困った時は力を貸してくれ」

「え?それは良いけど……」

 少しだけ不満そうに言うクラリスだ。彼女はいったい何を考えたのだろう?

「ん~。嫌だったか?」

 大地がそう聞くと慌ててクラリスは否定した。

「ちが、違うの。ダイチさん強いから……私の力必要なのかなって……」

 そう少し落ち込みながら言うクラリスに納得する。彼女は戦闘力だけで判断しているのだ。今回の一回だけでも大地の強さは十二分にわかってしまっているから。だが、戦闘力だけでやっていけない場面というのも必ず存在する。

「もちろん必要だ。どうしても俺だけじゃどうにもならない時に手を貸してくれると嬉しいんだ。ダメか?」

「ううん!ダメじゃないよ!!私でよかったら手でもなんでも貸すよ!」

 パァっと明るく言うクラリスの頭を撫でながら大地は「よろしく頼む」と一言だけ添えると、クラリスは小さく「うん」と二度目の返事をするのだった。
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