初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族よりめんどい貴族のご乱心

自分では何時もの事でも回りからは羨ましい事の一つ

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 リリアに連れられて無事に城の中へ入れた。そしてリリア先導により階段を上がり廊下を歩きパーティー会場へと向かう。その途中、侍女と思われるメイドのような格好をした人達とすれ違うが、リリアに連れられているせいか物珍しそうに見てきた。

 やはり、リリアと歩くと…VIP的な感じなのかね?

 いえ、どう考えても大地さんの服装ですね。リリアちゃんが何も突っ込まないのも不思議……と言うより遠慮しているんでしょうか?どちらにせよ、大地さんはリリアちゃんの服装を褒めるべきですけど。

 う……まぁそうだよな。

 何時もの聖女の服ではなく今のリリアは艶やかなドレス姿だ。肩や胸元が出ていないのは聖女らしく控えていると言うことだろう。だが、リリアの姿は服を変えただけではない。髪もドレスに合わせたのか少しだけウェーブがかかってる。こうしてみるとかなり大人っぽく見えてしまい褒めるのも中々難しい。

「ライズさん、シャーリーさん。素敵なお召し物ですね。とてもお似合いですよ!」

 ライズもシャーリーも急ごしらえとは思えぬほどに今の服を完璧に着こなしているのも含めてリリアは褒める。

 ライズの貴族のような服は黒と白の色合いを使いながらスラリとした足を見映えよくしていて、上半身はビシッと襟首を閉めてかっこよくまとめている。

 シャーリーのドレスは空色で肩と胸元を少しだけ見せながら、それでも装飾は控えめで素材の良さを生かす作りをしている。

 リリアに先を越されてしまった大地はリリアのコミュニケーション能力の高さに驚きを禁じ得ない。言葉に詰まること無くスラスラと笑顔で言える辺り聖女としての場数が違うと言うことか。

「ありがとうございます。リリア様」

「あ!シャーリーさん。ライズさん。私を呼ぶときは『様』ってつけ無いでください。それと、かしこまらなくて良いんですよ?砕けて話してくれる方が好きなんです」

 リリアの要望を聞いたライズとシャーリーはお互いの顔を見合わせた。相手は聖女だ。本当にそんなふうに話していいのかどうか。少し考えた後、ライズは口を開いた。

「わかった。リリアさん。こうやって話させてもらうね」

 その言葉に笑顔でリリアは頷き、シャーリーも兄に続いて口調を崩す。

「リリアさんのお召し物も凄く素敵ですね!」

「あ、ありがとうございます」

 少しだけ照れたように笑うリリアを見たフルネールは大地へとジト目をプレゼントする。

 もう、服を褒めることが何で出来ないんですか。

 何も言い返さない大地に呆れつつ見本を見せるようにフルネールはリリアに近づいた。

「リリアちゃんのドレス。よく似合ってますね♪」

「ありがとうございます!実は今日の為に新しく購入したんです……」

 モジモジしながら恥ずかしそうに言うのだが、やはり褒められるのは嬉しいみたいだ。

 ほら、褒めるなら今ですよ!

 いや、でもなんて言えば……。

 思ったことを言えば良いんですよ!

 そ、そうか。

「リ――「あ、このお部屋ですよ」」

 間の悪い事にちょうどパーティー会場へとついてしまってリリアの台詞と被ってしまった。そのせいで勢いを削がれた大地の言葉は届いて欲しい相手に届かず虚しくも空中で四散した。

 その情けない大地の姿にフルネールは呆れた顔をしながら覚めた視線を大地に送り続けた。

 パーティー会場に入ると幾つものテーブルが並ぶ。そして至るところに料理も並んでいるところビュッフェ形式見たいだ。少し目線を動かすと階段がありその先にはちょっとした広場だ。

 既に他の貴族達は多く居て談笑しているのだが、リリアがパーティー会場に入ると皆の視線がリリアに向く。そして、その後ろにいる大地にも一度視線を向けるが全員見なかったことにしたのか談笑を再開した。

「広いな……」

 呟いた大地に反応してリリアが振り向いた。

「このお部屋が一番広いんですよ!それにあちらを見てください」

 そうリリアが顔の向きを変えるのに釣られて大地もリリアの視線の先を見ると大きなガラス張りがいくつも並びそこからこれまた大きなテラスへと出ることが出来る。

 もとの世界でもこういう場所は有るだろうが縁もなく、行くことはなかっただけに広さと綺麗な作りに圧巻されているとリリアが自慢げに言う。

「どうですか?とても凄いでしょう?」

「ああ。本当に凄いな」

 満足げにリリアが「えへへ」と笑う。そして、『今なら服装を褒められる!』と考えた矢先、回りがざわめき始めた。

「あ、王様が出てきましたよ」

 階段上の小さい広場の手すりから王様が軽く手を振っている姿が見えた。

「クルスの快気祝いに集まってくれてありがとう。この中にはかなり心配を掛けた者もいるだろう。クルス。皆に顔を見せてやりなさい」

 そう王様に言われて顔を出したのは見覚えがある人物だった。

「あれ?クロトじゃないか?」

 昨日、城まで運んでくれたクロトと名乗る人物だ。それが気になってクロトの長い話など耳に入ってこない。

「ダイチさんはクルス王子の事を知っているのですか?」

 その問いはこの国に居るなかでおかしい内容だ。自国民の王子を知らないやつがいるか!となるはずだ。
 だけど、大地は第一王女のアーデルハイドを知っていなかった。それに加えリリアが第二王女であることも知らないのだからクルスについても知ってはいない事が前提にあったのだ。

「昨日、クロトと名乗ってお城まで送ってくれたよ」

 まさか実の兄がそんな事をしていたなんて露知らず汗をたらりと流す。

「……そんな事をなさっていたんですね」

「お兄様もダイチの事が気になったのだろう」

 突然真横に出てきたアーデルハイドがそう呟くがいきなりすぎて大地は心臓を跳ねあげた。

「驚かさないでくれ」

 そう抗議の目を向ける大地だが、今の彼の状況は第一、第二王女に挟まれながら王子の話を聞く形だ。それはどんなに偉い貴族だろうと強い人物だろうとあり得ない出来事である。

 そんなことに大地は気づいていないが……それを羨む貴族は居る。


「なんだあの汚ならしい男は……なぜ二人の殿下はあんな奴のそばに居るんだ!」

 茶髪の男貴族は大地の背中を睨みながら愚痴る。その瞳には怒りや嫉妬心が混じっているようだ。伯爵である自分ならいざ知らず貴族でもないあの男が居ていい場所ではない。と。

「お、落ち着いてください。伯爵」

 レン・ベルカ・ヤングル。それが彼の名であり、彼の取り巻き一号が何とか落ち着かせようと四苦八苦しながら言う。

「今何か騒がれるのは……クルス殿下のお話し中なので……」

 このまま事を荒立てれば一大事になる。レン・ベルカ・ヤングル伯爵はそれを理解している為に軽く「わかっている」と言う。
 だが、その心内には確実に何かすると言う炎を灯しているのもまた事実である。
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