初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族よりめんどい貴族のご乱心

王子抜きの家族会議

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 大地達が去った謁見の間。王様達はその場にまだ留まっていた。

「リリア。自分の名前を打ち明けるチャンスだったのに言わなくて本当によかったのかい?」

 すでに家族の中ではリリアが嘘の名前を言っていることは周知されていた。そして、その上でリリアが言わないでほしいと言ったのだ。王と王妃は若干寂しくもある願いだったが、それでも可愛い娘が言うのならば。と承知していた。

「うん……」

 その事を考えるだけで簡単に沈む自分の気持ちが良くわからないが、それでも元気が出ないのも事実なのだ。

「今日しか話したことないが、きっとダイチ君は受け入れてくれるよ?」

 王がそう言おうとも頑なに首を縦に振らないリリアを見て困った顔を見せた。

「良いじゃないですか。リリアが決めたことですよ。あなた」

 王妃がそう言ってリリアを抱き締める。

「でもね、もし勇気を出したくなったら何時でも言ってちょうだい。私達は全員リリアの味方よ」

「お母様……」

 母に甘えるリリアを見てアーデルハイドはこの可愛い妹がついた嘘の先がどうなっていくのか少しだけ案じる。

「それにしても、あなた?先ほどダイチさんに言ったことはなんですか?」

「言ったこと?はて?」

「何が『体を要求』ですか。そんな風にリリアをからかっていると嫌われてしまいますよ!」

 その王妃の言葉にガーンとショックを受ける王。

「そ、そんなことはないよな?リリア?私の事好きだよな?」

 そう願うように言う王だがリリアの反応はいつもと違った。

「でも……さっきのはすごく恥ずかしくて……」

 王妃から離れたリリアは王とは逆の方へそっぽ向くそぶりを見せると王は更に慌てふためいた。

「いやそれは、リリアの気持ちを押してやろうと」

「気持ち?」

 あたふたしながら言う王の言葉にリリアは首をかしげる。

「あれ?ダイチ君の事が好きなんじゃないのか?」

 ここ最近のリリアと会う度に大地の事について話を聞かされ続けたのだ。それも最初は驚いた。まさか自分の娘を『ちんちくりん』呼びするやからがいるなんて。と。

 王族であり聖女。その二つの肩書きによりこの国では敬意、或いはその権威から恐れられてしまい他のメイド達から敬遠されているのは知っている。
 もし肩書きがどちらか一つならそうはならなかったはずだ。

 とはいえ、流石に可愛い娘を『ちんちくりん』と呼ばれるのは納得がいかない。
 その話を聞いた王はリリアに「そんな事を言う無礼な奴は牢屋にいれようか?」と言ってしまった。が、その途端、リリアが今まで見せたことない怒った顔で言ったのだ。

「絶対にやめてください!そんな事したらお父様とお話しませんから!!」

 実に可愛い反論である。だが、蝶よ花よと見守ってきた王には痛恨の一撃だ。その時も顔を青ざめさせ慌ててやらないことをリリアに誓う。その過程でリリアが大地に気があるのでは?と思っていたのだ。

 また、王としてもリリアにそう言わせる男がどういう人間か気になったのだ。そこで、ベルヴォルフやユーナ、グラネスに大地とやらがどんな人物か調べさせることにしたのはリリアに言っていない事である。

「好きですよ?ダイチさんの事もお姉ちゃんの事もお母様の事もお父様の事も」

 アーデルハイドはやはり良くわかっていないのだと思った。リリアの反応を見てどうしたものかと思案するが……これはもう自分だけではお手上げなのだろうとも思う。

「ふむ」

 二人のエルフの処遇を決める時、大地の願いをきくのに少し焦らしただけで泣きそうな顔をしたリリアだ。それを見て焦らしすぎたのかと王は焦ったのだが……その感情がどこから来ているのかもわかっていないようだと理解する。

「それにしても、リリアは強くなりましたね。自分の悩みとお願いをこうも言ってこれるようになるなんて……。城を離れてギルドで仕事しながら生きてみたいと言われた時はどうしたものかと思いましたが……」

「そうだな。少し寂しいが今のようにして正解だったのかもしれないね」

「お父様。ダイチさんの褒美の件、ありがとうございました」

 リリアはそのお礼を切り出すタイミングを見計らっていたのだ。既にギルド長のベルヴォルフから『大地がこう考えている』と言う情報は回ってきていた。そこでリリアは王である実の父に頼んだ。

「お父様。ダイチさんのお願いを聞いてあげて頂けませんか?」

 もちろん王は「わかった。任せておきなさい」そう言って二つ返事で了承した。その場にはアーデルハイドも居て聞いていたのだ。だからこそ、最初の大地と王が対面した時に威圧感を放った事に驚いて名前を呼ぼうとしたのたが。

 そんなこんなで、実のところ今回の話はほぼデキレースだったのだ。人払いも事前に済ませていたのは面倒くさいことを避けるためでもある。

「うむ。もっとも本当にお金も何も貰わないとはな」

「ダイチさんはいつもそんな感じなんですよ。人一倍頑張るのに変な人ですよね。海龍の時も自分に得がないのに来てくれて……」

 あの時の大地の背中を思い出しながら言うリリアだ。当時の事を思い出すと王と王妃に悲しい顔をされたことは今でも覚えてる。……ただ、紐づいて思い出す事がある。『君を助けに来た』……王女だからでもなく、聖女だからでもなく、使命感からでもない。純粋にリリアが危険だから来てくれた。その言葉は確かにリリアが望んだものだが彼はまっすぐ言ってくれたのだ。

「しかし、リリアはもう少し積極的に行った方がいいんじゃないか?」

 リリアの隣にいるアーデルハイドがそう言った。彼女の中での結論は近くにいればその内自己の感情を強く認識するかもしれない。と言うものだった。

「で、でも……」

 煮え切らないリリアに王妃も口を挟む。

「それがいいわ。ついでにダイチさんにお礼でもしてあげると良いんじゃないかしら」

「お、お礼……」

 そう呟いたリリアは先ほどの王の言葉を思いだしポンっと一気に顔を真っ赤に染める。

「あ!お礼の方法はリリアが考えたものでも大丈夫よ!?」

 少しだけ慌てながらフォローする王妃の言葉で平常心を取り戻しつつリリアは頷いた。
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