初めての異世界転生

藤井 サトル

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異世界無双!1000対俺

夢を自分で掴むにしろ、最初の一歩は手助けしたっていいよね?

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 大地がエルフ達を連れて戻った時、東の砦は戦場だった。

「バルニア様!三つ目に用意した収容場所も入りきりません!!」

「どんどんホワイトキングダムに運べ!!あとあっちから人員を要請しろ!!」

 大地によって送られてきた人を運びいれているが、人手も場所も足りず現場は混乱していた。まぁ、そんなことを大地の知ったことではないが……。

「大地、お帰りなさい」

 そうレヴィアが声をかけてくれるが彼女は氷の牢獄を作るのに忙しそうだ。

「何してんだ?」

「暇だったから手伝ってるのよ」

「へぇ。よく手伝う気になれたな」

 人間にたいして前向きになれたのかと考えた大地はニヤニヤしながら聞くと、レヴィアはそっぽ向きながら答える。

「だってお菓子くれたんだもん。お礼に手伝わなきゃスッキリしないじゃない」

 ふむ。レヴィアが普通の子供なら知らない人から貰ってはいけないというのだが、リヴァイアサンを潰せる程の毒なんてないだろうしそこはいいだろう。むしろ、これで少しは人間と仲良くなってくれればヨシだ。

「よ!おつかれさん」

 ベルヴォルフが景気よく声をかけてくる。その後ろではユーナさんが慎ましく一礼してくれる。

「これで終わりだよな?」

「ま、俺たちのやることはな。んで気になってるんだが、後ろのは誰だ?」

 目を向けるのはフードを被った二人だ。もちろんそれはライズとシャーリーなのだがフードを被っていれば姿はわからない。

「あーこいつらは俺の仲間だ」

 だからこそ大地はそう言った。二人は決して自らの意思で戦争に参加したわけではないから。だが、それは無駄に終わってしまった。

「ダイチありがとう。だけど嘘をつかなくていい」

 ライズがそう言うとフードを上げて顔をさらした。それを見たシャーリーも兄が腹をくくったのだとわかり、同じくしてフードを上げて素顔をさらす。

「俺たちは……」

 そうライズは切り出した。自分が奴隷だとはいえ戦争に荷担した事と、もちろん人を襲うつもりだったこと。そして大地によって救われたことも。

 だけど、捕まればきっとこの先に自由は少ないと。そう思った大地が仲間として扱ってくれたのだと。その優しさは嬉しかった。

 でもやはり……。

「恩人に迷惑はかけられないからな。俺もシャーリーも覚悟している」

「なるほどな」

 その話を最後まで黙って聞いていたベルヴォルフは唸るように頷いた。

「実はなダイチ……戦争で一番活躍した奴には王と謁見する事が出来るんだ。んで、ここからがあまり知られていないんだが、その時に王へ多少のお願いを聞いてもらうことが出来る」

「へぇ。でも何で知られていないんだ?」

「そりゃ王様に直接お願いをするなんて、普通の人間にゃ度胸がなくて無理だろ」

 うへぇ。つまり俺はそれをしないといけないわけか。あぁ、王族を避けるどころか王様に関わることになるのか……俺のマイルームグータラスローライフは何処?

「やらなくていいよ。せっかくダイチが誰も死なせずに頑張ったのに私たちの事をお願いするなんてもったいないよ!」

 気丈に振る舞いながらシャーリーは笑顔で言ってくる。そんなものを見せつけられれば……。

「あなた達がエルフ兄妹なんですね。流石に美男美女ですね。私には劣っちゃいますけど」

 銀色の長い髪を揺らし、美しいワンピースのような衣服を身に纏い、誰をも包み込むような優しい声を発しながら、その瞳は生命を慈しむ事を絶やさず、ゆっくり優雅にフルネールがシャーリーの頬に手を添えた。

 ……何でもいいけど↑は盛りすぎじゃないか?

 全部ほんとの事ですよー!

 はいはい。

「えっと……あなたは?」

 自分の頬から手を離した美女を見つめながらシャーリーは聞くとフルネールは笑顔で答えた。

「私は大地さんの現地づぅぅぅぅーー」

 フルネールが良からぬ事を言いそうになったのを感じた大地はフルネールの手をとってものすごい早さで全員から離れた。

「毎度の事ながら俺に噂が立つようなこと言うのやめてくれよ」

「でも、こう言えば大地さんにも箔が付くと思いまして」

「箔より先に悪名がつくんだよ!」

「えー?悪名なんてつきませんよ……たぶん」

「自信ないんじゃねぇか!しかも、嘘入ってるしな」

「むー。わかりました。まぁエルフさん達の為に真面目にやりましょうか」 

 全く……この女神は。頼むぜ。とは言えフルネールがやる気出してくれるなら俺が何を言うまでもなく話はつくだろう。

 再びフルネールの手を取り、全員のところに戻ってくるとフルネールが口を開く。

「改めまして私はフルネールと言います。そしてこちらがレヴィアちゃんですね」

 フルネールがレヴィアを前に連れ出してその肩に両手を置きなが紹介した。

「それで、お二人はこの先どうしたいんですか?国に捕虜として連れられて働かせられるのがいいんですか?一応待遇はいいみたいですけど」

「それは……でも、しかたな――」

「それは答えになっていませんよ。あなた達の現実を聞きたいんではなくて、どうなりたいかの夢物語を聞いてるのですから」

「え?」

 自分が思う夢物語を聞かせろなんて言葉、生まれてはじめて聞いた。でも、ここ最近考えるものはある。

「兄さんと……暮らしていきたい。仕事が大変でもいいから自由に……平和の中にも少しのトラブルがあって、でも、日々を楽しく生きたい……」

 それが自分が考える夢物語。叶うはずのない願いでありこの先、ホワイトキングダムの中だけの自由しか得られない自分達にとってはそんな未来はあり得ない。

「そうですか。その夢を叶えてあげることは私たちには当然できません」

 それはそうだ。大地の仲間なら……その大地の優しさに漬け込ませるなんてあり得ない。何せ王様にある程度の願いが聞いてもらえるなら願うものなんてもっと色々あるだろうから。名誉、地位、富み。どれを願っても要らないなんてあり得ないはずだ。

「ですから、一部だけ願いを聞いてあげましょう。ね?だ~い~ち~さん!」

 フルネールは大地に振り向いてから抱きついた。たぶん彼女なりのサービスなのだが、人前で抱きつかれるのは結構疲れる。何せ体の感触に意識をやればたちまち俺の悪評が出回るだろう。『このエロ助』みたいな感じに。だからポーカーフェイス維持で疲労がたまるのだ。ただ……嫌ではないのも男の辛いところだ。

「ま、俺はそのつもりだからな」

「「え!?」」

 今度はライズまでもが一緒に驚くが、そんな二人にフルネールは優しく微笑む。

「私たちが出来ることは王様に直接願ってライズさん、シャーリーさんの処分を消してもらうことです。ですがそれだけではシャーリーさんの夢は叶えられませんよね?ですから……」

 再びフルネールはシャーリーに近づくが、今度はその体を抱き締めながら言う。

「しっかり生きてみてくださいね。きっとその先にあなたが望むものがあるはずですから……」

 この戦争で生きたいと思った。大地を見て生きられないと思った。大地に連れられた事で死ななかったが願いは叶えられないと思った。

 なのに……蓋を開ければその全てを否定され壊されたのだ。奴隷にした同じ種族の人間と……一度はこんな人生を定めたことに憎んだ神に……。

 その優しさが胸を締め付けてきてシャーリーは瞳から涙を溢しながら小さな声で呟いた。

「ありがとう……神様」

 その声を聞いてフルネールは抱き締める力を少しだけ強めて微笑むのだった。
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