初めての異世界転生

藤井 サトル

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異世界無双!1000対俺

貴族でも奴隷を扱う奴らに慈悲は無い

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 あの後、床に倒れた店主の女性を助け起こした。

「ありがとうございます」

 倒れた拍子に怪我を負ったのだがリリアの魔法で傷は直ぐに癒えた。

 少し話を聞くと連れていかれた女性店員は娘のリリエッタと言うらしい。

 そのリリエッタがある日、一人の男に目をつけられた。それが貴族であるアルグニールだと言う。アルグニールは最初金を出して自分の屋敷に連れていこうとしていたらしいが、それをリリエッタは突っぱねた。

 だから次の段階へとアルグニールは進めた。例の大男を使ってここの客足を少しずつ減らし始めたのだ。もちろん、評判が下がったわけではないが例の貴族の息がかかった大男に目をつけられると面倒ごとになる。それも力のない人なら尚更だ。

 その結果人が減り初めて今の状態に陥った。

「アルグニールなんかに連れていかれたら……娘が何をされるか……いえ、もうきっと戻ってこれないでしょう」

「私達が!」

 リリアがそう言うのを店主は首を横に振るう。

「もう終わってしまったことですから……お止めください。お見苦しいところをお見せしてしまいましたので代金は結構です。また、ご来店ください」

 そう言って店を追い出されるのだが、閉まった扉越しから店主か泣く声が聞こえてくる。

 正に漫画に出る悪の貴族って感じなんだな。

 そうですねぇ。もしかしたらあんなことやこんなことを?

 くだらねぇな。

「リリア。貴族ってのは殴ったらダメだよな」

「あ、当たり前ですよ!そんなことしたら……ダイチさんがこの国にいられなくなっちゃいます」

 そっかぁ……。

 そうですよねぇ……。

 大地とフルネールは視線を会わせながら脳内で会話を続ける。

 助けるメリットってあるか?

 どうでしょう?デメリットはいっぱいありそうでしょうね。

 だよな。貴族と敵対?国を追いやられる?そうなればリリアとも会えなくなりそうだよな?

 私的にはそれが一番困るんですけどね。

 だよなぁ。

 あ、でも、メリットじゃなくて問題が二つだけありますね。

 一つは?

 せっかくレヴィアちゃんが美味しくごはん食べられる場所なのにこのままじゃ来にくくなっちゃいますね。

 なるほど。もう一つは?

 リリアちゃんの顔が沈んだままです。

 ふむ。どちらも本当に問題だな。

 そうなんですよね。

「グラネス。さっきの貴族、……アールグレイだっけ?」

 リリアに聞こえないようにこそこそと小さい声で大地はグラネスに話しかける。

 大地さん。アールグレイは紅茶ですよ?

「アルグニールか?」

「そうそうそれそれ。どこにいるか知っているか?」

「知ってはいるが、リリアさんのほうが詳しいぞ?」

「リリアに聞いたら恐らくダメって言われるからな。これから殴りに行くんだし」

「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「ただじゃすまないこともわかった上で言っているんだ。美味い飯のお礼にリリエッタを連れ戻すってな」

「はぁ……しかたない。教える代わりに一つだけ条件を飲め――」


 あのグラネスとの話の後、アルグニールの屋敷前へとやってきていた。

「という事で基本的には俺が話すからな」

 グラネスはリリアとも別れた後、再び大地たちと合流した。

 グラネスの条件というのはグラネスもアルグニールの屋敷へいく事と話しの進行はグラネスが中心にやるという事だった。それはアルグニールに黒い噂が有り探れないかを試す為だ。リリアが居なければ口を滑らしてくれる可能性もあがる。と。

 その作戦が思いのほかはまりあっさりと屋敷内部へと入る事が出来た。

 屋敷だけあって中はなかなかの広さがある。二階建てなようでもあるが……。

 通されたのは立派な部屋だ。グラネスは柔らかそうなソファで大地とフルネールとレヴィアはその後ろで立たされている。

 まぁ俺たちは貴族に従う平民みたいなものだからな。

 その部屋で待っているとメタボのおっさんが入ってきた。コイツがアルグニールか。

「お久しぶりです。アルグニール侯爵」

「おや、グラネス殿か。今日はリリア様とは一緒ではないんですな」

「ええ、たまたま近くに寄ったのでお顔でも出しておこうかと思いまして」

「はっはっは。そうですか。そういえば今日は良い子が来てくれましてね」

「良い子?使用人か何かですか?」

「そんなもんですな。今呼びましょうか」

 アルグニールが見せつけようと思ったのか近くの人間に耳打ちをするとその人間は退室していった。

「それにしてもグラネス殿もなかなかの上玉をそろえていますね」

 フルネールとレヴィアへと視線を向けた。

 俺は無視か。

 女装してくればよかったんじゃないですか?

 興味ないね。

「いえいえ。アルグニール様ほどでは……」

 その直後にノックの音が聞こえた。それに反応してアルグニールは「入れ!」と強く言う。

 そこに入ってきたのはリリエッタだ。服装はウェイトレスの物からメイドの物へと変えられているが茶色い髪色に翡翠色の瞳もそのままだ。ただ……絶望しているのかその瞳には光がない。

「どうだ?なかなかいい子だろう?味見はこれからだがな」

 その醜悪さに嫌悪感が身体中を走ったレヴィアは魔法をぶち込みそうになるが、ギリギリで大地に言われた「俺が言うまで何もせずにしていてくれ」との言葉を必死に守る。

 口は滑らしてはいないもののグラネスの言う通り気が緩んでいるらしい。何せ女神の前に奴隷を見せるのだから。

 大地さん。リリエッタさん……奴隷の呪いが掛かってますね。グラネスさんから聞いた通りですね。

 大地は少しずつリリエッタに近づいていく。

「お、おい!近づくんじゃない!そこの男もお前の仲間なんだろ?止めろ!!」

 慌てているアルグニールにグラネスは淡々と言う。

「いえね。アルグニール侯爵が奴隷を買っているという噂を聞いたことが有りまして」

 その瞬間、大地が後光を使用して体を光らせながらリリエッタの頬に触れる。そこから自分の光をリリエッタに流すとパリンと音を立てて奴隷の呪いは完全に消え去った。

「こんな感じか」

 大地がそう呟く他所でリリエッタは自分の体を確認している。呪いの重さは無くなり、先ほど命令された『黙っていろ』という強制力も無くなった。

 もう少しで体を弄られるところだったが……大地達の訪問で先が伸びた。それだけだったはずなのに呪いが消えた。声が……出せる。

「助けて!この人は奴隷にしている人を何人も――!」

「その女を黙らせろ!!」

 アルグニールの号令と共に部下が動く。だが、直ぐ近くにいるのは大地だ。リリエッタに触れる事なんてかなわない。

「レヴィア!殺さない程度に暴れていいぞ。あーでも、力加減ミスってやっちゃっても大丈夫だ。こいつら奴隷買いらしいからな!!」

 俺も殺されかけたしね?奴隷買いは命が無いらしいよこの国。

「わかったわ!手加減も……ちょっとは頑張ってみる!」

 その途端、轟音と共に壁に穴が開いた。

「リリエッタ!?そのほかの奴隷の子はどこにいる?」

「地下!」

「よし!グラネス!アルグニールをよろしく!」

「任せろ!」

「フルネール!来い!」

「はい!」

 リリエッタが先導する先に地下が有るはずなのだ。なので彼女について行く。

 道中状況を理解した部下が襲ってくるが触れると感電するゴム弾を装填したハンドガンで撃ちぬいていく。一発当たれば電気により意識を奪えるのだ。

「ここから下に行けます!」

 硬く閉ざされた地下行きへの扉は硬く閉ざされている。まぁでも大地には関係ない。銃を使う必要すらない。女神から与えられたパワーは偉大だね!

 単純に力を込めて殴っただけで開いてくれた扉の中へと入り地下へ降りる。そしてリリエッタが「そこの扉!」といった部屋へと入ると8人くらいの女の子が全員メイド服を着て地面に座らせられていた。

 いい趣味してんな。

 メイド服はお好きですか?

 こんな時に何言っているんだ?まぁ好きだけどよ。

「全員奴隷だよな」

 ここで解呪してもいいのだが、一先ず安全な場所へ避難させた方がいいだろう。

 何せ今この屋敷の1階からは物凄い音が鳴り響いているのだ。あと断末魔。

 モンスターが人間の姿になって力を抑えているとは言えレヴィアはリヴァイアサンだ。壊滅なんてわけがないだろう。

 大地達が1階に戻ると2階をぶち抜いて殆どお空が見える状態だ。いいリフォームしていますね。1階の壁は穴ぼこだらけで風通しもいい感じで匠の仕事が光ってるな。

 アルグニールの部下はその辺で無様にも倒れていて、アルグニールはグラネスが取り押さえていた。

「あそこにいるのリリエッタちゃんを連れて行った男ですね」

 あの強面で用心棒やってますと言った大男が倒れていてその上に膝を揃えてレヴィアが座って大地をまっている。

「遅いわよ。せっかく頑張って死なないようにしたのに……」

 大男から下りてきた拗ねているレヴィアの頭を撫でながら「悪いな」と言うと少しだけ機嫌がなおったようで笑顔を見せてくれた。

「おい!コレは何の騒ぎだ!?」

 アーデルハイドが外からこの建物?に入ってきた。

「何でアーデルハイドが?」

 そう首をかしげているところにアーデルハイドの後ろからリリアも顔を出した。

「私が呼んだんです。ダイチさんが何かしようとしていたのが分かったので」

 なるほど。だからこんなに早いのか。

「それで?ダイチ。コレは何の騒ぎだ?グラネスも!そいつが誰だかわかっているんだろう?」

「ああ、とりあえずコイツ奴隷買いだったから締めた。そこにいるのが奴隷ちゃんだ」

 大地が少し離れたところでフルネールに引率されている奴隷ちゃんズに親指を傾けて言う。

「まて、ちょっと理解がおいつかん」

 と、現状を把握しようとしているアーデルハイドを他所にリリエッタが大地に近づいてきた。

「メイド服もなかなか似合っていていいな」

「え!?そ、そうなのかな。じゃなくて!えっと、助けてくれて…その」

「気にするな。今回はたまたまアルグニールが奴隷買い……いや、これは下手したら奴隷商人か?どちらにせよそう言った類だったから何とかなっただけなんだ」

 グラネスが居なかったら大変なことになってただろうな。今回の例に浮いた1万ゴールドで酒でもプレゼントするか。

「そ……っか」

「それにしてもやっぱり店じゃないと話し方違うんだな」

「え!?そりゃそうでしょう!……それとも接客するような感じがいい?」

「いや?今のままで十分だけど。あ、だがせっかくのメイド服なんだ。ちょっとご主人様とかって言ってくれよ」

 メイド服って言ったらこれだよな。

 大地さんは早速セクハラですか。流石ですね!

 え”!?これもセクハラになる?

 当たり前でしょう。あ、でもメイド服が好きなら今度リリアちゃんと頑張ってみましょうか。

 何する気だよ……変な事はやめてくれよ?

 フルネールと脳内会話していると、大地の言葉でポカンとしていたリリエッタがクスリと笑い。

「ご主人様。お助け下さりありがとうございました」

 スカートの両端をもって綺麗に礼をしながらリリエッタはそう言った。
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