初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

寝起きとハゲと危機一髪

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 船の上で寝るという事は波に揺られながら寝るのと同じである。ただ、その揺れ幅は大きかったり小さかったりと不規則ではあるものの慣れてくるとそれが心地よくなるらしい。まぁ大地は慣れる程いるわけではないのだが。

 それでも人間は眠る事が出来る生き物だ。それは大地とて例外ではなく、あの夜にリリアと約束をした後に元の部屋へと戻り床へと寝転ぶと不思議なほどにあっさりと寝る事が出来た。

 そんな夜に一つの夢を見た。
 一面の花畑の真ん中に大地が立っているのだ。空は澄んだ青空が白い雲と共存していて爽快さを出している。花には蝶々がじゃれあうよう飛んでいる。そんな優しい世界だ。

 しかし、平穏な時は終わりだと言わんばかりに世界の端から闇が迫る。空は雷を纏った暗雲が押し寄せ、地面は花ごと黒ずんでいく。大地のいる場所まで暗黒に包まれた後、花は全て散っていき地面が崩壊していく。

 やがて崩壊は大地の増したまで進み、最後の足場となった大地の真下も崩れ落ちてしまい大地ごと闇の中へと落ちて……。

「大地さん?起きてください」

 目が覚めると右にフルネール、左にリリアが心配そうにこちらを見ている。

「……朝か?」

「大丈夫ですか?ダイチさん。かなりうなされてましたけど……」

「うなされてた?」

 先程見た夢を一切合切覚えていない大地としてはリリアが教えてくれた情報を聞いても実感がわかない。

「一体どんな夢を見てたんですか?まさか……私やリリアちゃんが大地さんから離れる夢とか!?」

 深く覗き混んでくるフルネールだが垂れる髪が大地の顔を辺りくすぐったい。

「さぁな。夢を見ていたのすら覚えてねえよ。とりあえず退いてくれるか?」

「そうですか………大丈夫ならいいんですが」

 フルネールが退くことでようやく体を起こせる。
 何時もの表情を見せることでようやく安心できたリリアは強張っていた顔を崩した。

「外の雪も強くなっていますから気を付けてくださいね」

「ん?それにしてはあまり部屋の中は寒くないな」

 リリアが忠告してくれると同時にフルネールが購入した大きめのマントを渡してくれる。
 だが、雪が降るくらいの地域であるはずなのに寒さが感じないのだ。いや、それどころかほのかに暖かい。

「この船の部屋は魔力で暖かくも涼しくもなるんです」

 おお、すげえな。木造?船でエアコン完備とは中々……。

「とりあえず外に出てみるか」

 フルネールから手渡されたマントを羽織ると大地は甲板へと足を向けた。

 昨日の夜とは違い雪がどんどん降ってくる。風はあまり無いのだが、船の動く速度によって雪が斜めから当たる感じかする。

「だいぶ降ってるな」

 しゃべる度に白い息がでる。
 フルネールやリリアはあの暖かいコートを身に包んでいるため大地より寒くはないだろう。

「大地さん。寒くはないですか?」

 大地とフルネールの暖房装備の差はかなりあるのだが、それは金欠によるもので何らかの悪意が働いたわけではない。
 しかし、それでも暖かいコートを自分に譲った大地の事が心配になる。

「ん?まぁいざとなったら光れるしなんとかなるだろう……」

 その言葉がフルネールを気にしてのものだとわかるのだが、それを指摘してもひねくれている大地は否定するだろう。

 だからフルネールは何かと行動で移すことが多い。許可なんて取っていたら9割りは断られるだろうから。そして今も抱きつけば暖められるだろうと、考える。

 毎度のことと言っても、その毎度が何時も恥ずかしいのを隠しているのだから経験としては意味をなさない。でも、自分はこうやって体を張るくらいしか出来ないのだ。……まぁ大地の事が嫌いじゃないから出来るのもあるのだが。

 そうして大地に気づかれないように何時も通りにジリジリと近づいていくのだが、それを邪魔する声が横から割り込んできた。

「よぉ。おっさん。美女と聖女の相部屋はどうだった?俺もあやかりたいものだぜ」

 と、ニヤニヤしながらテンプレを消化してくれるのは……おっさんだった。

「おっさんがおっさんを呼びすてにするのはどうなんだよ」

 大地さん大地さん。『おっさん』って呼び捨て何ですか?『さん』がついてるので違うんじゃないですか?

 いや、今そんなのはどうでもいいから!

「俺はおっさんじゃねえぞ!22歳だっつの!」

「まじかよ。そんな老けて可哀想にな。あと頭も可哀想にな……」

 後者は特に同情するぜ。

 おっさん呼びしてきた自称若者は堀が深く老けていて、頭に毛が一本も……一本もない……。

「頭の話をするんじゃねぇ!」

「それにしてもアーデルハイドが選んだって言うわりにはガラが悪いやつだな」

「王女様を呼び捨てにすんじゃねえよ!あの気高く強いお方を何だと思ってるんだ?」

「いや、王女だろ?」

「様をつけろよ!」デコ助野郎。

 フルネール、変に相づちいれるのやめてくれないか?ちょっと吹き出しそうになったんだが。

 あら失礼。

「それで?何で絡んできたんだ?嫉妬か?」

「ここここ、この俺が嫉妬なんてするわけないだろ!?これは、そう!調子に乗っているお前に対してAランクハンターの俺がお仕置きだぜ」

 CとBはのしたことあるがAランクは初めてだな。

「大地さん……」

 フルネールが心配そうに大地に寄り添って袖を少しつまむ。

「目の前でイチャつきやがって。心配通りにそのイケメン面に凹凸を増やしてやるよ」

 フルネールの言葉により怒りが増した感じだ。

「喧嘩を買うのもいいですけど船に穴は開けないでくださいね。こんなところで海に落ちたくありません」

「男の心配じゃねえのかよ!!」

 この人よく突っ込むなぁ。

「お前中々の苦労人だな」

 そんなに突っ込みいれてたら疲れるだろう。

「お前たちのせいでな!!」

「あ、あの!喧嘩は……やめてください」

 この場においての唯一の良心であるリリアが止めにはいる。

「リ、リリア様……」

 お?リリアの一言で怯んだぞ?でもこいつさっき、リリアの事もゲスい目で考えてただろ。

「まぁまてリリア。こいつさっき俺の事をイケメンって誉めてくれたからな。きっといい奴だぞ」

「あれは皮肉で言ったんだよ!!」

 ワオ。怒りのボルテージがもう一段上がったな。それにしても何でこう絡んでくる奴って多いのかね。

 いや、ワオ。じゃないですよ。せっかくリリアちゃんが止めようしているのに!

 えー、いい奴だって教えてあげただけじゃないか。

「なんだなんだ?」

 ザワザワと人だかりも出来はじめてきた。そしてヒソヒソし始めるのだ。

 その集まってきた奴等は「おい、これ何が起きてるんだ?」「何かリリア様を巡って争ってるらしいぞ?」「は?どういうことだよ?」「勝った方にリリア様が来るそうだ」「俺も参加したいんだが?」などと好き勝手いい始めた。

「あらあら。リリアちゃん景品になっちゃいましたね?」

「ええ、それは……その、困ります……」

 顔を真っ赤にして困る様子を見た大地は目の前のハゲに視線を移す。

「お前……こんな少女を景品にするとかクレイジーだな」

 その言葉に「子供じゃありません!」とリリアが突っ込みをいれてくるが無視だ。

「お、俺じゃねえよ!」

「んで、退く気はないのか?」

「ね、ねえよ!!」

「リリアが欲しいからか?人を物みたいに扱うのはどうかと思うぞ」

「ちちち、ちげえよ!!」

 ほんとかなぁ?

「ダイチさんダメですよ。皆で頑張らないと……いけないんですよ。怪我でもしたら……」

「わかったわかった。怪我なく終わらせるから少し離れてろ」

 リリアが嫌々離れていくのを待っててくれたハゲが獲物を取り出す。その武器は……大きいハンマーだ!?

「それがハゲの武器か?」

「ハゲって言うんじゃねえ!こいつはな魔道具が組み合わせてあるんだぜ」

 えー、その情報、普通敵に教えるか?

「はぁ。火の玉でも出るのか?」

「そんなちゃっちぃものじゃねえな。魔力を込めながら振り下ろせば爆発するしろもんよ」

 どのみち燃えるのか……。

 ハゲが両手で持つハンマーを振り上げて構える。

「お前……正気かよ……」

「一瞬で灰にしてやるよ。謝るなら今だぜ?」

 船も一瞬で燃え上がりそう。修理代が大変そうだけど俺は関係ないよね?

 いえ、それはどうでしょうか。アーデはたぶん二人から請求すると思いますよ。

 酷くない?火で炙られたあげくに金もとられるなんて……。

 じゃあ頑張って阻止してください♪

「まて!それを降り下ろしたら大変なことになるぞ!(船の修理代が)」

「そりゃあ大変なことになるだろうな(お前の体が)」

 ダメだ!このハゲ話聞かねぇ。っていうか爆発規模がわからん。回りの人巻き込むんじゃねえか?

「はぁ……」

 爆発を止めて、且つ傷つけずに相手を無力化しないといけないのか。なにこれゲームのミッションか何かか?

「謝る気はないみたいだな。なら死ねぇ!!」

 殺意マックスじゃん。完全に殺す気できてるじゃん。

「まぁ、今さら動いたところでもう遅いんだけどな」

 そう、もう遅いのだ。何せ大地の兵器はすでに発動し終えたのだから。

「な!何で動かせねぇんだ!?」

「あれあれ?そいつを叩きつけて俺を爆発させるんじゃなかったのか?」

 一歩一歩相手に威圧を与えながら近づく大地。

 なんか悪者みたいですよ?

 いいんだよ。俺はヒーローじゃないから。俺主観の主人公だからな。

「くっ……てめぇ!俺に何しやがった!?」

「それを教えると思うか?……さて、殺そうとしてきたんだ。何してもいいよな?」

 実際には機械で出来ていて、且つ、その姿もかなり小さいで蜘蛛型兵器を召喚し、その兵器が射出する極細の鉄線を巻き付けたのだ。因みにこの鉄線で電流を流すことが出来るとっても危険な兵器である。

「や、やめてくれ!?謝るから!」

「おやおや、俺を殺そうとしたのに逃がしてもらえるとお思いで?」

 薄笑いを浮かべながらハゲに威圧を与えようとしたところで「ダイチさん!!」と、ちょっとおこなリリアに名前を呼ばれる。

「わかったからそんな顔するな」

 合図がなにもないのは寂しいので、アニメでよくあるカッコいい解除方法……指を鳴らしてハゲを止めていた鉄線を消した。

「うわ!?」

 バランスを崩したハゲが尻餅をつく。

「もういいだろ?他の奴らも散ってくれ」

 その大地の声で全員引き下がっていくのを見て大地たちもその場を離れた。

 そうして『襲来ダイナマイトハゲ』のイベント戦がおわった。……はずなのだが……。

「兄貴と呼ばせてくれ!」

 等とハゲの舎弟が出来るのであった。マジかよ……。
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