初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族からは逃げられない

女性を知るには慎重に

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 リリアの沈んだ表情は今も変わらずで名前を聞いたのは不味かったのだろうか。大地はリリアの横顔を眺めながら何時ものリリアにどうしたら戻せるか考える。

 しかし、どうしたものか。

 お困りですか?私の神託はいりますか?

 ぐ……信じていいのか悩ましいんだが?

 そんなこと言うんですか?経緯はどうあれ毎回何とかしてるじゃないですか?

 一歩間違えたら俺が(社会的に)死ぬんだよ。

 でも、今は大地さんのせいでリリアちゃん俯いてるじゃないですか。あ~あ。可愛そうなリリアちゃん。

 わざとらしく言うフルネールだが彼女の言うことももっともなのだ。恐らく彼女の姓名を聞いてしまった事でリリアを傷つけてしまったのだろう。その理由まではわからないが少なくとも謝るべきだろうか。

「リリア?」

「はい。なんでしょう?」

 声は普段通りに戻っているが表情はやや影が指すように暗めだ。

「その、すまなかった」

「え……どうしてダイチさんが謝るんですか?」

「多分だけど、フルネームが知られたくなかったんじゃないか。って思ってな。無神経だったよ」

「そ、そんなことは!」

 しかし、その次の言葉がでずに詰まっていることから間違いではなさそうだ。

「フローライトがどういう家系とかは全く知らないけど、俺はどんな名前でもリリアはリリアとして見るつもりだから。そんなに落ち込まないでくれ」

 大地はばつが悪そうにリリア以外を見るために上空に視線に向けてそう言った。

 これがおっさんにできる精一杯の慰めだ。

 そうですね。ま、及第点ってところでしょうか。

 そんな超絶上から目線で脳内会話を仕掛けてくるフルネールの言葉を無視しつつ反応がないリリアに再度目線を向ける。

 そのリリアはと言うと、リリアも大地へと視線を向けていた。さも意外なものを見る目で。

「あの……本当に?」

 うん?本当にというのは家の事を知らないことについてか?

 その言葉だけではピンと来るものがなく大地が考えようとした途端、リリアは再び口を開いた。

「本当に私として見てくれますか?」

 その意味深な回答に少しだけ困惑するものがあるが、今は決して表情に出してはいけない。

「なにか物言いだが、もちろんだ。それに俺は器用じゃないんでね。もうリリアに様とか敬称をつけるのは無理だな」

 クスクス笑い出すリリア。どうやら少しは心の闇が払えたのだろうか、ようやく笑顔に戻ってくれたことに安堵しながらその頭をつい撫でる。

「何を思い詰めているか知らないがあまり考えすぎるなよ……」

 されるがままに頭を撫でられ続けるリリアだが、その言葉に静かに「はい」と一言だけで返す。そこにはまだ心のモヤがあるみたいなのが気にはなるが……。

「おやおや~?リリアちゃん。撫でられて嬉しそうですね?」

 まぁ何となく予想はしてた。そろそろフルネールの悪魔女神が動き出すだろうと。

「そ、そんなことはありません!!」

 物凄い否定しながら大地の手から逃れるように離れたリリアはトテトテとアーデルハイドの隣へ走り出していった。

「ふふ、大地さん。フラレちゃいましたね!」

「ああ、どこかの 邪神じゃしんのお陰でな」

「まっ!そんなのがこの近くにいるんですか?怖いですぅ~」

 そう言って抱きついてくるフルネールだが、完全に弄ばれていることが良くわかる。

「抱きつくのはいいが……当たっているぞ?」

「まさかのリリアちゃんが逃げちゃいましたからね。少しだけサービスですよ?と言うことで、おしまい!」

 その言葉を言い切ると同時にフルネールはパッと離れる。少し惜しいことをいった……なんて思ってないからな!ほんとだぞ?

「なぁ、リリアについて聞いてもいいか?」

「何が聞きたいんですか?胸のサイズですか?ちょっと気が引けますけど胸は――」

「ちゃうわ!!そげんなこと聞いてもないぜよ!」

「大地さん言葉遣い無茶苦茶ですよ?もう、リリアちゃんが気になるからってそんなに興奮したらダメですよ?」

 だから、危ない話しはやめろと!

「俺が聞きたいのはリリアの家の事だ」

「あ、何だ。そんなことですか~」

 スケベな男を見る目から表情を切り替えたフルネールはあっけらかんと言う。

「ああ。どうしてあそこまで落ち込むのか知りたいんだが――」

 フルネールが口を開く。ただ、その言葉は短くも鋭くいい放つものだった。

「ダメです」

 いつもと違った雰囲気のフルネールに少し気圧された。それは拒否であり拒絶の色すら見えてくる。

「胸のサイズは良くても家はダメか?」

「……ダメですよ」

 少しだけ表情が和らいだが、それでもフルネールは首を縦に振ることはない。

「もう。リリアちゃんが教えていないことを教えられるわけないでしょう。それに女の子の家を知りたいだなんて、それじゃあストーカーですよ?」

 和らいだかと思ったその顔は少し困り顔に変化していた。

 一見、聞くのは無理そうに見える。だが、真剣な表情でフルネールに迫れば、きっと彼女は考え、迷い、視線をさ迷わせた後に諦めて折れて教えてくれるだろう。

 何だかんだで甘いところがあるのだ。ただ、それでも最初に拒絶するように断ったところを見ているから……。

「わかった。まぁでも、こそこそ嗅ぎ回るようにするのも良くないしな。いずれ本人から聞けたら直接聞くようにする」

「わかればいいんです」

「……すまなかった。無理させたな」

「な、なに……言ってるのかわからないですよー」

 明らかにしらを切っているのはわかるのだが、そんなところを突っ込む必要はなく、大地はそれに話をあわせる。

「そうか。まぁ、俺はお前の嘘も見抜けないからな」

 そう言うとフルネールは足を止めるが、大地は振り返らずにアーデルハイドへと着いていく。だからこそ、フルネールが小さく言った「ごめんなさい。大地さん」という言葉は聞こえるよしもなかった。
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