初めての異世界転生

藤井 サトル

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不思議なアイテム。呪いの道具もその一つ

生きていくには優しさと疑う心が必要

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 遥か昔の事である。砂漠の地下に大帝国。そう言って差し支えのないほど栄えていた国があった。国の名はグランドバルニア。地下、という特殊な場所であるにも関わらず、その広い王国は明るく、涼しく、喧騒があり、食材も豊富で、王のもと統制がしっかりとれていた。

 モンスターは出るものの町の至る場所に兵士が配属されていたため対処も迅速である。さらに言うと外との隔たりもない。異質な場所故に敬遠される人も少なくなかったが、それでもやって来る人はいる。どんな人がやって来ても国の中は平和であった――少なくとも表面上は。

 これは当たり前の話なのだが、富を羨む輩は必ずいる。早い話が嫉妬だ。俺は何もないのに、あいつは全部持ってやがる。そう言う嫉妬。

 だから――送り込まれた。スパイは食料を荒し、人を殺って不安を煽り、人の物を盗み、人を嘘で丸め込む。それを闇の中で行い……最後は大クーデターを起こした。

 優しい王は最終的に対処することが出来ず首は飛ばされることになる。無能……ではあるのかもしれない。人を疑い、糾弾し、捕まえる。それが出来なかったのだから。ただ、彼の人生では今の今までどれも必要がなかったのだ。たった一度も。それゆえにわからなかった。

 優しいだけの王。歴史ではそう書かれるだろうが、実に何十年も人を疑わなくても問題ない国を維持し続けたのである。

さらに彼には物の流れが手に取るようにわかるのだ。例えば雨が降る日時をピタリと当てられるし、予兆がない石壁が壊れる事もわかる。そして、わかると言うことはそれら全てに対処してきた。

 ただ、生き物が絡むと予想が出来なくなる。それ故にモンスターを対処するための兵士がそこらじゅうに配属されていたということだ。

「その王こそワシよ!まぁ今では外の世界に触れすぎて面影もないがのう」

「これ、ずっと昔の事なんだろ?」

「そうですね。グランドバルニアと言えば塩が無さすぎて反乱されたとか」

「砂糖は出来るんじゃが塩はなかなか。でも、出来る限り皆に配ってたはずなんじゃけど、やっぱ不満だったのかのう」

 しゅんとしだした仮面というのもシュールな絵だ。

「いえ、結局のところうまいこと口車に乗せられただけですね」

 その歴史を直接見てきたフルネールは思い出しながらいう。

「それにあれは送られてきた人材が有能でしたねぇ。僅か一週間で王の首が飛びましたし」

「うぅ……」

 淡々と言うフルネールの言葉に傷ついた仮面がすすり泣く。

「ちょ、ちょっと可哀想ですよ……」

「そうじゃろ?そうじゃろ?可哀想じゃろ?この時代の聖女よ」

 この時代?というのは何だ?前にもいたような素振りだけど。

 ……知りたいなら今度お話ししますけど、あまり良い話ではないですよ?

 そうか……。

「私が生まれる前の聖女さんにも会ったことあるんですか?」

 話を聞いてもらえて嬉しそうに「うむ、そうじゃ」と言っている仮面は、お爺ちゃんと孫見たいな……。

「詳しく聞きたければワシをその可愛らしいお膝に――」

 チャキりと仮面の横でおとがなった。

 Q:黒くて固くて火を吹く物はなーんだ?
 A:ハ ン ド ガ ン

「さぁお爺ちゃん。その次の言葉いえるかなー?」

 大地の軽そうな物言いに凶器を感じた仮面はゆっくりとリリアから離れていく。

「冗談じゃ、冗談!まったくこれだから30歳の若者は」

 ひとまず大地はハンドガンを消して椅子に座り直すと、フルネールがまた良からぬ事を口にだした。

「リリアちゃんの膝を狙うなんて……リリアちゃん守ってあげるからこっちに来なさい」

 フルネールが優しいお姉さんの雰囲気を醸し出しながらリリアを呼ぶと、リリアは少しだけ困惑の色を示しながら椅子から降りてフルネールに近づいた。

「え、えっと。私はどうしたら?」

 リリアはフルネールの近くまで来てはいるのだが、まだ不満らしく、フルネールは手でチョイチョイと招き始めた。

 意図が見えてこないが、それでも女神様が呼ぶのであれば疑う必要もないだろうと、リリアは無防備に近づいていく。

「リリアちゃん」

 再び彼女の名を呼ぶと、フルネールは両手をリリアに伸ばしていく。その軌道は頬かな?と思われた瞬間、フルネールの手はリリアの脇腹へと伸びて彼女を捕まえる。そして器用に彼女の体を反転させて下ろし膝に乗せたのだ。

「わわ、フルネールさん」

「んー、リリアちゃん柔らかいですね。ちゃんとお告げ通りケアしてるのは関心です」

 後ろから抱き締めるフルネール。それに驚き、且つ、恥ずかしさで頬を赤くするリリア。

「うむうむ、オナゴが絡み合うのはええのう」

 このジーさん。やっぱり仕留めるか?

「フルネールさん。あ、の……恥ずかしい、です」

「感じるのは恥ずかしさだけですか?」

 フルネールにそう聞かれたことでリリアは胸の内にあるどこか懐かしく安らぎさえ覚える感覚もあることに。

「それは……」

 ただ、それを何て口にしていいかがわからない。だから言葉に詰まる。聞かれて確かにある別の何か。答えたいけど答えられない焦れったさがリリアを更に困らせた。だからフルネールは再びリリアに口を開いた。

「それではこう聞きましょう。嫌ですか?嫌じゃないですか?」

 とてもシンプルになった質問だ。皆の前で自分がフルネールの膝に乗せてもらっている構図は恥ずかしい――でも、嫌じゃない。

「嫌……じゃないです」

 一瞬だけ間があったのは嫌だと言えば下ろしてくれると思ったからだ。ただ、嘘はつきたくなかった。

「そうですか。あ、でも、もし私が膝に乗せてる事を誰かが馬鹿にすることを言ってきたら言ってくださいね?私と大地さんできっちり締めちゃいますから」

 俺を巻き込んでいくスタイル。まぁ、なんかあったら蹴りくらいしてやるけどさ。……そういや、最近リリアと近くにいても通報される不安が消えたのって……やっぱり俺がロリコンではないと証明されたからか!

 え?

 え??

 リリアちゃんは16歳ですよ?

 知ってるが?

 さんざん頭撫でましたよね?……おかゆもプリンもあーんしてましたよね?

 いや、あれはお前がけしかけてきたんじゃねえか。

 では、嫌々やっていたと。もしそうならリリアちゃんに後でこっそりお伝えしておきますけど。

 ……やめてくれ。嫌々ではけっしてないから。

 ではロリコンですよね?

 お前……嫌な感じに外堀を地雷原にしていくのやめてくれよ。

 では、こうしましょうか。

 なにする気だよ。

「リリアちゃん?」

「はい。何でしょう?」

「頭撫でても良いですか?」

「え?」

 リリアは少しだけ迷う。いまの状態も恥ずかしいのだ。

「えと、その、良いですけど……」

「ではでは、許可も得られましたので早速」

 フルネールはその柔らかく細長い指や白魚のような手でリリアの頭をゆっくりと優しく撫でる。

「髪は一つ一つ決め細やかで細くサラサラしてて撫で心地いいですね。ふふふ。何時までも撫でていたいですね」

 どうですか?大地さん。羨ましいですか?見てくださいリリアちゃんの表情。照れと安らぎで反応に困っている顔を。どうです?撫でたいケージがたまってきましたか?

 30歳のおっさん舐めるなよ。欲望に負ければ通報される不安は何時だって心の中にあるんだ。だからこそ!軽率な行動はしない!

 強情ですねぇ。自分はロリコンだと認めればリリアちゃん撫で放題なのに。良いでしょう。それならもう少し攻めていきましょう。

 フルネールの不安な一言(脳内会話)に一抹の不安を感じざるを得ない。

「ねぇリリアちゃん」

 またしても自分の名を呼ばれたリリアは反射的に「はい」と言うが、流石に今までの流れがあったため、何を言われるかやや警戒中。

 ――あんな素直で真っ直ぐな子だったのに人を疑うようになるなんて……あれ?必ずしも悪いわけではないのか?

「あのですね、大地さんから自分も撫でたいと言う視線を強く頂きまして……」

 だーかーーらーーー!!!何で爆弾の爆破装置を息を吐くように押すの!?回りの視線がくっそ痛いんだよ!!

 まぁまぁ、そんなの気にしても意味ないじゃないですか。あ、でも、ちゃんと身元引受人……いえ、身元引受神になるのでご安心してお勤めしてくださいね?

 捕まる前提とかふざけんな。

「えと、ごめんなさい。流石にそれは……恥ずかしくて……人前じゃ……」

「まてまて、リリア。その言い方は危ない。それじゃあ人前以外でやってるように聞こえるから」

「でも……前に……私の部屋で……撫でてくれましたけど……」

 あ(察し)。風邪引いてた時のことか。キオクリョクイイナー。

 ――ガタッ。と回りの人間が立ち上がりながらこちらに耳を傾けてきた。

 なんでそんなに聞きたがるの?通報?通報なの?

 あははは。捕まっちゃいますね!罪状はリリアちゃんの頭を撫でた罪。うける(笑)

 ふざけんな!とりあえずこの流れをぶち壊さなければ。

「リリア!」

「ひゃい!」

 最近思ったがこの子、名前呼び捨てられるのが苦手なんじゃなくて、勢いよく呼ばれるのがダメなんだな。

「ひとまず落ち着こうか。ほら仮面のジーさんも黙って……」

 そう言いながら大地はテーブルに置かれてる仮面に視線を向けると、仮面からおとが聞こえる。

「ンゴーグゥーゴゴゴースー」

 何かの魔法か?それとも呪いか?――いや違う!これは!

「寝てんじゃねーか!!」
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