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女神と同居は嬉しい?嬉しくない?
お見舞い品は最高のものをご用意しました
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「一日寝ないだけで風ひいちゃうなんて……」
砂漠から帰ったあと少し寝たのがダメだったんでしょうか?ほっとして1時間仮眠をとっただけで……。こんなに体が弱かったでしたっけ……私。グラネスさんにご迷惑お掛けしちゃいましたし。
グラネスはリリアが風邪だとしるとまずギルドに赴いた。理由はリリアが訳もなく顔を見せないとユーナが心配するからだ。そこから大地までリリアが風邪を引いているという情報が伝わったのだが、リリアがそれを知るすべなどなかった。
「今日、別れてから大地さんと会えなかったなぁ。この風邪何時治るんでしょう……」
たまにケホケホッと来る咳が独り言の邪魔をするのに煩わしく思いながら、寝ている以外にやることがないリリアは頭の中で考え事が進行する。
でも、大地さんの馬車すごかったな。空飛んだのなんて始めてです。とても楽しくて、あんな景色は見たことなくて、大地さんも笑ってくれて……。それに馬車の見た目も可愛くて、キラキラしてて、まるで……物語のお姫様が乗るような馬車でした……。お姫様……か。
大地さんじゃそんな風に扱わないだろうな。と、考えると何故か面白くなりクスクスと笑えてくる。ただ、自分もお姫様のような扱いは嫌だから今の方がいいなと改めて思うとさらに笑えて再びクスクスと声が出る。
「風邪だと知ったらユーナさんは心配してくれるでしょうけど……大地さんはどうでしょう?私がいなくてせいせいしてるんでしょうか……」
もしかしたら嫌われてるのかもしれませんね。この前なんてひっぱたいちゃいましたし……。話しかけるのも嫌がってたらどうしましょう。
そんな疑心暗鬼に飲まれ始めたリリアは会いたいけど会うの怖いな。と思いながらなんとか頭を振って変な思考を振り払う。
そんな風に思う人じゃありません。
今朝よりも大分楽になったとはいえ体はだるく頭は重い。だから、こんな事を考えるのは全部風邪のせいだと布団にもぐる。
でも、顔が熱くなったのかすぐに「プハッ」と顔を出した。
「こんな姿、大地さんには見せられないなぁ」
いまのアホらしい一面もそうだが、いまの格好はネグリジェでありとてもじゃないが人前には出れない。それはグラネスだろうとユーナだろうと同じである。
――コンコンと二回のノックオンが聞こえてきた。グラネスではないだろう。その理由としてグラネスだとノックの後にすぐ声を出すからだ。では誰だ?基本的にリリアがこの宿に止まっているのは一部の人間しか知らない。そして、大地も誘ったがこの宿に来ることはなかった。だから大地でもないだろう……誘ったのはお風呂だけです!!
だが、次に聞こえてきた声はその予想を裏切る形になった。
「リリア。起きてるか?」
それはまさに今、来るはずないと否定した大地の声だった。
「ダイチさん?」
ドア越しに聞こえてくるのが自分の名前を弱々しく呼ぶ声だった。そんな弱っているリリアになんて声をかけようかと考えてたら、真横にいるフルネールがリリアに聞こえないようにこう言った。
「大地さんは女心わかっていないと思うので私の言う通りに言ってください」
やはり女神か。こう言うときにはすごく便りになる。
だまって頷く大地を見てフルネールは小声で大地が言うべき言葉を授ける。
「リリア。大丈夫か?」
『えと、そ、その前に何でダイチさん……ケホケホッ』
「そんなに風邪が酷いのか!?」
『い、いえ!もうだいぶ落ち着いてるので……』
「そうなのか?実はギルドでリリアが風邪を引いてしまったことをきいてな。俺のせいだよな。すまない」
『そんなことは!……私が弱いせいで……』
リリアの言葉を聞いたあと、フルネールが用意した言葉を聞いて大地はフルネールの方向を見た。次の神からのお告げを信じて良いのかわからず非難する目だ。だが、女神は自信もって頷く。
「リ、リリア?その……君の顔が見たいんだ。入れてくれるか?」
弱っている女の子の部屋に入ると言う暴挙を体現したような台詞だ。だからこそ大地は目の前の女神を信じるべきか疑わざるを得ない。
しかし、それを聞いたリリアは自分の姿を見る。先程も記述したように、今はこのネグリジェしか来ていないのだ。下着もしかり。と言うのも、汗をかきすぎて取りかえすぎたのが原因でもある。
や、この姿を大地さんが……?
「あのあの、嬉しいんですけど、私、今人前に出られる状態では……」
その言葉を聞いたフルネールは目をキラリと光らせた。これはチャンスだと。そして、大地に代弁させるのだ。
「リリア?俺は君がどんな姿でも笑わないよ。だから……入りたいんだ。ダメ……か?」
そのまま右から左に流すように女神の言葉を言った大地は青ざめる。そして女神を抗議の目でにらんだ。
お前!ふざけんな!!こんなこと16の少女にいったら通報案件待ったなしだろうが!!!!
「ダ、ダイチさん……そ、そんなに私を見たいん……ですか?」
声が震えているのがよくわかる。そりゃそうだよ。こんなことおっさんがいったら気持ち悪いの一言にすぎないだろ。
だが、そこで待たしても 女神の囁きが来た。
「大地さん。もう後には引けませんよ?覚悟を決めて!」
おま!ふざけんなよ!!ふざけんなよ!!(大事なことだから二回)
それでも賽は投げられたのだ。後には引けず、生涯をかけた言葉を……いや、神の宣託を受け入れるしかない。
「ごめん、嫌だよな。残念だけどまた来るよ」
女神の最後の言葉は『押さずに引く』だった。更に最初に謝ることで断られても全面的にこちらが悪い。と言う演出も忘れてはならない。
「あ!あの。今、鍵を開けたので……ただ、入るの少しだけ待ってください。せめて、お布団にいる状態なら……大丈夫ですから」
その言葉を聞いている最中に確かにカギが動く音は聞こえた。そして、中からは無理して小走りしている音も。
「さぁ、準備は整いましたよ!!」
「……下手したら俺、死んでたんだけど?」
社会的に。
「まぁまぁ。私は一旦ここで待ってますから、ちゃんと呼んでくださいね。じゃないとせっかくのお見舞いの品がもったいないですから」
「わかっている」
そう言ってドアに振り向いた後、大地は再びノックして一言「入るぞ」と告げる。
その返事がないのを了承とみてドアを開いてはいる。
「リリア……大丈夫か?」
布団から顔だけを出しているリリアの顔は赤く、息も少し荒い様に見える。そこから熱っぽいのがよくわかる。
「は、はい。だいじょうりぇす」
盛大に噛んだところを見ると余り大丈夫ではないかもしれない。
「あ、あの。何で大地さんは来てくれたんですか?やっぱりご自分のせいだと思っているからでしょうか」
それだとしたら申し訳なく思う。だって、大地を助けにいくと決めたのも、寝ずにみまもるときめたのも自分の我が儘でそうしたのだから。その後に風邪だなんて自分の事ながら呆れてくる。
「ん?それもあるが……心配だからだ」
しれっと大地は言うが、それによりリリアの顔は益々赤くなる。
「顔がマジて赤いぞ!と、とと、取り敢えず冷やすか!!」
大地がお見舞いついでに必要そうなのを片っ端から買ってきたのだ。
水枕っぽい物は柔らかく設定温度に冷え続ける。しかし、効果は半日くらいしかもたない。
装飾がある薄い布は掛けると暖まることができる。これで体を暖めて汗をかければ治りも早くなるだろう。そして同じく効果は半日くらいしかもたない。
この二つは冒険で使うには効果時間が不十分すぎて使う人は駆け出しくらいなのだが、医療用として捉えれば十二分に使えるのだ。
「えへへ。暖かくて冷たいです」
一言で矛盾になる言葉だが言いたいことは伝わってくるし、嬉しそうにしているのもよくわかる。
「あとは飲み物も買ってきてるんだ」
近くのテーブルへコトっと音を立てながら一本ずつ置いていく。
リリアが好きだと言った甘いジュース。店のおっさんから風邪の時はこれだ!と言って渡された甘さが薄い飲み物。あと普通の水を数本。どれも木製の入れ物に入っている。
「こんなにたくさん……ありがとうございます」
大地が容易した病人に必要そうな物を見てお礼を言ってくれるが、お見舞い品はここからである。
「それと、リリア。客を呼んでもいいか?」
さすがのリリアも大地の発言に驚いて困惑した様子を見せる。
「え?……お客様ですか……でも、私こんな姿ですし……」
「あー、すまん、一応女性なんだけどダメか?」
大地から女性を紹介されるという衝撃は風邪の時じゃなくてもショックを受けていただろう。しかし、大地が紹介したいというからにはその関係性も知っておきたいと思うのはリリアの中で我知らずと育つ恋心でもある。
「……わかりました、でもいったいどんな方なんでしょう?」
もし大地がユーナを連れてきていたのなら、ドア越しで声をかけてきたときにユーナの声も聞こえてきたはずだから、その線はないだろう。
「あってからのお楽しみというやつだ。でもびっくりするぞ?」
そう言って少し愉しそうにする大地の笑みを見ながら、既にびっくりしているんですが……と苦笑を浮かべるしかなかった。
ドアの方へ歩いて行った大地はそのドアを開き、外にいる人物を招き入れる。
そして外から入ってきた人が優雅な動きで一歩、また一歩とリリアに近づいてきた。
美しく輝く銀髪を背中まで伸ばし、胸は自分より大きく、顔立ちは何とも美しい。それでいて微笑んでいる表情には女の自分ですら可愛いと思えてしまう。この容姿を見たユーナは大地との不釣り合い具合などからショックを受けたのだ。
「あ……」
その女性を見たリリアは寝ているところから勢いよく上体を起こした。
「女神様!?……ケホケホッ」
後光も出さない女神はただの美人と言っても差し支えないはずなのだが、一言も声を発していないフルネールが何者なのかをリリアは一目で看過した。
「ダメですよ。せめてベッドの中にはいてください」
「ですが……」
目の前にいるのはいつもお告げでお話をしたことがある女神様なのだ。それ故に上体を起こした後、ベッドから出ようとするリリアを女神は制止する。
「ダメです……それに今の服装では大地さんが興奮してしまうので……」
「興奮しねぇよ!」
そう言いつつも大地はベッドから出ようとしたリリアをみて慌てて後ろへ振り向いたのだ。
今のリリアの姿は白いネグリジェ一枚だけ。一言にすればそれだけなのだが、そこに大地が振り向く理由がある。
ヒント1.リリアは今も汗をかきまくっていた
ヒント2.服は汗で張り付いてしまう
ヒント3.ネグリジェが白色なのだ
つまり、濡れて張り付いた部分からリリアの肌が透けて見えてしまった。幸い彼女の大事な部分は見ることが無かったのだが、それでも彼女が恥ずかしがることを予想する。
「あ……」
リリアが自分の服装を見て顔を真っ赤に染めながら聞く。
「み……見ました……?」
何をと言えないのは彼女の心境を察してほしいところだ。そしてその問いに大地は二つの選択肢が求められた。『嘘をついて見ていない』と言う事と、『嘘をつかず見た』という事をだ。大地は選択する。
「すまん。少しだけ……見えた」
嘘をつかないほうへ。
リリアは更に顔を真っ赤に染めた。
「そう……ですか……いえ、御見苦しいものを見せてごめんなさ、ケホケホッ」
「だいじょ!……うぶか?」
一瞬振り向きそうになってしまったのをギリギリ持ちこたえる。
「あーフルネール。暖かくなる布をはおらせてやってくれ。そうすれば隠れるだろう?」
「そうですね。リリアちゃん、ちょっと失礼しますね?」
そう言ってフルネールが布でぐるりとリリアの顔が出るように巻き付ける。
「はい。大地さんこちらを向いても大丈夫ですよ」
「おう」
さすがの女神もこんな時にいたずら心を出さなかったのかしっかりと要望通りにしていた。とは言え、顔だけ出ているリリアはややシュールに見えなくもない。
「顔がやっぱり赤いな……」
「あの、なんで女神様がここに?」
当然の疑問にどこから答えるかを一度思案してから大地が答える。
「俺が呼んだんだ」
「そんなこと……できるんですか?」
普通の人が神を呼ぶことなんて出来るわけがない。お告げを聞く事で精いっぱいなのだ。そこから導き出せることから大地が普通の人ではないという結論。
「ダイチさん……」
ただ、それはそれで心配になる。もし特別な人で、もし聖女である自分に近づいたのだとしたら?そして、その目的の為にずっと自分と接するときに演技をしていたら?と、どうしても考え――。
「リリア!」
「ひゃい!……ケホケホッ」
「あ、すまない」
そう言って大地はリリアの頭をゆっくりと撫でる。
「だが、今変な事考えてただろう?表情に出てたぞ?」
「え……はい……」
とはいえ、自分が得体のしれない存在として思われても仕方がないのかもしれない。だから、こんな時だけど……いや、こんな時だから少しでも話しておこうと考える。
「俺はな、実は別の世界から来たんだよ。と言ったら信じるか?」
砂漠から帰ったあと少し寝たのがダメだったんでしょうか?ほっとして1時間仮眠をとっただけで……。こんなに体が弱かったでしたっけ……私。グラネスさんにご迷惑お掛けしちゃいましたし。
グラネスはリリアが風邪だとしるとまずギルドに赴いた。理由はリリアが訳もなく顔を見せないとユーナが心配するからだ。そこから大地までリリアが風邪を引いているという情報が伝わったのだが、リリアがそれを知るすべなどなかった。
「今日、別れてから大地さんと会えなかったなぁ。この風邪何時治るんでしょう……」
たまにケホケホッと来る咳が独り言の邪魔をするのに煩わしく思いながら、寝ている以外にやることがないリリアは頭の中で考え事が進行する。
でも、大地さんの馬車すごかったな。空飛んだのなんて始めてです。とても楽しくて、あんな景色は見たことなくて、大地さんも笑ってくれて……。それに馬車の見た目も可愛くて、キラキラしてて、まるで……物語のお姫様が乗るような馬車でした……。お姫様……か。
大地さんじゃそんな風に扱わないだろうな。と、考えると何故か面白くなりクスクスと笑えてくる。ただ、自分もお姫様のような扱いは嫌だから今の方がいいなと改めて思うとさらに笑えて再びクスクスと声が出る。
「風邪だと知ったらユーナさんは心配してくれるでしょうけど……大地さんはどうでしょう?私がいなくてせいせいしてるんでしょうか……」
もしかしたら嫌われてるのかもしれませんね。この前なんてひっぱたいちゃいましたし……。話しかけるのも嫌がってたらどうしましょう。
そんな疑心暗鬼に飲まれ始めたリリアは会いたいけど会うの怖いな。と思いながらなんとか頭を振って変な思考を振り払う。
そんな風に思う人じゃありません。
今朝よりも大分楽になったとはいえ体はだるく頭は重い。だから、こんな事を考えるのは全部風邪のせいだと布団にもぐる。
でも、顔が熱くなったのかすぐに「プハッ」と顔を出した。
「こんな姿、大地さんには見せられないなぁ」
いまのアホらしい一面もそうだが、いまの格好はネグリジェでありとてもじゃないが人前には出れない。それはグラネスだろうとユーナだろうと同じである。
――コンコンと二回のノックオンが聞こえてきた。グラネスではないだろう。その理由としてグラネスだとノックの後にすぐ声を出すからだ。では誰だ?基本的にリリアがこの宿に止まっているのは一部の人間しか知らない。そして、大地も誘ったがこの宿に来ることはなかった。だから大地でもないだろう……誘ったのはお風呂だけです!!
だが、次に聞こえてきた声はその予想を裏切る形になった。
「リリア。起きてるか?」
それはまさに今、来るはずないと否定した大地の声だった。
「ダイチさん?」
ドア越しに聞こえてくるのが自分の名前を弱々しく呼ぶ声だった。そんな弱っているリリアになんて声をかけようかと考えてたら、真横にいるフルネールがリリアに聞こえないようにこう言った。
「大地さんは女心わかっていないと思うので私の言う通りに言ってください」
やはり女神か。こう言うときにはすごく便りになる。
だまって頷く大地を見てフルネールは小声で大地が言うべき言葉を授ける。
「リリア。大丈夫か?」
『えと、そ、その前に何でダイチさん……ケホケホッ』
「そんなに風邪が酷いのか!?」
『い、いえ!もうだいぶ落ち着いてるので……』
「そうなのか?実はギルドでリリアが風邪を引いてしまったことをきいてな。俺のせいだよな。すまない」
『そんなことは!……私が弱いせいで……』
リリアの言葉を聞いたあと、フルネールが用意した言葉を聞いて大地はフルネールの方向を見た。次の神からのお告げを信じて良いのかわからず非難する目だ。だが、女神は自信もって頷く。
「リ、リリア?その……君の顔が見たいんだ。入れてくれるか?」
弱っている女の子の部屋に入ると言う暴挙を体現したような台詞だ。だからこそ大地は目の前の女神を信じるべきか疑わざるを得ない。
しかし、それを聞いたリリアは自分の姿を見る。先程も記述したように、今はこのネグリジェしか来ていないのだ。下着もしかり。と言うのも、汗をかきすぎて取りかえすぎたのが原因でもある。
や、この姿を大地さんが……?
「あのあの、嬉しいんですけど、私、今人前に出られる状態では……」
その言葉を聞いたフルネールは目をキラリと光らせた。これはチャンスだと。そして、大地に代弁させるのだ。
「リリア?俺は君がどんな姿でも笑わないよ。だから……入りたいんだ。ダメ……か?」
そのまま右から左に流すように女神の言葉を言った大地は青ざめる。そして女神を抗議の目でにらんだ。
お前!ふざけんな!!こんなこと16の少女にいったら通報案件待ったなしだろうが!!!!
「ダ、ダイチさん……そ、そんなに私を見たいん……ですか?」
声が震えているのがよくわかる。そりゃそうだよ。こんなことおっさんがいったら気持ち悪いの一言にすぎないだろ。
だが、そこで待たしても 女神の囁きが来た。
「大地さん。もう後には引けませんよ?覚悟を決めて!」
おま!ふざけんなよ!!ふざけんなよ!!(大事なことだから二回)
それでも賽は投げられたのだ。後には引けず、生涯をかけた言葉を……いや、神の宣託を受け入れるしかない。
「ごめん、嫌だよな。残念だけどまた来るよ」
女神の最後の言葉は『押さずに引く』だった。更に最初に謝ることで断られても全面的にこちらが悪い。と言う演出も忘れてはならない。
「あ!あの。今、鍵を開けたので……ただ、入るの少しだけ待ってください。せめて、お布団にいる状態なら……大丈夫ですから」
その言葉を聞いている最中に確かにカギが動く音は聞こえた。そして、中からは無理して小走りしている音も。
「さぁ、準備は整いましたよ!!」
「……下手したら俺、死んでたんだけど?」
社会的に。
「まぁまぁ。私は一旦ここで待ってますから、ちゃんと呼んでくださいね。じゃないとせっかくのお見舞いの品がもったいないですから」
「わかっている」
そう言ってドアに振り向いた後、大地は再びノックして一言「入るぞ」と告げる。
その返事がないのを了承とみてドアを開いてはいる。
「リリア……大丈夫か?」
布団から顔だけを出しているリリアの顔は赤く、息も少し荒い様に見える。そこから熱っぽいのがよくわかる。
「は、はい。だいじょうりぇす」
盛大に噛んだところを見ると余り大丈夫ではないかもしれない。
「あ、あの。何で大地さんは来てくれたんですか?やっぱりご自分のせいだと思っているからでしょうか」
それだとしたら申し訳なく思う。だって、大地を助けにいくと決めたのも、寝ずにみまもるときめたのも自分の我が儘でそうしたのだから。その後に風邪だなんて自分の事ながら呆れてくる。
「ん?それもあるが……心配だからだ」
しれっと大地は言うが、それによりリリアの顔は益々赤くなる。
「顔がマジて赤いぞ!と、とと、取り敢えず冷やすか!!」
大地がお見舞いついでに必要そうなのを片っ端から買ってきたのだ。
水枕っぽい物は柔らかく設定温度に冷え続ける。しかし、効果は半日くらいしかもたない。
装飾がある薄い布は掛けると暖まることができる。これで体を暖めて汗をかければ治りも早くなるだろう。そして同じく効果は半日くらいしかもたない。
この二つは冒険で使うには効果時間が不十分すぎて使う人は駆け出しくらいなのだが、医療用として捉えれば十二分に使えるのだ。
「えへへ。暖かくて冷たいです」
一言で矛盾になる言葉だが言いたいことは伝わってくるし、嬉しそうにしているのもよくわかる。
「あとは飲み物も買ってきてるんだ」
近くのテーブルへコトっと音を立てながら一本ずつ置いていく。
リリアが好きだと言った甘いジュース。店のおっさんから風邪の時はこれだ!と言って渡された甘さが薄い飲み物。あと普通の水を数本。どれも木製の入れ物に入っている。
「こんなにたくさん……ありがとうございます」
大地が容易した病人に必要そうな物を見てお礼を言ってくれるが、お見舞い品はここからである。
「それと、リリア。客を呼んでもいいか?」
さすがのリリアも大地の発言に驚いて困惑した様子を見せる。
「え?……お客様ですか……でも、私こんな姿ですし……」
「あー、すまん、一応女性なんだけどダメか?」
大地から女性を紹介されるという衝撃は風邪の時じゃなくてもショックを受けていただろう。しかし、大地が紹介したいというからにはその関係性も知っておきたいと思うのはリリアの中で我知らずと育つ恋心でもある。
「……わかりました、でもいったいどんな方なんでしょう?」
もし大地がユーナを連れてきていたのなら、ドア越しで声をかけてきたときにユーナの声も聞こえてきたはずだから、その線はないだろう。
「あってからのお楽しみというやつだ。でもびっくりするぞ?」
そう言って少し愉しそうにする大地の笑みを見ながら、既にびっくりしているんですが……と苦笑を浮かべるしかなかった。
ドアの方へ歩いて行った大地はそのドアを開き、外にいる人物を招き入れる。
そして外から入ってきた人が優雅な動きで一歩、また一歩とリリアに近づいてきた。
美しく輝く銀髪を背中まで伸ばし、胸は自分より大きく、顔立ちは何とも美しい。それでいて微笑んでいる表情には女の自分ですら可愛いと思えてしまう。この容姿を見たユーナは大地との不釣り合い具合などからショックを受けたのだ。
「あ……」
その女性を見たリリアは寝ているところから勢いよく上体を起こした。
「女神様!?……ケホケホッ」
後光も出さない女神はただの美人と言っても差し支えないはずなのだが、一言も声を発していないフルネールが何者なのかをリリアは一目で看過した。
「ダメですよ。せめてベッドの中にはいてください」
「ですが……」
目の前にいるのはいつもお告げでお話をしたことがある女神様なのだ。それ故に上体を起こした後、ベッドから出ようとするリリアを女神は制止する。
「ダメです……それに今の服装では大地さんが興奮してしまうので……」
「興奮しねぇよ!」
そう言いつつも大地はベッドから出ようとしたリリアをみて慌てて後ろへ振り向いたのだ。
今のリリアの姿は白いネグリジェ一枚だけ。一言にすればそれだけなのだが、そこに大地が振り向く理由がある。
ヒント1.リリアは今も汗をかきまくっていた
ヒント2.服は汗で張り付いてしまう
ヒント3.ネグリジェが白色なのだ
つまり、濡れて張り付いた部分からリリアの肌が透けて見えてしまった。幸い彼女の大事な部分は見ることが無かったのだが、それでも彼女が恥ずかしがることを予想する。
「あ……」
リリアが自分の服装を見て顔を真っ赤に染めながら聞く。
「み……見ました……?」
何をと言えないのは彼女の心境を察してほしいところだ。そしてその問いに大地は二つの選択肢が求められた。『嘘をついて見ていない』と言う事と、『嘘をつかず見た』という事をだ。大地は選択する。
「すまん。少しだけ……見えた」
嘘をつかないほうへ。
リリアは更に顔を真っ赤に染めた。
「そう……ですか……いえ、御見苦しいものを見せてごめんなさ、ケホケホッ」
「だいじょ!……うぶか?」
一瞬振り向きそうになってしまったのをギリギリ持ちこたえる。
「あーフルネール。暖かくなる布をはおらせてやってくれ。そうすれば隠れるだろう?」
「そうですね。リリアちゃん、ちょっと失礼しますね?」
そう言ってフルネールが布でぐるりとリリアの顔が出るように巻き付ける。
「はい。大地さんこちらを向いても大丈夫ですよ」
「おう」
さすがの女神もこんな時にいたずら心を出さなかったのかしっかりと要望通りにしていた。とは言え、顔だけ出ているリリアはややシュールに見えなくもない。
「顔がやっぱり赤いな……」
「あの、なんで女神様がここに?」
当然の疑問にどこから答えるかを一度思案してから大地が答える。
「俺が呼んだんだ」
「そんなこと……できるんですか?」
普通の人が神を呼ぶことなんて出来るわけがない。お告げを聞く事で精いっぱいなのだ。そこから導き出せることから大地が普通の人ではないという結論。
「ダイチさん……」
ただ、それはそれで心配になる。もし特別な人で、もし聖女である自分に近づいたのだとしたら?そして、その目的の為にずっと自分と接するときに演技をしていたら?と、どうしても考え――。
「リリア!」
「ひゃい!……ケホケホッ」
「あ、すまない」
そう言って大地はリリアの頭をゆっくりと撫でる。
「だが、今変な事考えてただろう?表情に出てたぞ?」
「え……はい……」
とはいえ、自分が得体のしれない存在として思われても仕方がないのかもしれない。だから、こんな時だけど……いや、こんな時だから少しでも話しておこうと考える。
「俺はな、実は別の世界から来たんだよ。と言ったら信じるか?」
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