初めての異世界転生

藤井 サトル

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異世界でも家を建てるにはお金が必要

家よりも女心を

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 翌日。いつも通りに石畳のベッドから起きた大地は空を見上げる。まだまだ薄暗い空は太陽が昇り始めた時間なのだ。

 今日こそいいことがありますように。

 そう心の中で願うのも日課になりつつある。
 そんな大地に二つの影が近づいた。

「よお。マジでここで寝てるのな?」

 その声からわかるギルド長の声を聞いて大地は振り返る。
 広がったような鼠色の髪の毛と大地より堀が深い顔。子供が見たら泣いてしまうかもしれないほどの鋭い眼光。見た感じ百戦錬磨のような佇まい。一言でいえば野獣のような男だ。
 そのギルド長と一緒に歩いているのが受付嬢のユーナだった。

「あー、昨日も結局お金は稼げなかったので……」

 昨日のことの顛末てんまつはリリアからギルド長に話が通っている。もっとも、作り話にされているのが落ちだろう。それに非公式であり、且つ、倒した証明すら出来ないほど粉微塵に消し飛んだ為、公式上は『撃退』としてとるほかなかった。

 ……因みにあの後リリアにも土下座することになったのだ。討伐対象の証明が行えなくなったことで彼女の依頼は失敗となってしまったのだから。そのリリアは笑顔で許して――くれなかった。
 何故か楽しそうに「どうしようかな~」などと聖女だけど小悪魔めいたことを言い出してしまい、大地を冷や汗の渦へと叩き込むのだ。どうしてこんな子になってしまったのか。甚だ遺憾であり疑問である。

 ただ、依頼のほうの雲行きはというと撃退という形になったのにお咎めもなく、むしろ『さすが聖女様だぜ』という一人で撃退したことになった賞賛のほうが強かった。俺とがんばったグラネスもまとめて日陰者扱いだ。哀れよのう。

「あー。まぁここで寝ててもいいけど、匂うぞお前……」

 これで3種類の人から言われてしまった。まぁそうだろうよ!昨日全力疾走でリリアのところに向かったんだから汗だってかくし!リリアに変な攻められ方したから余計に汗かいたし!でも家も金もないから風呂入れないし!

「また、滝に飛び込んでくる……」

 字ずらが完全に命を捨てるようなものだけど……ただ体洗うだけだから!おっさんのサービスシーンだから!!

「いや、とりあえずまた俺たちの家で風呂つかうか?」

 ん?……また?……ん?……俺たちの?

 ギルド長の隣にはユーナがいるわけで、今は早朝なわけで……つまり。

「あー、二人は結婚しているのか」

「ん?ああ。言ってなかったな。妻のユーナだ」

 なるほど、つまりユーナさんは人妻っと。これはいけない。ある種の人間から人気が増えてしまう。

「いや、流石に頻繁に借りるわけにはいかないから、滝に打たれてくるよ」

 変な煩悩を捨て去るにもちょうどいいしね。だが、まさにあれは美女と野獣かな?

「お、そうか。滝から戻ってきたら話しがあるからギルドの奥の部屋に来てくれ」

 そう言い残してギルド内へと二人は入っていった。

 何か報酬でももらえるんだろうか?或いは俺が塵にした海龍で大目玉か?どちらにしてもとりあえず滝に落ちてくるか。


 しっかり滝行を終えた大地はその帰りにリリアと偶然にもばったり会った。彼女は神様へのお祈りを済ませたところだという。

「ダイチさんは……また滝ですか?」

「ああ。また滝だ」

 まだ2回目だというのにそれでわかってしまうのは恐らく俺の行動パターンが少ないからだろう。

 ああ、そう言えば少し聞きたいこともあったから丁度いいし聞いておくか。

「なぁ一つ聞いてもいいか?」

「はい?なんでしょう?」

 歩きながら首をかしげるリリアは視線を大地に移したままだ。

「家っていくらくらいで建てれるんだ?」

 しかし、この質問でリリアの足が止まった。

「い、家ですか?な、なんで……?」

 必要な理由ってそんなにあるか?ま、俺の場合はゆったりするためだからな。

 前を歩きすぎた大地も止まり、振り返り、リリアに近づいて目を見て話す。

 そう、人と話すときはちゃんと目を見ないとちゃんと伝わらない。特に大事な話ならなおのこと!!

「なんでってそりゃあ住むためだよ」

 大地の視線はリリアの瞳をとらえている。
 そのリリアは動揺しているのか上目遣いのまま瞳がやや揺れ動く。よく見ると顔も真っ赤に染めている。なんで?

「な、ななな、す、す住むって。わ、わわわ。私と!?」

 リリアの回路がオーバーヒートを起こした。

 は?え?えっ!??

 心の中で驚くが、目の前で真っ赤になってしまったリリアを見て大地に動揺が走り始める。

「ち、ち違うぞ!そういう意味で言ったんじゃないからな!!」

 今の状況と見てみると、30のおっさんが16の少女に告白したように見えるかもしれない。

「えと、えとえとえととととと」

 大地の否定はパニックを起こしつつあるリリアの脳には届かない。目をぐるぐるさせながら選べない言葉を模索して同じ言葉を繰り返すしかできていない。

 こうなった以上、小手先の言葉じゃどうにもならないだろう。
 だから大地はいつも通りの直球勝負にでた。

「リリア!」

 フラフラしだしたリリアの肩をガシッと大地はつかむ。

「ひゃい!」

 大事な話をするときのお約束。先程と同じだ。それはしっかり相手の目を見ること。
 大地とリリアの目が再び交差する。一人は真剣なもので、一人は頬を上気させている。

「よく聞いてくれ」

「は、はい……」

「君の――」

 リリアの顔が耳まで真っ赤に染まった。
 恥ずかしく今にも逃げ出したい気持ちをグッとこらえて健気にも彼女は大地の言葉を待つ。
 
「勘違いだ」

「はい。かんち……勘違いですか?」

 ――が、食い違いという現実を突きつけられたリリアは一瞬にして正気に戻った。

「いや、俺は一人で住めてぐーたら出来る家が欲しいだけなんだよ。宿屋でも過ごせるけれどやっぱ家はいい。リリアはそうおもわ……リリア?」

 ちゃんと誤解は解けたはずなのだが、リリアの顔が赤いままである。まだ照れているのだろうか?とそう考えたが様子が何か違うことに気づき、大地は首をかしげながら様子を伺っていると、そのリリアから一言。

「ダイチさん。少ししゃがんでもらってもいいですか?」

 やや俯いたまま抑揚のない声だがこんな雰囲気はリリアから初めて感じてきた。なんというか圧がすごいような。
 そのため、大地はいうことを聞くようにしゃがみ、「これでいいか?」と伺った瞬間――。

「ばかあああああああああああ!!」

 と周りの人々が初めて聞くリリアの大声にびっくりしながら、その直後に轟くバチーン!!という頬を張り倒す音を聞くことになったのだった。


 ――余談だが、顔を赤くはらした大地をギルド長が盛大に笑う声もギルド内に響いたと言う。
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