上 下
9 / 17

09

しおりを挟む


その日の夕方、マリーが食事を部屋に運んできてくれることになっていたのだが、どうしてもお腹が空いてしまった。わざわざマリーを呼んで早めに食事を持ってきてもらうのは忍びなく、見学も兼ねて食堂に来ていた。
大神殿の食堂は、巨大な吹き抜け空間に綺麗なステンドガラスの天窓が美しい荘厳な空間で、ふわふわと漂う光玉が薄暗い空間を照らしている。長机が三列ほど並べられ、そこには見たことがないほど豪勢なたくさんの料理と飲み物がずらりと置かれていた。
そして次の瞬間、聖女様(?)ソフィーこと私はこの光景に目を見張るのだった。

本当に男しか神官はいないの???

孤児院ではソフィーが年長者で、男と呼べるような他人を見たことがなかったので、まるで異世界に来たような気分になる。それも皆が揃いも揃って、金髪に金色の瞳で、かなりの美丈夫・美男子であった。


そして、なぜそんな目で私を見るの....?


聖女が纏うために作られた純白の神官服に、お茶目なサングラスをかけた私をそんな目で見ないでください。特にイケメン達から珍獣を見たような顔か残念そうな顔を向けられるのは地味にショックです....もしかして、まだ聖女として公式の場で紹介されてないのにずけずけと来てしまったのはまずかったかしら...


マリーをはじめとした侍女・侍従達は別室で食事を取るのが決まりのようだし、ここには私に付き添ってくれるような優しい見方がいない。マリーに黙ってここに来たのは間違いだった...

ど、どうすれば良いの...ここまで来てしまったら腹の虫を抑えてから戻らないと意味がない!でも、料理が並んでいるのは見えるけどどうやったら食べられるのだろうか。マナーも知らないし、こんな豪華な料理さえ見たことがない。モジモジしはじめてしまう...


カンコンカンコン。
食堂に響く足音がこちらへ一直線に向かってくる。


「失礼いたします。あなた様は例の聖女様であらせられますね?このような場所でいかがされましたか?」


私の前に跪き、優しい笑顔を向けてくれたのは、他の神官よりも特徴的で長い帽子を身につけた人だった。少年というより青年、お兄さまと呼びたくなるような安心感のある空気を纏っている。
顔面偏差値の高い神官達の中でも目を引く造形美と、目の下にあるなきぼくろに色気がある。緩やかにカーブを描く長い髪がキラキラと煌いた。これが大人の色気、余裕というやつなのか?

彼はそっと手を私に差し出してきた。
その手も綺麗だ。どこもかしこも綺麗すぎてこっちは緊張しちゃうし、てんぱっちゃうよ...!
彼の瞳と目があった。(サングラスしてるからあっちにはわからないだろうけど)
震える手で彼の手をやっとの思いでとった時だった。


天窓から柔らかな光がそっと私の背中に差し込んだその瞬間、食堂の空気は静寂と化し、いっせいの視線が注がれたのだ。


「ああ、聖女様。あなたはなんて神に祝福されしお方なんだ。」



陶酔したような笑顔をあのイケメンから向けられる。


え?ちょっと待って。これって、ちょうど光が差し込むタイミングが神がかってただけじゃない??


その青年に続くように周囲から感嘆の声が漏れる。


え?どうして?みんな、タイミング詐欺ですってばこれ!


「聖女様、申し遅れました。私は神官長補佐官、ツヴァイ・ラスティーノと申します。この地に聖女様が降臨していただけましたこと心より感謝御礼申し上げます。聖女様を守るのは私どもの務め。なんなりとお申し付けください。そして、皆のもの、まだ公式的な紹介はなかったが、以降聖女様がお困りしていた時は、手となり足となり尽くすことは私たちの義務です。これからは聖女様をただ立たせることのないように、気をつけてください。」


それから私は席に着くと、神官達が食事を運んで来てくれた。
バイキングというらしいのだが、たくさんの料理から好きなものを好きなだけ取って食べる様式なのだそうだ。
神官達に全種類少量ずつ取り分けてもらうと、視界に収まらない数の皿が目の前に並んでいた。


こんな贅沢してバチが当たらないかしら...いいえ、私エセ聖女しているってだけですでにバチ当たり決定事項ですわ。
ええい、まずは今までに食べたことのない、ステーキという夢の料理を実食しようではありませんか!


フォークで突き刺し、口に運ぶ。


人生初ステーキ、美味し!!!!!


あれ?また背中に妙に温かな温度を感じるぞ...?
まさか...


また周辺から熱い視線を注がれる。そう、笑顔でステーキを食べた瞬間御幸がまた差し込んできたのである。


だからいちいち、光で照らさなくて結構です!





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...