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第2章:冷静に竜人国へ駆け落ちする

27:冷静に告白される

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「ファイさま…やつらまたうろついているようです。」


細い路地裏でファイが会っていたのはシエル。


「懲りない連中だな、奴らも。アティスがいることもある。シエル、奴らの監視を引き続き続けてくれ。」


「本当に…世話のかかる子ね、ファイさまったら」


そう言い残すと再び赤い鳥に返信すると飛び去っていった。
近年、人間の国でも、病や呪いの威力が上がっているというし‥一体どうなっているんだ…


***



夕方どき、ファイはダンテの家に戻った。
丘を登っていると、二階の窓辺からキラキラした白銀の波が見えた。

アティス、君はこの国を気に入ってくれたかな。

考えてみると、自分でも強引なことをした気がする。
彼女の父の意思を振り切って、あまりにも突然彼女を人間の国から、彼女の日常から連れ出してしまった。
振り返ってみれば、あの時から私の心はフツフツ何かに燃えていた気がする。
あれはアティスの誕生日パーティーの後、彼女と会った時のことだ。

自分が竜人であることをどう思うかと聞かれた。

彼女は、己が竜人だと気づいていたらしいが、それ以来、何も知識がなく不安なのだという。
そこで、彼女は竜人である私に助けを求めてきた。

その時、なぜか嬉しかった。
彼女が私を頼り、そしてその力になれる。
でも一方で、心配だった。
彼女がなぜ、竜人なのか。
その理由を彼女に伝えることはあまりにも残酷で、危険なことだったから。


「アッ!ファイさま~!お帰りなさい!」


二階の窓から私に気づいた彼女が手を振ってきた。
私も彼女にこたえるのだった。


***



夕食の後、ファイさまがデートに誘ってくれた。


「食後にさ、いいお茶屋さんがあるんだ!霧月国の気候を生かした特産茶葉を使っていてね、それがいま人間界風に甘いお茶として出したら、若者に大人気らしいんだ!どう?興味ない?」

「特産品のお茶!それにもっと市中を回ってみたかったのですわ!ぜひよろしくお願いします!」



(→ちょ、ちょまって…デートはイヤ~!!)



私はエフィスを無理やり押さえ込んだ。



***


今日は満月だった。
だから日が暮れても明るくて、市街地に続く土肌が、白く光り輝き、その先にははオレンジと赤色のまち灯が見えた。


街は想像以上に賑やかだった。
満月効果で、客足はいつもより多いらしく、お祭り騒ぎだ。
客を呼ぶ店員の掛け声。それをすり抜け走りさる子供達に、道端でお芝居する旅道楽者が「このまちの子供は愉快愉快」と笑っている。


やっぱりこの国は素敵だ。
夜はみんな高揚してもっと愉しい。


「ついたよ!ここここ!」

大通りから、細い道に入って、クネクネ曲って、路地階段を降りて進んだ先にこの店はあった。年紀の入った黒い木造の家で、屋根瓦なんて何枚か剥がれ落ちているし、行列どころか人っ子ひとりこの周りにいない。
なんていうか、本当にここ、人気店なのかな…


ガラガラっと引き戸を開けると店内は薄暗くやっぱり誰もいない。
すると、カツカツとヒールの音が奥からしてきた。


現れたのは、シエルさんだった。


「あら、アティス。ようこそ私のお店へ。私が選んであげた服、ちゃんと着こなしているじゃない。さぁ、二人とも二階に上がって。今日は特別に貸し切りよ。」


「今日も‘貸し切り’だろ!ははは」


(→はははって、あなたですよ、人気店と言って私たちを騙したのは)


二階の窓席に向かい合って座った私たちは、満月を見ながら月明かりでお茶を嗜んでいた。


このお茶は、最初は蕾なのだが、お湯を注ぐと器の中で花弁が開いてジャスミンのようなフローラルな香りを湯気とともに立ち上らせる。


「今日はね、アティス。君に大切なことを伝えたくて、安心できる場所で二人きりになりたかったからここに連れてきたんだ。人気店って言って騙しちゃってごめんね。」


二人だけで、大切な話…これはもしかして告白!!!


(→美琴、変な期待はやめなさい。)


「前、アティスは私に聞いたよね。
アティスが、竜人であることを私がどう思うかと。」


私は、予想が外れて残念だったが、気を取り直し、うなずいた。



「アティス、君は。
もともと竜人であったわけではない。
無理やり竜人にさせられてしまった、人間なんだ…。
それもね…私の母の遺体を使って…」


生温かい風が吹き外でカラスが鳴いた。



私は何を考えていたのか、何に怯えていたのか、私は、いや、アティスは何者なのか…
私の意識をすり抜けて体から勝手に器が落ち、音をたてて割れた。

「これは、2年前の話だ。
私の母は、ある竜人に裏切られ、人間に襲われ殺されたんだ。
私が駆けつけたときには母の遺体は人間にほとんど回収されていて、
霧月国には大して持ち帰ってやることができなかった。
悔しかった、憎かった。襲った人間も、それを黙認した竜人も。


そして私は報告を国王にすると、こう聞かれた。

「心臓はどうした?」と。

私が行ったときにはなかったし、こんなときに心臓だけどうしてと思った。

国王が口を開いてからいう内容が私にはにわかに信じられなかった。
なぜなら、竜人の心臓を食べることで人間を竜人に変える禁術があり、それが既にもう成された可能性がるというのだ。

人間は母を死に追いこんだだけでなく、汚らわしい己自身を我々と同等にしようなど…こんなに、恐ろしく、どこまでも狡猾な人間の行為に私は辟易した。

それから、私は母を弔うため、裏切った竜人とそして心臓を食した人間を探しにこの国を出て、
そこで君を見つけたんだ。アティス。

母の匂いのする子供。感情が鮮明に見える子供。
一眼見たときに気づいた。
君は、人間であり、私の母の心臓を食べ、力を得た竜人なのだ。」



彼の話を聞き終わっても私の鼓動は止まらない。
どくどく波打ち、体から飛び出そうだ。
彼の母親の心臓を食べた?この私が?全く身に覚えのないことだ。
何が、一体どういうことなんだ。


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