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我慢のできないお偉い方
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『歓迎会』という名の品定めの宴の翌日──マレク・デミアン・ガウシェーン大公殿下はずいぶんと不機嫌な顔で謁見の間に現れた。
好色な主君のこと、昨夜は高貴な女性たちをパートナーから引き離した迎賓館左翼で散々花を摘み散らし、その中でも一番の美女を妃に迎えると宣言するはずだった。
なのにその横には無体に泣き腫らした姫はおらず、まして二の妃以下側妃たちとして辱められ国に帰れぬ身体にされたはずの者すらいない。
大公が一夜限りの慰みと見なした姫君は自分たちに下げ渡されるはずと期待していた官僚たちは皆、無残な姿を晒すはずだった半裸の女性がひとりもいないことに不満げな表情を浮かべる。
「た…大公……?」
「諸君に問いたい」
いつまでも口を開かないガウシェーン大公に対して恐る恐る声をかけた宰相の発言を無視し、マレクは苛立ちを含んだ声を出す。
「昨夜、迎賓館左翼の扉を閉じたのは、誰だ?」
「は?」
それはひとりではなく、大公以外のすべての家臣の口から漏れた。
扉を──閉じる?
昨夜は念入りに身支度をし、まずは与えられた客室を抜け出してくるはずの女を待った。
「…………来ないな」
「は、はぁ………」
訪れを待つよりも押しかけてくるような尻軽は、まずもって妃になどならない。
だからまずは処女かどうかを確かめる役割を女体に関心を持ち始めた頃合いの若い医局の者にしたのだが、寝室のドアを叩く者はまったくなかった。
むろんそれは役得として女の秘部を探らせたりじっくり観察させるためではなく、単純にこれから大公が甚振る女がどんなモノか見せつけ、しかもその嬌態を覗かせ嫉妬心を煽る魂胆だったのであるが──
「…………来ないな」
「さようで…ございますね………」
大公に見込まれ大公妃となれば、失墜した前王国の頃の権力を取り戻せるかもしれないとガウシェーン公国内の貴族はこぞって未婚の娘をその寝所に送り込んできた。
だからマレクは遠慮なくその花を散らし、散々辱めた後に「気に入らん」という言葉と共に親元に送り返し続けたのである。
当然のように傷物の娘の貰い手が良家のはずもなく、令嬢にもその両親にとっても意に沿わない格下貴族や裕福な商人との婚姻を結ばされたり、修道院に送り込まれたりした。
おかげでこの国の貴族に生娘はおらず、修道院は高貴な行かず後家ばかりと庶民たちは陰口を叩く始末である。
つまりはもう大公家に自分たちの大切な娘を差し出すような貴族はいないと言っていい。
だからこそ『婚姻の祝いに来てほしい』と各国に招待状を出しながらも、肝心の花嫁を得るためにまだ婚約状態にある王家の者たちを指名した。
それはすでに妃教育を修めた貴族令嬢を苦労なく手に入れるのと、あわよくば婚約者を取られた失意の王子たちの誰かに自分の妹を押し付けるためでもある。
だというのに──
「…………来ないな」
「参りませんねぇ………」
繰り返される言葉にブフッと吹き出しそうになった医局の者にイラつきながら、大公はとうとう自ら女たちの部屋に赴くことにしたのである。
好色な主君のこと、昨夜は高貴な女性たちをパートナーから引き離した迎賓館左翼で散々花を摘み散らし、その中でも一番の美女を妃に迎えると宣言するはずだった。
なのにその横には無体に泣き腫らした姫はおらず、まして二の妃以下側妃たちとして辱められ国に帰れぬ身体にされたはずの者すらいない。
大公が一夜限りの慰みと見なした姫君は自分たちに下げ渡されるはずと期待していた官僚たちは皆、無残な姿を晒すはずだった半裸の女性がひとりもいないことに不満げな表情を浮かべる。
「た…大公……?」
「諸君に問いたい」
いつまでも口を開かないガウシェーン大公に対して恐る恐る声をかけた宰相の発言を無視し、マレクは苛立ちを含んだ声を出す。
「昨夜、迎賓館左翼の扉を閉じたのは、誰だ?」
「は?」
それはひとりではなく、大公以外のすべての家臣の口から漏れた。
扉を──閉じる?
昨夜は念入りに身支度をし、まずは与えられた客室を抜け出してくるはずの女を待った。
「…………来ないな」
「は、はぁ………」
訪れを待つよりも押しかけてくるような尻軽は、まずもって妃になどならない。
だからまずは処女かどうかを確かめる役割を女体に関心を持ち始めた頃合いの若い医局の者にしたのだが、寝室のドアを叩く者はまったくなかった。
むろんそれは役得として女の秘部を探らせたりじっくり観察させるためではなく、単純にこれから大公が甚振る女がどんなモノか見せつけ、しかもその嬌態を覗かせ嫉妬心を煽る魂胆だったのであるが──
「…………来ないな」
「さようで…ございますね………」
大公に見込まれ大公妃となれば、失墜した前王国の頃の権力を取り戻せるかもしれないとガウシェーン公国内の貴族はこぞって未婚の娘をその寝所に送り込んできた。
だからマレクは遠慮なくその花を散らし、散々辱めた後に「気に入らん」という言葉と共に親元に送り返し続けたのである。
当然のように傷物の娘の貰い手が良家のはずもなく、令嬢にもその両親にとっても意に沿わない格下貴族や裕福な商人との婚姻を結ばされたり、修道院に送り込まれたりした。
おかげでこの国の貴族に生娘はおらず、修道院は高貴な行かず後家ばかりと庶民たちは陰口を叩く始末である。
つまりはもう大公家に自分たちの大切な娘を差し出すような貴族はいないと言っていい。
だからこそ『婚姻の祝いに来てほしい』と各国に招待状を出しながらも、肝心の花嫁を得るためにまだ婚約状態にある王家の者たちを指名した。
それはすでに妃教育を修めた貴族令嬢を苦労なく手に入れるのと、あわよくば婚約者を取られた失意の王子たちの誰かに自分の妹を押し付けるためでもある。
だというのに──
「…………来ないな」
「参りませんねぇ………」
繰り返される言葉にブフッと吹き出しそうになった医局の者にイラつきながら、大公はとうとう自ら女たちの部屋に赴くことにしたのである。
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