上 下
1 / 22

呼ばれて飛び出て隣国へ

しおりを挟む
ダーウィネット・ダーウィン属王国第二王子ヴィヴィニーア・ラ・クェール殿下はご機嫌だった。

それも『超』という接頭辞が十ぐらい付きそうなほど──

表面的には金髪碧眼、仮面をつけたような穏やかな笑み、この二年で王宮内で読まない・読めない書物はないと言われるほどの知識を得、剣術はイマイチでも長鞭の鍛錬を始めてそちらに適性を見出すほどに成長した。
それもこれも隣に並び立つ、これまた金髪碧眼の──もっとも顔は分厚いベールに覆われているため誰も見ることが叶わないが──自分の肩ほどの小柄な婚約者がいるためである。
十六歳の頃はあまりなかった身長差が、自分の操る武具を変えて鍛錬も少し変えると、まるで窮屈な殻が割れたかのようにヴィヴィニーアはぐんと大きくなった。
かわりにダーウィネット・ダーウィン属王国大聖女の地位にあるフェディアン伯爵家末娘のロメリアは美しさに磨きがかかったが、身長はほぼ伸びず、慣れないハイヒールを履いてもヴィヴィニーアと目線を合わせるには顎を上げねばならない。
そのせいかはわからないが、以前の喧嘩腰で無理やり王都から追い出してどこかへ何かを取りに行かせるというものが、『護衛の訓練を兼ねて連れて行け』という命令に変わった。


そして今は王都を離れて向かっているのはロメリアが行きたかった温泉地である北の山脈ではなく、ダーウィン属王国の外側、ガウシェーン公国である。
王族ではなくデミアン大公爵家が筆頭となり治めているガウシェーン大公国は元々王国であったが、暴君と化した数代前の王が倒されると、残りの王族はすべて冠を脱いで家名を自分の洗礼名とした高位貴族へと身分を落した。
その中でも当時の第二王子であったマレク・デミアンは父王への叛逆首謀者の一人であり、また暴君を打ち倒した英雄ということで国唯一の大公爵家を名乗り、同時に国民の頂点に立ったのである。

つまり──名前を変えただけの王制が続いているというわけだ。

とはいえ政治を取り仕切るのは王侯貴族だけではなくなり、『裕福な』という形容詞が付くものの平民も参加できるようになったため、王制が続くダーウィン及びその属王国とはまた違う道を歩んでいくのだろう。
今回ヴィヴィニーア第二王子及びロメリア大聖女が彼の国に向かうのは、第三代目デミアン大公即位二周年という何とも中途半端な式典参加のためであるが、その際に現在まだ独身であるデミアン大公グラームシァ殿下の正室選定の儀を執り行うため、大聖女にその者を祝福してやってほしいという要望があった。
「……決まってもいないご正室の祝福など……何を祈れと……」
ブツブツ呟くその声はヴィヴィニーアにしか聞こえていないが、まったく持って同感である。
おまけにせっかく婚約者と外遊するめったにない機会だというのに、その喜び以上に周囲からは好奇の目で見られているのが煩わしい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...