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落涙

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「ふっ……うっ……グゥ……ウギュウ……ッ」
おかしな声が、いや呻き声が、それとも鳴き声が部屋に響く。

お姉様方が何か珍しい動物でも連れてきたのかとエリーは2人のさらに後ろに視線をやったが、侍女が澄ました表情と姿勢で従っている以外、何も持っていない。
では…と視線を戻すと、目の前に座るルエナお姉様の目からはぼたぼたと大粒の涙が零れ落ち、ギリギリという音が先程の呻き声と共に赤く染まった唇から覗く歯の間から漏れ聞こえる。
「ゆっ許せないわっ……わっ……わたくしのっ……わだっ、ぐしのっ……」
「あー、はいはい。だーいじょーぶよぉ~。おちつこー、おちつこー。息吸って~、吐いてぇ~、はい吸って~、吐いてぇ~、吸ってぇ~、吐いてぇ~、吸ってぇ~、吐いてぇ~、吸ってぇ~………」
「ブハッ!!」
シーナに言われるまま呼吸を繰り返していたルエナは止められないことにも気付かず、息を吸い込み続けてから、令嬢らしからぬ勢いで大きく息を吐き出した──何故かつられて深呼吸をしていたエリーと共に。

思わず顔を見合わせて笑い出す様子は、礼儀作法を叩き込まれて感情を抑えるように訓練された『女の子型ロボット』ではなく、自然なままの少女たちだ。
前世では『お金持ち』の部類に入る家庭生まれ育ってはいても、『お嬢様』とは言い難い引きこもり生活を送っていたシーナとしては、断然こちらの方がいい。


涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになった顔を温かいお湯でさっぱりと洗い流し、一応は来客用に軽く施していた化粧を落とせば、ルエナの顔はさらに幼く見える。
いつもの「公爵令嬢らしくあれ」と自己暗示をかけて極限まで緊張感と孤高感を保っていた方が仮面であり、本来のルエナは薬物に侵される前の幼さを多大に引きずっているのだ。
そして侍女見習いというよりも完全なる『妹ポジション』に収まっているエリーは、父親と元・婚約者の「世間知らずの純粋無垢な幼な妻になれ」というトンデモ思考に沿うように教育されて同年代の少女たちとはまったく触れ合うことなく育ってしまったため、共感するままにルエナと同じくちょこんと座っている。
「……お姉様、落ち着かれましたか?」
だが、さすがにご令嬢である。
そっと渡された新しいタオルをさりげなくルエナに差し出し、微笑んでルエナが今まで顔の下半分にあてていたタオルを受け取ってさりげなく侍女に渡す──ナニソノワザ、アタシキイテナイ。
シーナがくわっと目を見開き、本物のお貴族様の仕草を目に焼き付けているのを気にもせず、2人の令嬢はおままごとのように果実水やら砂糖菓子やらを勧めあっている。

お嬢様学校のノリ、バンザイ。
行ったことないけど。

シーナはつくづくこの世界に転生してきて良かったと、目の前の美しい鑑賞体にうっとりとした。



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