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『シナリオ』を知っているはずのリオンとシーナが手を出せないのには、もちろん理由がある。
というか単純に『ヒロインが悪役令嬢を助ければ、皆不幸にならずにハッピーエンドを迎えるはず』と思って行動していたのだが、リオンとシーナがルエナを取り巻くゲーム的影響を排除しようと動いていた時にはすでに手が伸びていた。
その頃はまだお互い子供で、『婚約者候補』というだけではたとえ王子といえど「公爵家の使用人を辞めさせろ」などと言っても誰にも取り合ってはもらえないだろうと、放置するしかなかった。
だいたいまだどのような形でルエナの性格形成に影響が与えられているのか、さすがのリオンもシーナも分からなかったのである。
その原因がまさかの子どもが水と果実水以外で飲むことを許されているお茶に混ぜられていた薬物だったなんて──
「むしろ許されて常飲していたからこそ、見逃されてきたのか……」
しかしルエナは特別に「あのお茶じゃないと嫌だ」と言っており、そこから娘の行動に疑問を持ったり──
「貴族の親は子供には関わらないのが普通……だものな。ましてや後継者のアルベールを気にかけることはあっても、いずれどこかに嫁ぐ娘など貴族令嬢としての教養さえあれば放置、か……」
しかし高位貴族の中でもディーファン公爵夫妻は自分の領地で過ごす方を好み、子供との関わりも他の貴族家よりは平民に近い考え方で濃かったはずだ。
それがどうして──
「……王都で雇った使用人たちに、両親の関わり方が非常識で貴族的ではない、王都にいる間は私たちに対する接し方を控え、使用人の手に任せるようにと諭されたと聞いていますが」
「え?あ……ありがとう、アルベール」
王宮にある自分の執務室で考え込んでいたリオンは、側近として同室で書類を捌いていたアルベールに話しかけられてパッと顔を上げた。
自分で意識せずに考え事を口から漏らしていたらしいが、アルベールは眉を寄せつつ、真剣にその問いに答えてくれる。
「母はもちろん、父も王都にいるより領地で育てられました。それは代々の考え方のようで、王都での派閥争いに巻き込まれたくなかったということと、王妃として娶られた一族の姫のおかげで公爵家に陞爵しただけであり、王族から離籍してできた他の家とは一線を画すべきと考えていたためのようです」
「なるほど……地方では貴族と平民とではあまり格差がない、もしくは差別していては成り立たない……」
「そうですね。領地では自分たち一族よりも、そこに住む者たちの方が多いですから、彼らの協力なくしては生活も立ち行きませんし、領地内の平穏を守るための領兵を募ることもできません」
「確かにな」
考えれば簡単なことだ。
王都では貴族の家に上級使用人として入る貴族はいるが、地方では一族以外の貴族が住んでいるというのはあまりない。
当然使用人のほとんどは地元で生まれ育った者だろう。
王都で警護に当たっている私兵のほとんどは王都で生まれ育った者だろうが、逆に領地でその任に当たるのはその地の者。
なのに彼らと考え方や生活の仕方、家庭の在りようが違い過ぎれば、王都よりも領地で暮らすことを選んだ貴族に対して良い感情を得られるとは考えにくい。
地に足をつけて暮らすというのは、その土地に馴染む姿勢を見せるということなのだ。
というか単純に『ヒロインが悪役令嬢を助ければ、皆不幸にならずにハッピーエンドを迎えるはず』と思って行動していたのだが、リオンとシーナがルエナを取り巻くゲーム的影響を排除しようと動いていた時にはすでに手が伸びていた。
その頃はまだお互い子供で、『婚約者候補』というだけではたとえ王子といえど「公爵家の使用人を辞めさせろ」などと言っても誰にも取り合ってはもらえないだろうと、放置するしかなかった。
だいたいまだどのような形でルエナの性格形成に影響が与えられているのか、さすがのリオンもシーナも分からなかったのである。
その原因がまさかの子どもが水と果実水以外で飲むことを許されているお茶に混ぜられていた薬物だったなんて──
「むしろ許されて常飲していたからこそ、見逃されてきたのか……」
しかしルエナは特別に「あのお茶じゃないと嫌だ」と言っており、そこから娘の行動に疑問を持ったり──
「貴族の親は子供には関わらないのが普通……だものな。ましてや後継者のアルベールを気にかけることはあっても、いずれどこかに嫁ぐ娘など貴族令嬢としての教養さえあれば放置、か……」
しかし高位貴族の中でもディーファン公爵夫妻は自分の領地で過ごす方を好み、子供との関わりも他の貴族家よりは平民に近い考え方で濃かったはずだ。
それがどうして──
「……王都で雇った使用人たちに、両親の関わり方が非常識で貴族的ではない、王都にいる間は私たちに対する接し方を控え、使用人の手に任せるようにと諭されたと聞いていますが」
「え?あ……ありがとう、アルベール」
王宮にある自分の執務室で考え込んでいたリオンは、側近として同室で書類を捌いていたアルベールに話しかけられてパッと顔を上げた。
自分で意識せずに考え事を口から漏らしていたらしいが、アルベールは眉を寄せつつ、真剣にその問いに答えてくれる。
「母はもちろん、父も王都にいるより領地で育てられました。それは代々の考え方のようで、王都での派閥争いに巻き込まれたくなかったということと、王妃として娶られた一族の姫のおかげで公爵家に陞爵しただけであり、王族から離籍してできた他の家とは一線を画すべきと考えていたためのようです」
「なるほど……地方では貴族と平民とではあまり格差がない、もしくは差別していては成り立たない……」
「そうですね。領地では自分たち一族よりも、そこに住む者たちの方が多いですから、彼らの協力なくしては生活も立ち行きませんし、領地内の平穏を守るための領兵を募ることもできません」
「確かにな」
考えれば簡単なことだ。
王都では貴族の家に上級使用人として入る貴族はいるが、地方では一族以外の貴族が住んでいるというのはあまりない。
当然使用人のほとんどは地元で生まれ育った者だろう。
王都で警護に当たっている私兵のほとんどは王都で生まれ育った者だろうが、逆に領地でその任に当たるのはその地の者。
なのに彼らと考え方や生活の仕方、家庭の在りようが違い過ぎれば、王都よりも領地で暮らすことを選んだ貴族に対して良い感情を得られるとは考えにくい。
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