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邪教

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ふとシーナは思う。

あのゲームにこんな展開、あったかしら?というか、国交がどうとか、そんな難しい設定あった?

「……僕もね、弟に寝物語をしたことがあるんだけど……」
「ん?」
「乳母に聞き咎められて、父と宰相と教育係にガッツリ怒られて、徹底的に『思想矯正教育』を施されたよ」
「んん?……ん~……あーっ!!あん時!!」
同席する者たちの顔には疑問符が浮かんでいるが、リオンのポツリと零した述懐に反応したのは、『ゲーム設定』を思い出そうと消えかかっている記憶を引き上げようとしていたシーナである。


実のところ、リオンがかつて生きていた世界と一緒に没した妹のことを思い出してから、記憶はその小さな脳みそには耐えきれないほど溢れてきて、高熱を出して寝込むほどだった。
シーナはそんな繊細に生まれていられる環境ではなかったことと、絵描きという天職を得られた元子爵家次男の父のおかげで、溢れ出るものを木炭や絵の具をつけた粗末な絵筆で描いて発散することができたため、リオンよりもかなり早い段階で回復もできたし、描き出すものはすべて『溢れ出す才能からくる芸術』と捉えられたのである。

しかしリオンは──

声に出して話す分には、父や城の重鎮たちの耳に入ることはなかった。
乳母や母が幼い王子の周りにいるメイドたちにきつく口止めしたからである。
しかし子供は成長する──拙い文字で日本の昔話や世界の童話を朧げに紡ぎ出されたものは、「賢王子だ」と頬を緩めた大人たちの顔を凍り付かせた。
その頃はまだ年齢を鑑みてさりげなく思想を塗り替えようという試みが為され、表面的にはそれに従うくらいの知能はあった。
しかし歳の離れた弟が産まれると、ついその可愛さに寝かしつけを買って出て寝物語を聞かせたのが運の尽き──弟のために雇われた乳母はガチガチの愛国主義者で、「王太子殿下が弟殿下を邪教に染めようとしている!」と大騒ぎし、矯正教育へと至ったのである。
「せっかくシーナに挿絵まで描いてもらった絵本は没収されて僕と弟の目の前で焚書されるわ、聖職者が呼ばれて悪魔祓いされるわ、延々と国教についてお説教されるわ……おかげでしばらくの間、弟も怯えてそばに寄りつきもしなかった……」
グッと下唇を噛み、リオンは恨みを込めた拳をテーブルの上で震わせた。


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