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脇役・3

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自分の最期なんて知りたくはない。
きっと間違いなく、事故死とか何か事件性のあることで命を落としたに違いないが、そんなものを知ってどうするというのか。
どうせ生き返られるわけでもないだろうし、生き返れたとしてもあの両親と妹とまた付き合わなければならない人生など、文字通りの生き地獄だ。
もし意識が戻ったとして、きっと一番初めに目に入るのは妹の「ほんとにお姉ちゃんって要領悪い」という嘲りを込めた笑顔だろう。
そんなものを懐かしんで、求めて、家族を恋しく思う気持ちなど、微塵もなかった。
高校生活では授業とバイトに明け暮れる毎日で、彼氏を作る暇もなく、作っても男女交際にまで口を出してくる母親が嫌で、支払いとひとり暮らしのための貯金の残りで自分の携帯電話料金を払うのとアプリゲームへの課金が唯一の贅沢だったのである。
自分の責任とお金で賄ったというのに、母親はそのことにすら顔を顰め、妹が親から見えないアプリを使って存分に年齢不適切な交際をしているのも知らずに姉だけが無駄遣いをしていると決めつけた時には、この家族から自分の存在を切り離したいと思ってしまった。
そんな自分は何人もいて、その証が手首から肘までの腕の内側に残る躊躇い傷が、その絶望感を忘れさせてくれなかった。

それよりもこの『ゲーム』だ。

のめり込んだのは、搾取されるのではなく貢がれる快感。
否定されるのは自分を卑屈に見せる台詞ばかりで、「可愛い」「優しい」「美しい」「素敵だ」「見違えた」等々、ヒロイン自分を肯定してくれる声は甘く、色っぽく、そして家族の誰よりも優しかった。
それが声優たちの脚本通りのセリフだったとしても、プログラムで作られたシチュエーションだったとしても、現実よりもずっとずっと嬉しかった。
そんなゲームに転生したのである。
悪役令嬢でも、ヒロインでもなく、取り巻きの令嬢でもなかったが、ゲームの影響も関与も及ばない公爵令嬢として蘇ったということは──これはゲームの外に続く自分の人生のために動いていいのではないか?

そうだ。
そうでなければ、なぜこんなふうにお金持ちに生まれ変われたのか、生かさなければ意味がない。
幸いにも父親は外国との繋がりがあり、この国では売られていない薬やお茶なども手に入れられた。
しかも父親はその薬を使って妻やメイドに使って、爛れた獣欲を満たしていることも知っている。

しかも──

「ふふ……ふはははっ……バカな奴だ……いや、さすが田舎貴族の末裔だ……こちらの言うことをすんなり信じおって……」
そういえば父が愛人に産ませたという娘が、自分の世話係だったはずのメイドがひとり、屋敷から消えた。
そして父はまた新しい愛人を膝に乗せつつ、こう囁くのを聞いた。
「ちゃんとあのクスリ入りの茶を届けるんだぞ?場所を間違えるな?使いがちゃんとできれば、また存分に可愛がってやるぞ……」


その意味を、公爵令嬢はいずれ、説明されずとも知ることになる。


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