167 / 264
童話
しおりを挟む
もしもこの世界が『剣と魔法』という舞台であれば通じなかったかもしれないが、シーナが前世で読みまくった童話は大いに受けた。
『不思議の国のアリス』の次は『シンデレラ』、『白雪姫』、『眠れる森の美女』──本当は『かぐや姫』や『織姫』、『乙姫』、『瓜子姫』なども話してあげたかったが、さすがに世界観が合わず、今すぐ西洋風に脚色しようと思ってもどこかで齟齬が出そうで諦める。
「……とても、素敵だわ……」
聞いていないふりを続けていたルエナがポツリと零した。
一緒にいたくなければ出て行けばいいのに、ずっと同室にいるということは少しはシーナに対して歩み寄りの気持ちがあったり、幼い伯爵令嬢に対して心を開きたいと思ったのかもしれないし、何よりシーナが語る物語を楽しんでくれたのかもしれない。
そう思えば情感たっぷりに童話を話すのにも力が入る。
というか──
「ね?ルエナ様、エルネスティーヌ様?」
「何でしょうか、シーナ様?」
ルエナ嬢はピクリと身体を強張らせたが、エルネスティーヌ嬢はそれに気付かずに無邪気に問い返す。
「おふたりが知っている童話はございませんの?」
「どうわ……ですか?」
「えぇと……」
何故だか令嬢ふたりは困惑した顔でお互いを見る。
シーナはシーナで、赤ん坊や幼児期に聞かせられるはずの童話の類を自分が知らないのは、きっと生まれのせいだと思って尋ねたのだが、何だか様子がおかしいのに気付いた。
「どうわ、とは……先ほどのような楽しいお話しですか?」
「え~…うん、まあ……そうね……もう少しライトな……例えば『ウサギとカメの駆け比べ』だとか、『オオカミと七ひきの子ヤギ』とか、『犬のおまわりさんと迷子の子ねこ』とか……」
「え?う、ウサギとカメ?オオカミと子ヤギなど……すぐに食い殺されてしまうではないですか!」
「はい?」
理解できない顔を三人の令嬢はつき合わせたが、どうやらこの世界では子供向けのお話などないらしい。
「ゲームと現実の乖離とはいうけど……ここはそんなに子供に優しい世界ではないのね……」
「どういう……意味……?」
「ううん。何でもないわ。そうね……少し時間をいただける?きっとおふたりに楽しい物を見せてあげられるわ」
シーナはようやくルエナと距離が縮められそうな話題を見つけ、にっこりと笑った。
『不思議の国のアリス』の次は『シンデレラ』、『白雪姫』、『眠れる森の美女』──本当は『かぐや姫』や『織姫』、『乙姫』、『瓜子姫』なども話してあげたかったが、さすがに世界観が合わず、今すぐ西洋風に脚色しようと思ってもどこかで齟齬が出そうで諦める。
「……とても、素敵だわ……」
聞いていないふりを続けていたルエナがポツリと零した。
一緒にいたくなければ出て行けばいいのに、ずっと同室にいるということは少しはシーナに対して歩み寄りの気持ちがあったり、幼い伯爵令嬢に対して心を開きたいと思ったのかもしれないし、何よりシーナが語る物語を楽しんでくれたのかもしれない。
そう思えば情感たっぷりに童話を話すのにも力が入る。
というか──
「ね?ルエナ様、エルネスティーヌ様?」
「何でしょうか、シーナ様?」
ルエナ嬢はピクリと身体を強張らせたが、エルネスティーヌ嬢はそれに気付かずに無邪気に問い返す。
「おふたりが知っている童話はございませんの?」
「どうわ……ですか?」
「えぇと……」
何故だか令嬢ふたりは困惑した顔でお互いを見る。
シーナはシーナで、赤ん坊や幼児期に聞かせられるはずの童話の類を自分が知らないのは、きっと生まれのせいだと思って尋ねたのだが、何だか様子がおかしいのに気付いた。
「どうわ、とは……先ほどのような楽しいお話しですか?」
「え~…うん、まあ……そうね……もう少しライトな……例えば『ウサギとカメの駆け比べ』だとか、『オオカミと七ひきの子ヤギ』とか、『犬のおまわりさんと迷子の子ねこ』とか……」
「え?う、ウサギとカメ?オオカミと子ヤギなど……すぐに食い殺されてしまうではないですか!」
「はい?」
理解できない顔を三人の令嬢はつき合わせたが、どうやらこの世界では子供向けのお話などないらしい。
「ゲームと現実の乖離とはいうけど……ここはそんなに子供に優しい世界ではないのね……」
「どういう……意味……?」
「ううん。何でもないわ。そうね……少し時間をいただける?きっとおふたりに楽しい物を見せてあげられるわ」
シーナはようやくルエナと距離が縮められそうな話題を見つけ、にっこりと笑った。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる