144 / 265
昼食・2
しおりを挟む
美味い。
美味い。
『美味しい』なんてお上品な感想がバカバカしくなるぐらい、美味い。
『簡易的』なはずなのに、冷めても美味い。
ヴィシソワーズ。
茹で野菜とパリッとした青菜を合わせたサラダ。
ローストビーフ。
スライスされたパン。
デザートはチーズケーキ。
スープとデザートはともかく、サラダとローストビーフをパンで挟めば、あっという間にサンドイッチの出来上がり。
別添えで入れられていた、西洋わさびが混ぜられた卵と酢のソース──いわゆるマヨネーズを塗ればさらに美味い。
「くぅぅぅっ……さすがに公爵家の厨房を任されるだけある……悔しいっ……」
用意された皿の上でササッと手早くサンドイッチを仕立て、ローストビーフ用のナイフでふたつに切ってアルベールに差し出したシーナはそう言いながら、それでも満面の笑みでどれだけの口福を味わっているのかを表現している。
ちなみに料理はもうひとり分あり、そちらもサンドイッチとなったが、目を覚ましたイストフと彼を医局室に運んでくれたクールファニー男爵令息のリオネルとリュシアン兄弟が相伴に与っていた。
「うんめぇ……食堂のおばちゃんのサンドイッチより数倍美味い……」
「うん、美味しい。素材だけじゃなく、やっぱり調理とかいろいろ要素はあるんだろうな。母さんの料理も美味いけど」
兄弟はそれぞれ恍惚としながら感想を言い合い、イストフは感慨深そうに無言でゆっくりと食べている。
二人前の食事を五人で分け合うというのは少なすぎるような気がするが、公爵家から届いた量は四人前と言ってもおかしくはなく、これもまた『公爵家としての矜持』なのかもしれなかった。
「やっぱり積み重ねって大事よねぇ……どう足掻いても『上級使用人を目指せ!』的なカリキュラムのおままごと見習い授業じゃぁねぇ……」
「あ!?やっぱり?そう思った?」
「思った!ここで習ってることじゃ従僕とか広間侍女の中でもイイ線行くくらいで、それ以上行くためにはゴマすりと場の空気読み能力が必須とか……ある程度性格汚くないとやってられないとか……」
「うん……そうだよねぇ……兄上はともかく僕は王宮で官職採用がなければ、父上の縁を頼って伯爵家の侍従に雇ってもらえればいいんだけど……」
「そんなこと!僕がリュシアンを追い出すわけないじゃないか!男爵家とは言え本家から分けられた領地だってあるんだ。領民たちの生活を少しでも良くすることが、僕ら兄弟の役目だ!」
何とも志の高い兄と将来を悲観しがちな弟の寸劇のようなやり取りに、シーナがパチパチと拍手をする。
将来は仕事どころか生活すら心配する必要のないディーファン公爵家跡取り様と、雇われる先に関しては王太子直属ではなくとも王宮近衛兵入りは確実な学園内剣術上位者様は何とも言えない表情で顔を見合わせた。
美味い。
『美味しい』なんてお上品な感想がバカバカしくなるぐらい、美味い。
『簡易的』なはずなのに、冷めても美味い。
ヴィシソワーズ。
茹で野菜とパリッとした青菜を合わせたサラダ。
ローストビーフ。
スライスされたパン。
デザートはチーズケーキ。
スープとデザートはともかく、サラダとローストビーフをパンで挟めば、あっという間にサンドイッチの出来上がり。
別添えで入れられていた、西洋わさびが混ぜられた卵と酢のソース──いわゆるマヨネーズを塗ればさらに美味い。
「くぅぅぅっ……さすがに公爵家の厨房を任されるだけある……悔しいっ……」
用意された皿の上でササッと手早くサンドイッチを仕立て、ローストビーフ用のナイフでふたつに切ってアルベールに差し出したシーナはそう言いながら、それでも満面の笑みでどれだけの口福を味わっているのかを表現している。
ちなみに料理はもうひとり分あり、そちらもサンドイッチとなったが、目を覚ましたイストフと彼を医局室に運んでくれたクールファニー男爵令息のリオネルとリュシアン兄弟が相伴に与っていた。
「うんめぇ……食堂のおばちゃんのサンドイッチより数倍美味い……」
「うん、美味しい。素材だけじゃなく、やっぱり調理とかいろいろ要素はあるんだろうな。母さんの料理も美味いけど」
兄弟はそれぞれ恍惚としながら感想を言い合い、イストフは感慨深そうに無言でゆっくりと食べている。
二人前の食事を五人で分け合うというのは少なすぎるような気がするが、公爵家から届いた量は四人前と言ってもおかしくはなく、これもまた『公爵家としての矜持』なのかもしれなかった。
「やっぱり積み重ねって大事よねぇ……どう足掻いても『上級使用人を目指せ!』的なカリキュラムのおままごと見習い授業じゃぁねぇ……」
「あ!?やっぱり?そう思った?」
「思った!ここで習ってることじゃ従僕とか広間侍女の中でもイイ線行くくらいで、それ以上行くためにはゴマすりと場の空気読み能力が必須とか……ある程度性格汚くないとやってられないとか……」
「うん……そうだよねぇ……兄上はともかく僕は王宮で官職採用がなければ、父上の縁を頼って伯爵家の侍従に雇ってもらえればいいんだけど……」
「そんなこと!僕がリュシアンを追い出すわけないじゃないか!男爵家とは言え本家から分けられた領地だってあるんだ。領民たちの生活を少しでも良くすることが、僕ら兄弟の役目だ!」
何とも志の高い兄と将来を悲観しがちな弟の寸劇のようなやり取りに、シーナがパチパチと拍手をする。
将来は仕事どころか生活すら心配する必要のないディーファン公爵家跡取り様と、雇われる先に関しては王太子直属ではなくとも王宮近衛兵入りは確実な学園内剣術上位者様は何とも言えない表情で顔を見合わせた。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる