上 下
141 / 266

説明・1

しおりを挟む
「聞いてほしい」とは言ったもののリオンはどこからどう話せばいいかと逡巡し、ルエナは何を言われるのかわかりきっているという諦観の表情で沈黙したまま待っている。
「……たぶん、信じられない…と、思われる、と思う……けど、まずは、聞いてほしい……」
ひと言ずつ区切りながらリオンが口火を切ると、ルエナはまだ黙ったまま頷いた。
「まず、ひとつだけハッキリさせておきたいんだが……シーナ、嬢……いや、シーナ?う~ん……シオンと呼ばせてほしいんだけど」
「え?」
「うん……まずはそこからなんだけど……ああ、ハッキリさせたいとか言っといて……えぇと……と、とりあえず!シオンと俺は恋人ではない!以上!」
「は…ぁ……あ、あの……?」
「というだけではわからないよね……この世界では全く血の繋がりはないけれど……この国に産まれる前……俺と詩音は、双子の兄妹だったんだ……」

この世界で言う『医局』に当たる『病院』という組織の中で医局長よりもはるかに財産と権威のある家庭に産まれたこと。
あまり夫婦仲の良くなかった両親と、歳の離れた兄がふたりいる家庭であったこと。
シオンが実の兄に二度も穢され、その際に止めに入った凛音が絞め殺され、また詩音も惨殺されたこと。
この世界でも珍しいピンクブロンドの髪を持って生まれ変わったシオン──シーナを守るため、実父であるオイン子爵の弟はシーナの髪を染め、『画家の息子』としてディーファン家に連れてきたこと。
その時に見た幼く可愛らしい令嬢に、前世の自分たちが楽しんでいた『ゲーム』という遊びと、それに付随する小説の挿絵と同じ顔を見出し、まずシーナが『詩音』であることを思い出したこと。
現在の国王であるリオンの父の知人であるという理由で宮廷画家の扱いで二人が登城した際、シーナが同い年の王太子に自分のデッサンを見せようと持ってきたのが刺激となり、リオンもまた『凛音』という過去を思い出したこと。

「……まだまだ話したいことがある。だけど……もう、お腹いっぱい、だよね?」
「え……?あ、あの……い、今のお話しでお腹は膨れませんが……あの、はい……理解が……追いつきません……」
「だよねー」
前世の世界では通じた「お腹いっぱい」もやはり通じはしなかったが、それでもルエナは理性を失わずに耳を傾けてくれた。
それだけでも、あの『薬物混入茶』の影響はだいぶ抜けているのがわかる。
「まぁ……アルベールも理解するのに数年かかったんだから、今すぐ理解してとは言わないよ」
「お…お兄様、も……まさか、その『てんせいしゃ』という方なのですか?」
「え?ああ、ううん、いやいや違うよ?アルベールはルエナ嬢のお兄さんで、間違いなくこの世界の人!前世なんて欠片も覚えていないし、普通はそうだから!」
「は…はぁ……?」
「これは前世での、俺たちの生きていた世界での考え方のひとつでね?『魂は輪廻転生を経て様々な経験を積み、末に解脱する』というものがあるんだ」
「げだつ……」
さらに不可解な知識を披露されて、ルエナは困惑の表情を浮かべる。
「解脱とは仏教の教えで……」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...