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辻褄

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「あ~」
「つまり…」
「そういう…」
「なるほど…」
ニヤニヤと察しの良さげな顔で呟く男爵令息兄弟──クールファニー男爵家のリオネルとリュシアンと名乗ったふたりはうんうんと頷き、『理解した』という顔である。
「つまり、王太子殿下に脈はなかった…と」
「というか、はたから見てても、おふたりは恋人というよりも『同志』…いや、『きょうだい』のような感じでしたものね~」
意外や意外、どう見てもモブキャラ中のモブっぽいふたりは、リオンとシーナの関係を正確に言い当てた。
「えっ?!」
「えぇっ!!なんで?!」
「は?」
そのあまりの間と当てっぷりに驚いたアルベールとシーナが同時にそちらを向くと、兄はキョトンとし、弟は怒られると思ったのか頭を扉の陰に引っ込めた。
「ちょちょちょちょ?ちょっとぉ?どうして?!何でアタシが、あいつとは恋仲じゃないってわかったの?!」
「はぇっ?!ええぇっ!だ、だって……」
「え…いや……うん……あの……僕らの上には、兄と姉がいまして」
「え?うん?」
「その……双子なんですが。姉はもう嫁いでいるんですけど、実家に帰ってくると……」
「うん。その……失礼ですが、殿下とシーナ嬢のように……その」
「男兄弟とも、僕らの下にいる妹に構うのとも違う……独特な空気感が、とてもよく似てて」
「どくとく……」
何がどう違うのかわからないが、一卵性双生児とも、歳の差のあるきょうだいとも違うらしい。
そうしてこの二人は悟ったらしい──「あ、このふたりに特別な物はないな」と。

それにしてもこんなモブ絡みの場面など、ゲームや小説にあっただろうか──

シーナは首をひねる。
良くも悪くもゲーム三昧、読書三昧、そして漫画描き放題の日々。
文字ですら脳内ですぐにスチル変換できるほど読みこんだのだ──そんなシーナが、この兄弟が絡むような場面を取りこぼすとは思えない。
「…………あ」
確かわざと・・・攻略を失敗した場合、その攻略対象キャラに失恋したショックで失神し、『医局室のベッドの上で目覚める』というものがあった。
そこで出会うのは攻略キャラではないがかなりなイケメン医師で、攻略対象キャラに再アタックするための助言と『攻略対象とのイベント前まで巻き戻し』という反則技を発揮してもらえるである。
しかしその巻き戻しは初期の頃では『ほぼ最初からやり直し』に近いものだったためかなり不評で、アップデートで一時消え、再装された時は先行初期組はもうほとんどのキャラを攻略し、そうでない人たちは『やり直すイベントの前日』を選べる親切仕様となっていた。
その時手に入れていた攻略アイテムは消失してしまうが、そのアイテムを手に入れるためのミニイベントが同じく発生するため、少し回りくどく感じてしまうのも否めず、詩音はなるべくその道を選ばずに進めたのである。
逆に凛音はガチ勢として『すべてのイベント発生、横ルート、裏ルート、まっ平になるまでやり尽くす派』として、すべてのキャラクターでこの攻略失敗ルートもプレイしていた。
「いや、だって『本当に巻き戻ったの?嬉しい……今度こそ、失敗しないわ!』って、ヒロインとは思えない台詞言うんだよ?もう絶対、これは二次製作狙った台詞じゃね?」
後にその巻き戻しルートに入らないと起こらないイベントも追加され、攻略キャラも追加されてだんだんカオスになっていったのを、シーナは死んだような目で思い出す。
(あの時『倒れたシーナ』を運んだキャラなのね、きっと……)
そう考えれば、彼らがシーナたちの前に現れたことの辻褄が合う。


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