119 / 264
絵画
しおりを挟む
確かに──イストフは領地の屋敷に飾ってある家族の肖像画の中でも、いつの間に描かれたのかわからないとても自然な物が二~三点ある。
「子供はじっと見られることに恐怖を抱くことがあるからね。見合いや正装姿を記録として残す場合はポーズを決めてもらわないといけないけど、やっぱり子供は自然な笑顔を残したいもんね。ただ……そこまで記憶力や想像力を使ったり、スケッチして後から仕上げるっていうのができる画家の数が少なすぎるのよ」
「ああ……確かに、父上がお祖父様に文句を言っていたな……『たかだか子供の肖像画を描いてもらうのに、隣国から高い金を出して画家を呼ぶなど、単なる無駄遣いだ』と。俺と双子の妹、そして母が祖父の屋敷で遊んでいる場面だったが……」
「へぇ!隣国から。さっすが辺境領ね。一度見てみたいわ、その絵を」
目をキラキラと輝かせたシーナがふわふわとした髪を揺らして、思い出を語るイストフにグッと迫った。
ついさっき捨て去ったとはいえ感情がすぐにクリーンになるわけではなく、イストフはついグラリと理性を揺さぶられる。
それを見たアルベールがムッとするが、興奮した表情のままシーナはそちらに勢いよく顔を向けて「行きたーい!」と叫ぶ──まるで、子犬が遊びのために棒を投げてもらうのを待つように。
「……今回の件が収まり、ルエナ嬢も我々の…いや、少なくとも俺の詫びを受け入れてもらえるようならば、祖父の住まう屋敷へ招待させていただきたい。いかがでしょうか?アルベール様」
「……何故、俺に許可を?」
「シーナ嬢だけでなく……ぜひ、アルベール様とルエナ嬢もご一緒に。父と兄に会ってもらいたいというつもりはないし、特にエビフェールクス辺境侯爵家と懇意にしてもらいたいという下心はありません。逆に父に領邸に招く許可を請えば、諸手を挙げて歓迎してルエナ嬢を監禁するでしょうね」
「かっ……」
シーナがズザッと一気に引き下がり、アルベールの後ろに隠れる。
「何なにナニ?何なのっ?!拉致監禁幼女暴行とか……エビフェールクス辺境侯爵家って変態一族?」
「えっ……いやいや!おかしいのは父と兄だけだから!俺は違うから!!」
ヒィ~とわざとらしく怯えるシーナに対してイストフは慌てて拒否するが、おそらく、きっと、からかわれていることに気が付いていない。
「子供はじっと見られることに恐怖を抱くことがあるからね。見合いや正装姿を記録として残す場合はポーズを決めてもらわないといけないけど、やっぱり子供は自然な笑顔を残したいもんね。ただ……そこまで記憶力や想像力を使ったり、スケッチして後から仕上げるっていうのができる画家の数が少なすぎるのよ」
「ああ……確かに、父上がお祖父様に文句を言っていたな……『たかだか子供の肖像画を描いてもらうのに、隣国から高い金を出して画家を呼ぶなど、単なる無駄遣いだ』と。俺と双子の妹、そして母が祖父の屋敷で遊んでいる場面だったが……」
「へぇ!隣国から。さっすが辺境領ね。一度見てみたいわ、その絵を」
目をキラキラと輝かせたシーナがふわふわとした髪を揺らして、思い出を語るイストフにグッと迫った。
ついさっき捨て去ったとはいえ感情がすぐにクリーンになるわけではなく、イストフはついグラリと理性を揺さぶられる。
それを見たアルベールがムッとするが、興奮した表情のままシーナはそちらに勢いよく顔を向けて「行きたーい!」と叫ぶ──まるで、子犬が遊びのために棒を投げてもらうのを待つように。
「……今回の件が収まり、ルエナ嬢も我々の…いや、少なくとも俺の詫びを受け入れてもらえるようならば、祖父の住まう屋敷へ招待させていただきたい。いかがでしょうか?アルベール様」
「……何故、俺に許可を?」
「シーナ嬢だけでなく……ぜひ、アルベール様とルエナ嬢もご一緒に。父と兄に会ってもらいたいというつもりはないし、特にエビフェールクス辺境侯爵家と懇意にしてもらいたいという下心はありません。逆に父に領邸に招く許可を請えば、諸手を挙げて歓迎してルエナ嬢を監禁するでしょうね」
「かっ……」
シーナがズザッと一気に引き下がり、アルベールの後ろに隠れる。
「何なにナニ?何なのっ?!拉致監禁幼女暴行とか……エビフェールクス辺境侯爵家って変態一族?」
「えっ……いやいや!おかしいのは父と兄だけだから!俺は違うから!!」
ヒィ~とわざとらしく怯えるシーナに対してイストフは慌てて拒否するが、おそらく、きっと、からかわれていることに気が付いていない。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい
キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。
妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。
そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。
だけどそれは、彼女の求めた展開だった。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる