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搾取
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「……まあ……そっちはいいや。え?でもなんで十六?王国法では男女とも十八歳以上にならないと婚姻は許可されないんじゃ……」
「あ、ああ……辺境侯爵領は元々隣国のジャビウ王国の領地だったんだ。和平交渉の一環でダンガフ王国の領地として譲渡されたんだが……ジャビウ王室が打倒されて共和制になってから、領地を略奪した我が国に返還せよと言いがかりをつけている。その理由がジャビウ王国憲法や王国後、そして慣習をいまだ遵守しているという理由だけだ」
「えええ……」
ゲームや小説では隣国との関係など出てこない。
さすがにリオンは王室関係者としてしっかりと周辺国までの歴史や政治、地理などはしっかり叩き込まれているが、シーナはそれほど明るくはないため、それゆえアルベールは簡単に説明したのだが、イストフは「そんなことにすら無知なのか…」と言いたげな呆れた表情をしている。
庶民であっても辺境侯爵領の成り立ちと引き離された恋人という題材はとても人気で、特にダンガフ王国と滅亡したジャビウ王国の方の違いで恋人たちはそれぞれ別の政略結婚を強いられたが、いつか再会することを胸に抱き、互いの伴侶が亡くなった晩年にようやく再婚し、かつての配偶者ではなくふたりっきりの墓に共に入る──というのが悲恋物語として有名なのだ。
しかしシーナはそういう恋物語には興味がなく、しかも生きていくのに精いっぱいだったということもあり、父娘共に絵筆を握っているのが常であり、貴族のための肖像画か風景画を描く毎日。
貧民街では少女たちが無防備に『素敵な恋愛』を夢見ながら路地を歩いていては、自ら攫われて清らかさとは永遠にオサラバする未来しか待っていない。
「辺境侯爵領はまあそんなわけで、十六歳になったら男女ともに婚姻は可能なんだ。そうすれば税の取れる国民が増えるという絡繰りでもあるが」
「ああ……そうか……婚姻するっていうことは成人するってことだものね……じゃあ隣国王室滅亡って……」
「若年層貧困の増加による不平不満が募ったせいだとも言われているが、成人男子に課される徴兵制度も『打倒王家』に傾いた要因と言われているな」
「若い青少年に『産めよ育てよ』と推奨しつつ自分たちの独立した生活もままならないうちから税金を搾り上げ、しかも国力として兵役を課すなんて……そりゃあねぇ……」
恋愛話よりよほど納得した顔で国の仕組みを話し合うシーナは、嫁入り先を探すために学園に通う貴族令嬢らしくなく、どちらかといえば士官志望なのかと錯覚する。
しかしそれにしては歴史に明るくないアンバランスさにやはり不気味さを覚え、イストフはシーナに対して普通に接するアルベールに今までにない感情を抱いた。
「あ、ああ……辺境侯爵領は元々隣国のジャビウ王国の領地だったんだ。和平交渉の一環でダンガフ王国の領地として譲渡されたんだが……ジャビウ王室が打倒されて共和制になってから、領地を略奪した我が国に返還せよと言いがかりをつけている。その理由がジャビウ王国憲法や王国後、そして慣習をいまだ遵守しているという理由だけだ」
「えええ……」
ゲームや小説では隣国との関係など出てこない。
さすがにリオンは王室関係者としてしっかりと周辺国までの歴史や政治、地理などはしっかり叩き込まれているが、シーナはそれほど明るくはないため、それゆえアルベールは簡単に説明したのだが、イストフは「そんなことにすら無知なのか…」と言いたげな呆れた表情をしている。
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しかしシーナはそういう恋物語には興味がなく、しかも生きていくのに精いっぱいだったということもあり、父娘共に絵筆を握っているのが常であり、貴族のための肖像画か風景画を描く毎日。
貧民街では少女たちが無防備に『素敵な恋愛』を夢見ながら路地を歩いていては、自ら攫われて清らかさとは永遠にオサラバする未来しか待っていない。
「辺境侯爵領はまあそんなわけで、十六歳になったら男女ともに婚姻は可能なんだ。そうすれば税の取れる国民が増えるという絡繰りでもあるが」
「ああ……そうか……婚姻するっていうことは成人するってことだものね……じゃあ隣国王室滅亡って……」
「若年層貧困の増加による不平不満が募ったせいだとも言われているが、成人男子に課される徴兵制度も『打倒王家』に傾いた要因と言われているな」
「若い青少年に『産めよ育てよ』と推奨しつつ自分たちの独立した生活もままならないうちから税金を搾り上げ、しかも国力として兵役を課すなんて……そりゃあねぇ……」
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