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反省
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意外にもルエナは落ち着き、リオンとシーナ、そしてアルベールとの話し合いに応じてくれた。
ただしやはり『仲よく学園へ行く』というミッションについては、まだ心の準備ができていないという。
「……これはわたくしの問題ではありますが……やはり、その……」
「まあ~…ねぇ……やっぱり『三つ子の魂何とやら』だもの」
「だな」
うん、うん、とリオンとシーナは真顔で頷くと、「そりゃそーだ」と声を合わせてその作戦を放棄した。
「み、三つ子……?わ、わたくし、お兄様の他にきょうだいはおりませんが……?」
「あ~……いや、そういうことではないのだ。すまない、ルエナ嬢……いずれ、このシーナ嬢とのことはちゃんと説明させてもらう」
「……いえ……よいのです……殿下がお心をお決めになったのならば」
「えっ?!嫌ですよ!こんな『ルエナ様大好きおはようからおやすみまでいつでも一緒希望男』なんて、こっちから願い下げですから!ていうか、お願いですから見捨てないでやってくださいませ!」
「はっ?!」
弱々しく俯くルエナに向かってシーナは突進する勢いで跪き、まだかなりほっそりとしたままの白い手を取って懇願する。
「まったく持ってあのアホ……いえ、殿下…おぇ……と、とにかく!私にもあちらにもどっちにも『お心』なんてありませんから!!逆にルエナ様はあっちに心はありますか?ほんの欠片でも!」
「こっ……心っ……わ、わたくしっ……」
カァッとルエナの頬が赤くなったが、それはリオンを慕う気持ちからではなく、単純にシーナに問い詰められて恥ずかしさを覚えただけだと言い訳する。
「……そ、そのっ……わ、わたくし……わたくしの気持ち……心は、わかりませんの……」
「はっ?!」
今度はリオンが呆然と問い返す。
ほんの少しだけ躊躇い、あれほど嫌悪感を抱いていたはずのシーナ嬢がまだ手を放さずにいることに勇気が湧いたのか、わずかに力を入れて指を握りこむと、ルエナはゆっくりと言葉を紡いだ。
「……初めてお会いした時……わたくしはまだその意味をわかっていなくて……気が付いたら『リオン殿下の婚約者』となっておりました。ええ……でも、あの頃から今までの記憶があやふやで……両陛下より特別に兄と共にリオン殿下所縁の別荘という所へ招かれた時は、とても楽しかった気がするのですが……家に戻ってから後はまたあやふやになってしまって……」
「あやふや?」
「ええ、お兄様。ずっとぼんやりしていたわけではないと思うのですが……何故か子供の頃に遊んだ記憶や楽しかった思い出などがわかりませんの。いつも何かイライラと気に障るものがあって……でもお茶をいただくとスゥッと何か身体の芯が冷えて落ち着きましたわ。でも、その後にわたくしはどうしても誰かに文句を言いたくなってしまって……飲みたくないのに、わざわざ嫌な物を飲んでいると思うのに、何故かあのお茶が美味しく思えて『あのお茶を』と言っていましたわ」
「あのお茶……」
「はい。ポリーから……戻ってきた乳母から聞きました。わたくしは家庭教師と専属侍女だった者からそれぞれ……その、異物の入ったお茶を飲まされ、いわゆる『中毒』という状態になっていたのだと」
ルエナはアルベール、リオン、そしてシーナへと視線を向けてから、深々と頭を下げた。
「わたくしの未熟さからくることとはいえ……オイン子爵令嬢には大変な失礼をいたしました。足りぬ頭を下げても何も詫びとはなりませんでしょうが、どうかお納めくださいませ。そして、あなた様の望むものがございましたら、何なりとわたくしの力の及ぶ限りを尽くして償いたいと存じます」
「えっ……エェェェェ────ッ?!そっ、そんなのいりません!要らないわけじゃないけど!償いなんていらない!いらない!!そんなことをしてもらうために…………償い?マジで?何でも……?」
「おっ、おい?!変なこと言うなよ?!」
過剰とも言えるルエナの謝罪の言葉を最初拒否したシーナは、ふと思いついてニヤリと笑う。
リオンはその表情に青褪め、余計なことを言わせまいとするようにシーナの口を塞ごうとしたが──昔からこの手の争いで『妹』には勝った試しがなかった。
「ムグッ…んじゃぁ!一緒に学園に行くのはまだいいとして……アタシとお友達になって!そんでもって、一緒にピクニックに行きましょう!!」
「は……?」
公爵家の令嬢ともなれば、低位貴族よりもはるかに私財産がある。
さすがにそれをすべて差し出せと言われれば断るを得ないが、シーナが要求してきたのはまったく予想もつかないものだった。
ただしやはり『仲よく学園へ行く』というミッションについては、まだ心の準備ができていないという。
「……これはわたくしの問題ではありますが……やはり、その……」
「まあ~…ねぇ……やっぱり『三つ子の魂何とやら』だもの」
「だな」
うん、うん、とリオンとシーナは真顔で頷くと、「そりゃそーだ」と声を合わせてその作戦を放棄した。
「み、三つ子……?わ、わたくし、お兄様の他にきょうだいはおりませんが……?」
「あ~……いや、そういうことではないのだ。すまない、ルエナ嬢……いずれ、このシーナ嬢とのことはちゃんと説明させてもらう」
「……いえ……よいのです……殿下がお心をお決めになったのならば」
「えっ?!嫌ですよ!こんな『ルエナ様大好きおはようからおやすみまでいつでも一緒希望男』なんて、こっちから願い下げですから!ていうか、お願いですから見捨てないでやってくださいませ!」
「はっ?!」
弱々しく俯くルエナに向かってシーナは突進する勢いで跪き、まだかなりほっそりとしたままの白い手を取って懇願する。
「まったく持ってあのアホ……いえ、殿下…おぇ……と、とにかく!私にもあちらにもどっちにも『お心』なんてありませんから!!逆にルエナ様はあっちに心はありますか?ほんの欠片でも!」
「こっ……心っ……わ、わたくしっ……」
カァッとルエナの頬が赤くなったが、それはリオンを慕う気持ちからではなく、単純にシーナに問い詰められて恥ずかしさを覚えただけだと言い訳する。
「……そ、そのっ……わ、わたくし……わたくしの気持ち……心は、わかりませんの……」
「はっ?!」
今度はリオンが呆然と問い返す。
ほんの少しだけ躊躇い、あれほど嫌悪感を抱いていたはずのシーナ嬢がまだ手を放さずにいることに勇気が湧いたのか、わずかに力を入れて指を握りこむと、ルエナはゆっくりと言葉を紡いだ。
「……初めてお会いした時……わたくしはまだその意味をわかっていなくて……気が付いたら『リオン殿下の婚約者』となっておりました。ええ……でも、あの頃から今までの記憶があやふやで……両陛下より特別に兄と共にリオン殿下所縁の別荘という所へ招かれた時は、とても楽しかった気がするのですが……家に戻ってから後はまたあやふやになってしまって……」
「あやふや?」
「ええ、お兄様。ずっとぼんやりしていたわけではないと思うのですが……何故か子供の頃に遊んだ記憶や楽しかった思い出などがわかりませんの。いつも何かイライラと気に障るものがあって……でもお茶をいただくとスゥッと何か身体の芯が冷えて落ち着きましたわ。でも、その後にわたくしはどうしても誰かに文句を言いたくなってしまって……飲みたくないのに、わざわざ嫌な物を飲んでいると思うのに、何故かあのお茶が美味しく思えて『あのお茶を』と言っていましたわ」
「あのお茶……」
「はい。ポリーから……戻ってきた乳母から聞きました。わたくしは家庭教師と専属侍女だった者からそれぞれ……その、異物の入ったお茶を飲まされ、いわゆる『中毒』という状態になっていたのだと」
ルエナはアルベール、リオン、そしてシーナへと視線を向けてから、深々と頭を下げた。
「わたくしの未熟さからくることとはいえ……オイン子爵令嬢には大変な失礼をいたしました。足りぬ頭を下げても何も詫びとはなりませんでしょうが、どうかお納めくださいませ。そして、あなた様の望むものがございましたら、何なりとわたくしの力の及ぶ限りを尽くして償いたいと存じます」
「えっ……エェェェェ────ッ?!そっ、そんなのいりません!要らないわけじゃないけど!償いなんていらない!いらない!!そんなことをしてもらうために…………償い?マジで?何でも……?」
「おっ、おい?!変なこと言うなよ?!」
過剰とも言えるルエナの謝罪の言葉を最初拒否したシーナは、ふと思いついてニヤリと笑う。
リオンはその表情に青褪め、余計なことを言わせまいとするようにシーナの口を塞ごうとしたが──昔からこの手の争いで『妹』には勝った試しがなかった。
「ムグッ…んじゃぁ!一緒に学園に行くのはまだいいとして……アタシとお友達になって!そんでもって、一緒にピクニックに行きましょう!!」
「は……?」
公爵家の令嬢ともなれば、低位貴族よりもはるかに私財産がある。
さすがにそれをすべて差し出せと言われれば断るを得ないが、シーナが要求してきたのはまったく予想もつかないものだった。
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