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休止

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「だいたいさぁ?アタシがこうやって無事に毎日寮ではなく、ディーファン公爵家から元気に登下校している……その理由というか、理由に思い当たらないっておかしいんじゃない?」
「『理由』がふたつ重なったぞ、意味不明。思い当たらないんじゃなくて、考えたくないだけだろう」
食事を終え、次いでシーナがやはり自分で詰めた水筒からスープを注ぐ。
「そうだ……ゲフッ!ゴホッ…ゴホッ……」
口に含んだ物が予想外で、リオンは激しく噎せ込んだ。
しかし──シーナがチラリと伺うと何人かの側近たちが駆け寄ろうとしたはずなのに、何故か距離が詰まっていない。
リオンの背中を軽く叩いて気遣うシーナにまだ視線を固定させている者もいれば、高位貴族令嬢のようには手入れされていないカサつきの残る手が添えられたリオンの背中を睨みつける者もいる。
「……ここでアタシがあんたを毒殺したら、処罰されない代わりに、それをネタに監禁されそうねぇ」
「ゴホッ……マジ?だ、誰も来ないの?」
「駆け寄ろうとしたのを止めた奴がいるみたいね。学園の側近、見直せないの?」
「……王宮の側近候補にアルベールを据えた時から、自分の息子を売り込んでくる高位貴族が絶えなかったんだ。アルベールはルエナが婚約者候補に押される前に俺が決めちゃったから。シオンが描いてくれたルエナの貴重スチールがなかったら、きっと他の公爵家の令嬢か他国の次女以下の姫が婚約者になっていただろうけどな」
「そのせい?」
「ゲホ…ん…んんっ……ああ、何だこのうっすいスー…プ?お湯?いや、そうなんだ。アルベールが俺の側近に、その妹が王太子婚約者に……ひとつの公爵家の発言力が強まると都合の悪い奴らがいる」
「ああ、お定まりの、ね……あ、それはルエナ様に飲んでもらっているスープ。身体にいいからついでにアンタにも飲ませようと思って。良い薬草が良い状態であるのよ、ディーファン公爵家って!研究所でもあれば、この国の医学も進みそうだけどねぇ……」
「薬草……ふぅん……」
「これも設定には無かったよね?ディーファン公爵夫人が物凄く植物を育てるのが上手だとか、ましてやルエナ様がヤバい状態だったとか……」
「ましてや」からさらに小声で話すと、リオンはつられてしーなの方に屈みこんで頷く。
傍から見ればイチャついているように見えるだろうが、それも全部『真犯人』を焙りだすためだが──
「……やめよ。今日も収穫無し、ね」
「はぁ~……いつまでお前とランチごっこだよ……」
溜め息をつきつつ、リオンは服に落ちたパン屑を払い落した。


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