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窘められる者。
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冒険者2人がとぼけた感じで斥候し、追いつけぬ速さで戻ってくるまでに数えたのは合計7人。
後ろから戻ってきた馬車の音にかき消されていたが、せいぜい増えて2人。
「なるほど……念のため冒険者15名と依頼を出しておいてよかった。すぐに出よう」
「その前に」
一番立派な馬車に続く大型の乗り合い馬車のような馬車の扉が開き、慌てて駆け寄った商団の者の手を借り、一人の男が降りてきた。
「ふ、副商団長……」
ギョッとしたように行商隊の『2番目に偉い男』が呟いたが、さっさと出発しろと命令しかけていた口を閉じる。
「君もよくやっているが、この後出発しようとしている者たちがいることを考えたまえ」
「は…はい……」
「君たち、この少年と共にあの門にいる検問兵に見たことを伝えてくれたまえ。それを商業ギルドと冒険者ギルドに情報を共有するように言ってくれないかね?君たちが戻ってくるのを待っている時間ぐらいはまだあるはずだ」
「し、しかし、副商団長…それでは他の商団の者たちとかち合ってしまう……」
「それも含めて調整するための判断材料を、彼らに持っていてもらうのだ。確かに我々の商品が優れていると初めに披露することは大切だろう。だが、それも無事に王都に到着することができることが前提なのだ」
「それはそうですが……」
「たとえ我々商人が護衛に守られて無事だとしても、商品がなければ何にもなるまい?」
「……はい!ですから、ひょっとしたらあの2人がこちらに戻ってきたことで『今日は襲えない』と思った野盗が引いているかもしれない今こそ……」
賛同してもらえたと思ったのか、男は勢い込んで食い下がったが、副商団長という男は頭を振ってから宥めるようにその厚い肩を叩いた。
「気持ちはわかるよ……今出発すれば、確かにこの数刻の遅れなどなかったことにできるだろう」
「ではっ……」
「しかし我々はそれでいいかもしれないが、他の行商隊が同じ道を行く際、脅威が残るとは思いつかないのかね?」
「そ、それは……はい……」
説得するようでいてその実、部下がこちらの門より先に敷かれている野盗たちの脅威の隙をついて駆け抜け、後で同じ道を通る行商隊に対して危害が加えられても構わないと言わんばかりの態度を取ったことを咎めている。
「さ、早く伝えようぜ」
「そうね。アタシたちも早く出発したいわ~」
まだ何か話しているらしい商人たちにくるりと背を向けた男女の冒険者はそれぞれの馬に乗り、何が始まったのかと興味深そうに眺めているだけだったバルトロメイを促して、荷馬車ごと門の方へと移動した。
後ろから戻ってきた馬車の音にかき消されていたが、せいぜい増えて2人。
「なるほど……念のため冒険者15名と依頼を出しておいてよかった。すぐに出よう」
「その前に」
一番立派な馬車に続く大型の乗り合い馬車のような馬車の扉が開き、慌てて駆け寄った商団の者の手を借り、一人の男が降りてきた。
「ふ、副商団長……」
ギョッとしたように行商隊の『2番目に偉い男』が呟いたが、さっさと出発しろと命令しかけていた口を閉じる。
「君もよくやっているが、この後出発しようとしている者たちがいることを考えたまえ」
「は…はい……」
「君たち、この少年と共にあの門にいる検問兵に見たことを伝えてくれたまえ。それを商業ギルドと冒険者ギルドに情報を共有するように言ってくれないかね?君たちが戻ってくるのを待っている時間ぐらいはまだあるはずだ」
「し、しかし、副商団長…それでは他の商団の者たちとかち合ってしまう……」
「それも含めて調整するための判断材料を、彼らに持っていてもらうのだ。確かに我々の商品が優れていると初めに披露することは大切だろう。だが、それも無事に王都に到着することができることが前提なのだ」
「それはそうですが……」
「たとえ我々商人が護衛に守られて無事だとしても、商品がなければ何にもなるまい?」
「……はい!ですから、ひょっとしたらあの2人がこちらに戻ってきたことで『今日は襲えない』と思った野盗が引いているかもしれない今こそ……」
賛同してもらえたと思ったのか、男は勢い込んで食い下がったが、副商団長という男は頭を振ってから宥めるようにその厚い肩を叩いた。
「気持ちはわかるよ……今出発すれば、確かにこの数刻の遅れなどなかったことにできるだろう」
「ではっ……」
「しかし我々はそれでいいかもしれないが、他の行商隊が同じ道を行く際、脅威が残るとは思いつかないのかね?」
「そ、それは……はい……」
説得するようでいてその実、部下がこちらの門より先に敷かれている野盗たちの脅威の隙をついて駆け抜け、後で同じ道を通る行商隊に対して危害が加えられても構わないと言わんばかりの態度を取ったことを咎めている。
「さ、早く伝えようぜ」
「そうね。アタシたちも早く出発したいわ~」
まだ何か話しているらしい商人たちにくるりと背を向けた男女の冒険者はそれぞれの馬に乗り、何が始まったのかと興味深そうに眺めているだけだったバルトロメイを促して、荷馬車ごと門の方へと移動した。
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