間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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呆れられる者。

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短剣しか持たないバルトロメイを見れば一瞬シーフかと思わないでもないが、それにしては身に付けている革鎧やブーツはそれなりの重さがありそうで、身軽に動く職業の者には見えない。
だが雰囲気としては前衛を主としているような殺伐さがなく、あまりにも身綺麗すぎる。
もちろんこの初心者専用のようなダンジョンに潜っているということは、自分たちと同じような新人冒険者に違いないだろうが──
「なあ、あん」
「え──っ?!剣を取られたってぇ?」
いったい職業は何なんだ?──そう問いかける声に被せて、クガンが大声を上げる。
「うん……たぶん?」
「たぶん……って」
「いや、起きたら一緒にいた人たちがいなくなってて、僕の剣もなくなっちゃって……ひょっとしたらどこかの盗賊に盗まれて、それを追いかけるのに忙しくて置いてかれちゃったのかもしれないけど」
「いや、それはない」
「それはない」
「……ないだろ、普通」
「変な奴」
異口同音に──しかも初めて口を開いたポリネすら、バルトロメイの呑気な見解をあっさりと否定した。
「まあ……いいんだけど」
「いいんだ?!」
「うん」
いちいち大袈裟にクガンが驚くが、そのせいで他のメンバーたちは気が抜けてしまうようだった。
だがバルトロメイが失ってしまった自分の剣に対する執着があまりに薄いことに興味はあるらしく、何を言いだすかと、黙って2人のやり取りに注目している。
「……だって、あの剣すごく綺麗だったんだけど、何かしっくりこないというか……ちょっと打撃ができなかったっていうか。銀貨2枚の剣って、そんな物なのかなぁ~……」
「銀貨2枚?!どんな名刀だよ!普通の剣は銀貨1枚もあれば研ぎ直しまで付けてくれるだろうに……」
「え?!そうなの?」
あまりの世間知らずっぷりにアンバールがポカンと口を開ける。
「しかも綺麗って……どんな剣だったんだい?」
「えぇと……金色のキラキラで、大きい綺麗な透明なガラスと、小さな魔石の欠片がついてて。何かどこかに当てたら石が取れちゃいそうで、使えなかったんだよねぇ……何か切れなかったし」
「ガラス玉と小さな魔石……特に魔法付与とかされてなくて?しかも金色で?」
チェットもバルトロメイに問い質したが、剣の長さだとか装飾がどこについていたのかを身振りで説明され、だんだんと眉を寄せてしまい──
「それ、玩具でしょ?」
「オモチャだよな」
「玩具でももっとマシに、せめて練習剣ぐらいに使える物買えよ!」
またもやチェット、クガン、アンバールがそれぞれバルトロメイにツッコんだ。


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