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今度こそ満腹だ──間違いなく、そう言える。
前菜やスープなどはまあピエシ子爵夫妻より少し多いぐらいだったが、魚料理はバルトロメイとロダーの皿にはそれぞれ大きな川魚の半身ずつ、肉料理も平たいステーキではなく種類と大きさの違う塊肉が3つも乗っていた。
おまけにパンも好きなだけ食べられるようにと籠ごとバルトロメイとロダーの間に置かれ、サラダは普通盛りだったが、デザートはチーズが数種類と大きく切ったケーキ、ゼリー、そして大人の頭ほどもある丸いガジュンという甘い果物が半分ずつ若者の前に置かれる。
さすがにそこまで出されて『まだ空腹だ』とはとても言えず、むしろ言ってしまったらさらにもうひと皿分追加で出されてしまいそうだ。
それだけは勘弁してほしいと思うのは──
「さすがいい食いっぷりだな!俺の義理の息子たちは普通の文官でな。俺とは食事の量が合わないんだ」
「ワタクシの義理の息子でもあってよ?仕方がないわ。ですから、ワタクシがお付き合いしているのですもの……で、カラトリーの使い方は覚えて?」
そう言ってニッコリ笑いかけたフラーニァに、バルトロメイとロダーは顔を引き攣らせてコクコクと頷く。
最初のコース料理の際にはカラトリーが下げられて、料理とともに必要なスプーンやフォークが出されたのはもちろん作法知らずの冒険者への気遣いではあるが、何故かその後のおかわりコース料理ではピエシ子爵夫人からの指導がビシバシと入り、最終的には何とか形になったと言われてグッタリした。
「……とりあえず、お前の身分証は返しておくぞ。ギルド預りの分に関しては、一切あの女たちの手が伸びなかったことは保証する」
「おお、ありがたい。こいつん家に厄介になってんのに、宿代も引き出せなくて困ってたんだ。これでようやく気持ちが落ち着く……」
「お、おお……そいつぁよかったな」
ロダーは受け取った身分証の他、冒険者ギルドに預けていた報酬金もそのままだと知って安心する。
一応その身分証がなければ人の財産を勝手に引き出すことはできないとされているが、それでも抜け道がないとは言えない。
他にロダーが所持していた鞄は彼女らに持ち去られ、ダミーとして残していた物は返ってこないが、それもきちんと調べれば──
「いいよ、そいつぁ……手切れ金だと思って諦めるし。最初からそのつもりだったしさ」
「そうは言ってもなぁ……」
バンドーラが困ったように頭を掻くが、その仕草は彼が来ている正装には似合わない。
だがロダーは構わないと手を振って、その理由を話す。
「どうせあいつらが捨てた連中のことも調査するんだろう?たぶん俺が唯一の生き残りだろうから、手間省いて『いらない』って言ってるんだからさ。それに……俺の忠告を一切聞かずに俺の作った塗り薬を際限なく使ったんだ。効果は半永久的じゃない。そのうち薬効が切れれば否が応でも自分たちの身体が劣化していくのを自覚できるさ。俺からの罰はそれで十分」
「だがなぁ……」
「いやマジで。あのクリームやら飲み薬やらも、全部取り上げてんだろう?逆にあんたがあいつらに同情して、薬を渡してやるかもしれないって方が心配だよ」
「……そんなにすごいの?」
そう言って身を乗り出してきたのはフラーニァだった。
目がキラキラ──否、ギラギラと輝いているが、その勢いに押されるようにロダーは頷いた。
「たぶん、すごいと思う。まだ実験中みたいなものだから……一応、効果に関してはアディばあさんから『こりゃすごい』って言われて入るけど、どうすごいか…は、まああいつらを見ての通りだけど」
「そうね」
ホホホと笑って「また後で話しましょう」と言われたが、ロダーは我関せずでまだデザートを楽しそうに食べるバルトロメイを恨めしく見つつ、圧に押されて頷くしかなかった。
前菜やスープなどはまあピエシ子爵夫妻より少し多いぐらいだったが、魚料理はバルトロメイとロダーの皿にはそれぞれ大きな川魚の半身ずつ、肉料理も平たいステーキではなく種類と大きさの違う塊肉が3つも乗っていた。
おまけにパンも好きなだけ食べられるようにと籠ごとバルトロメイとロダーの間に置かれ、サラダは普通盛りだったが、デザートはチーズが数種類と大きく切ったケーキ、ゼリー、そして大人の頭ほどもある丸いガジュンという甘い果物が半分ずつ若者の前に置かれる。
さすがにそこまで出されて『まだ空腹だ』とはとても言えず、むしろ言ってしまったらさらにもうひと皿分追加で出されてしまいそうだ。
それだけは勘弁してほしいと思うのは──
「さすがいい食いっぷりだな!俺の義理の息子たちは普通の文官でな。俺とは食事の量が合わないんだ」
「ワタクシの義理の息子でもあってよ?仕方がないわ。ですから、ワタクシがお付き合いしているのですもの……で、カラトリーの使い方は覚えて?」
そう言ってニッコリ笑いかけたフラーニァに、バルトロメイとロダーは顔を引き攣らせてコクコクと頷く。
最初のコース料理の際にはカラトリーが下げられて、料理とともに必要なスプーンやフォークが出されたのはもちろん作法知らずの冒険者への気遣いではあるが、何故かその後のおかわりコース料理ではピエシ子爵夫人からの指導がビシバシと入り、最終的には何とか形になったと言われてグッタリした。
「……とりあえず、お前の身分証は返しておくぞ。ギルド預りの分に関しては、一切あの女たちの手が伸びなかったことは保証する」
「おお、ありがたい。こいつん家に厄介になってんのに、宿代も引き出せなくて困ってたんだ。これでようやく気持ちが落ち着く……」
「お、おお……そいつぁよかったな」
ロダーは受け取った身分証の他、冒険者ギルドに預けていた報酬金もそのままだと知って安心する。
一応その身分証がなければ人の財産を勝手に引き出すことはできないとされているが、それでも抜け道がないとは言えない。
他にロダーが所持していた鞄は彼女らに持ち去られ、ダミーとして残していた物は返ってこないが、それもきちんと調べれば──
「いいよ、そいつぁ……手切れ金だと思って諦めるし。最初からそのつもりだったしさ」
「そうは言ってもなぁ……」
バンドーラが困ったように頭を掻くが、その仕草は彼が来ている正装には似合わない。
だがロダーは構わないと手を振って、その理由を話す。
「どうせあいつらが捨てた連中のことも調査するんだろう?たぶん俺が唯一の生き残りだろうから、手間省いて『いらない』って言ってるんだからさ。それに……俺の忠告を一切聞かずに俺の作った塗り薬を際限なく使ったんだ。効果は半永久的じゃない。そのうち薬効が切れれば否が応でも自分たちの身体が劣化していくのを自覚できるさ。俺からの罰はそれで十分」
「だがなぁ……」
「いやマジで。あのクリームやら飲み薬やらも、全部取り上げてんだろう?逆にあんたがあいつらに同情して、薬を渡してやるかもしれないって方が心配だよ」
「……そんなにすごいの?」
そう言って身を乗り出してきたのはフラーニァだった。
目がキラキラ──否、ギラギラと輝いているが、その勢いに押されるようにロダーは頷いた。
「たぶん、すごいと思う。まだ実験中みたいなものだから……一応、効果に関してはアディばあさんから『こりゃすごい』って言われて入るけど、どうすごいか…は、まああいつらを見ての通りだけど」
「そうね」
ホホホと笑って「また後で話しましょう」と言われたが、ロダーは我関せずでまだデザートを楽しそうに食べるバルトロメイを恨めしく見つつ、圧に押されて頷くしかなかった。
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