間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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崩れていく者。

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何故か機嫌よくガイルはさっさとテントを出たが、残されたティアンにとって美味かった肉が途端に味気ないものに変わる。
理由はたぶんミヤの関心がティアンからガイルに変わった──そうとしか考えられない。
ミヤはただの魔法使いではなく、魅了によるバフを与えてくれる特殊魔力を持っている。
彼女に気に入られた故にティアンは持ち合わせた以上の能力の他にも態度までデカくなり、自信まで膨大に膨れ上がった。
その結果として『トライン』は中堅レベルの冒険者パーティーとしてあまり褒められたものではなくなったが、それなりに厳しい条件でもティアンの気概に引っ張られる形でクリアすることができたのである。
だがそんなパーティーリーダーからバフが無くなれば──
「……フフッ…やっぱりぃ、何だかんだ言っても、ガイルは頼りになるぅ」
「お前なぁ……そんな調子の良いこと言って、ティアンが落ち込むだろう?」
「え~……ん~…でもぉ……やっぱり、アタシのためにこんなすごいお肉持ってきてくれたんだもん。ティアンってばガイルとかダンに命令するばっかりで、ちっとも……全然ってわけじゃないけどぉ……」
「いやいやいや…アレでもイイとこあるんだぜ?お前だって、ちゃんとわかってるだろう?」
「うぅ~ん……そりゃぁ…ねぇ……フフッ……」
ガイルに囁かれてミヤが目元を少し赤らめて淫蕩に笑うが、テントの入り口から顔を出したティアンはバフによる底上げの自信が無くなったせいもあって、やけに陰気な目で焚火に照らされる幼馴染みの2人を見ていた。


そこから先のティアンは覇気がなく、結局バルトロメイの荷物を奪うという目的を忘れたかのようにただ静かにダンジョンを攻略し、そのまま何事もなく全員が無事に拠点としている町に戻ってきた。
その間にティアンはあまり話さなくなり、ミヤは涼し気な顔でガイルやバルトロメイにすり寄るように話しかける。
それをダンは薄笑いを浮かべて見ているだけで、けっして仲を取り持とうとはしない。

崩壊も時間の問題だった。


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