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振られる者。
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テントの中ではイライラした顔をしたミヤが、隙もなくきちんと服を着こんでいた。
ベッドの上で広がっていたベルベットのような艶のある髪も撫でつけられて、文字通り髪の毛の1本も乱れがない。
「……まったく、とんだ邪魔が入ったな……じゃあ、さて、続きを……」
「バッカじゃないの?」
いつも通り押し倒そうと腕を伸ばしたのに、ミヤはその太い腕を軽く弾いて、椅子代わりにしていたベッドから立ち上がった。
「こんな状況でまだ続けようなんて、どういう神経してるの?」
「へっ……いいじゃねぇか?どうせあいつらは、お前みたいなイイ女を抱くことなんかできっこねぇんだ。声ぐらい聞かせてやれよ……」
「だから!そういうのが嫌なんだってば!」
出て行こうとするミヤを引き留めるように後ろから抱きつき、ティアンが無理やり自分の方に顔を向けさせようと顎をつまんで捻ろうとした。
「オンナが本気で嫌がってるものわかんないの?!首痛めるでしょう?!手を放してよ!」
バシッと派手な音を立ててティアンの拘束を魔法で解いたミヤは、組み敷いていた時のような甘ったるさをまったく消して身体を離し、わざとらしく身にまとったマントを払う。
「まったく……こんなところで野営して。アタシは助けないわよ?ちゃんと見張りはしてよね」
ツンと頭を逸らしたミヤが見返りもせずにテントを出て行くのを、ティアンはイライラした気持ちで見送った。
そのまま後を追おうという気にはならず、情事で乱れたままの簡易ベッドに寝転がる。
「チッ……いったいどうやって……だいたいあいつ、何でピンピンしてやが……る……」
あのくそアマ…寝床に何か……
おそらく制止も聞かずに押し倒された時に逃れるためだろう──ミヤが自分のベッドに何らかの魔法をかけたのだろうと察しはついたが、それに抗うこともできずにティアンは意識を手放した。
「……ティアン、起きろよ」
ガンッとベッドの足を蹴られた衝動で、やっとティアンは目を覚ました。
ニヤニヤしたガイルが見下ろし、手にした焙り肉のサンドイッチを差し出している。
「……あぁ…?クソッ……」
ガッと奪うように受け取ったが、意外にも口にした焙り肉は保存用ではなく新鮮な歯ごたえだった。
「ど、どうしたんだ?これ……」
思ってもみなかった美味に、思わずティアンの目が大きく開く。
その反応がおかしかったのか、ガイルはククッと笑った。
「なぁ?おっかしいだろう?あいつが水を汲んだ後、草を毟り始めてさ。で、デカめの魔猪が近付いてきたから『今度こそ!』って思ったわけよ」
「そ、そうなのか……」
てっきりガイルがバルトロメイを見逃したか見失ったのかと思ったが、どうやら違ったらしいとティアンは続きを促した。
「なのに魔猪はあのガキが毟った草のあたりを穿り出しやがって……そのままいきなりドタンさ。近付いたら泡吹いて死んでてよ。どんな毒喰らったのかわかんねぇから、とりあえず魔石と肉以外は捨ててこなくちゃならなかったが……」
特に今回の遠征では何もクエストを受けておらず──むしろ、バルトロメイの荷物を奪うという目的では、変に討伐部位を持って帰るのも面倒だということで、別に魔猪の討伐証明部位はいらない。
しかしガイルが取り出して見せた魔石はなかなかの大きさで、前足もだいぶ大きかったはずだ。
「クソッ……惜しいことをしたな……」
「ああ。確かに結構なデカさだったな。だが、アレを持って帰ってくるなら、今食ってる肉は手に入らなかったんだぜ?」
「それはそうだろうが……」
「それに、コイツのおかげでミヤの機嫌も直ったんだぜ?感謝してくれよな、まったく……」
「何だって?」
ポロリと口の端から肉切れが零れ落ちた。
ベッドの上で広がっていたベルベットのような艶のある髪も撫でつけられて、文字通り髪の毛の1本も乱れがない。
「……まったく、とんだ邪魔が入ったな……じゃあ、さて、続きを……」
「バッカじゃないの?」
いつも通り押し倒そうと腕を伸ばしたのに、ミヤはその太い腕を軽く弾いて、椅子代わりにしていたベッドから立ち上がった。
「こんな状況でまだ続けようなんて、どういう神経してるの?」
「へっ……いいじゃねぇか?どうせあいつらは、お前みたいなイイ女を抱くことなんかできっこねぇんだ。声ぐらい聞かせてやれよ……」
「だから!そういうのが嫌なんだってば!」
出て行こうとするミヤを引き留めるように後ろから抱きつき、ティアンが無理やり自分の方に顔を向けさせようと顎をつまんで捻ろうとした。
「オンナが本気で嫌がってるものわかんないの?!首痛めるでしょう?!手を放してよ!」
バシッと派手な音を立ててティアンの拘束を魔法で解いたミヤは、組み敷いていた時のような甘ったるさをまったく消して身体を離し、わざとらしく身にまとったマントを払う。
「まったく……こんなところで野営して。アタシは助けないわよ?ちゃんと見張りはしてよね」
ツンと頭を逸らしたミヤが見返りもせずにテントを出て行くのを、ティアンはイライラした気持ちで見送った。
そのまま後を追おうという気にはならず、情事で乱れたままの簡易ベッドに寝転がる。
「チッ……いったいどうやって……だいたいあいつ、何でピンピンしてやが……る……」
あのくそアマ…寝床に何か……
おそらく制止も聞かずに押し倒された時に逃れるためだろう──ミヤが自分のベッドに何らかの魔法をかけたのだろうと察しはついたが、それに抗うこともできずにティアンは意識を手放した。
「……ティアン、起きろよ」
ガンッとベッドの足を蹴られた衝動で、やっとティアンは目を覚ました。
ニヤニヤしたガイルが見下ろし、手にした焙り肉のサンドイッチを差し出している。
「……あぁ…?クソッ……」
ガッと奪うように受け取ったが、意外にも口にした焙り肉は保存用ではなく新鮮な歯ごたえだった。
「ど、どうしたんだ?これ……」
思ってもみなかった美味に、思わずティアンの目が大きく開く。
その反応がおかしかったのか、ガイルはククッと笑った。
「なぁ?おっかしいだろう?あいつが水を汲んだ後、草を毟り始めてさ。で、デカめの魔猪が近付いてきたから『今度こそ!』って思ったわけよ」
「そ、そうなのか……」
てっきりガイルがバルトロメイを見逃したか見失ったのかと思ったが、どうやら違ったらしいとティアンは続きを促した。
「なのに魔猪はあのガキが毟った草のあたりを穿り出しやがって……そのままいきなりドタンさ。近付いたら泡吹いて死んでてよ。どんな毒喰らったのかわかんねぇから、とりあえず魔石と肉以外は捨ててこなくちゃならなかったが……」
特に今回の遠征では何もクエストを受けておらず──むしろ、バルトロメイの荷物を奪うという目的では、変に討伐部位を持って帰るのも面倒だということで、別に魔猪の討伐証明部位はいらない。
しかしガイルが取り出して見せた魔石はなかなかの大きさで、前足もだいぶ大きかったはずだ。
「クソッ……惜しいことをしたな……」
「ああ。確かに結構なデカさだったな。だが、アレを持って帰ってくるなら、今食ってる肉は手に入らなかったんだぜ?」
「それはそうだろうが……」
「それに、コイツのおかげでミヤの機嫌も直ったんだぜ?感謝してくれよな、まったく……」
「何だって?」
ポロリと口の端から肉切れが零れ落ちた。
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