間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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戻ってきた者。

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多くの人と関わり合いながら進んだ行きとは違い、復路となる今回の旅は以前よりずっと早く、エンとヤシャが牽く荷馬車を宿にしてバルトロメイはマロシュ老が待つ家へと向かった。
これは行きと違って移動手段が格段にレベルアップしたということもあるが、バルトロメイの手助けがなくなった後の問題は自分たちで解決しなければならないということに気が付いた住民たちが協力し合うになったということもあるが、冒険者ギルドから新しく『奉仕活動』という依頼募集項目が増えたことで新米冒険者たちが受注し始めたという事情もある。
「なんかすっごい気楽だねぇ~」
通りすがりに助けた人たちと再会して改めて感謝の念を込めて宿泊場所を提供されたりもしたが、エンとヤシャがいるおかげで野宿をするのに躊躇う必要がなく、必要な物を買い整えて野営地で存分に手足を伸ばすことができた。


「おおっ!帰って来たんじゃなぁ……」
「おにいちゃん、おかえり~」
初めて登録をした冒険者ギルドに寄ると、ギルド長が人をやってマロシュ・ガンス老と孫のレオシュを呼んでくれた。
レオシュはバルトロメイがどれくらい遠くに行ったのかわかっていないのか、約1年ぶりとなる再会にも気追わず、ニコニコと手を振っている。
その手足は少し伸びて、幼少を抜けてやや『少年』になっていた。
マロシュ老は出発の時からすでにおじいちゃんだったのであまり変化はなかったが、可愛らしい2頭の馬を繋いだ荷馬車の横に立つバルトロメイを見た途端に号泣してしまい、思わず何事かとバルトロメイとレオシュの2人はキョトンと顔を見合わせる。

マロシュ老にしてみれば、新米冒険者であるバルトロメイが無傷で、しかも旅立った時よりも立派に馬や馬車まで手に入れて戻ってきたのに驚き、万が一弟の忘れ形見に会えない事態に陥ることも覚悟していた。
たとえ帰ってこれたとしても10年先20年先になるか、その時に自分が生きているかどうかさえ分からずにいたのである。
それが弟のようにどこかに腰を据えてそのままそこに根付くわけでもなく、無事に帰ってきてくれた──涙腺が緩むのも仕方がない。
さらに小刀はきちんと姪の手に返されたという報告の他、その当人から会ったことのない伯父への手紙を手渡され、また涙が流れる。
姪の住む村で貞操の危機にさらされていたところをバルトロメイに救われ、さらに村の発展というか衰退の元凶を取り除くことまでしておきながら一切驕ることなく、とても好青年だという気持ちが綴られていた。
自分が住む村と父の故郷とは距離があってそう簡単に会うことはできないが、幸いにも教会での奉仕活動や貴族へ売られてしまいそうだった過去とは決別でき、今は冒険者ギルドで身柄を保護されてさらに受付嬢として働くことが決まったとも書かれており、連絡はギルド経由で確実にできることが記されていて、それにマロシュ老は一層笑みを深めた。
「えっ!ぼく、おねえちゃんがいるの?!」
正確には『姉』ではないが、新しい年上の従姉のことをレオシュはとても喜んで受けいれる。
「まあ……このバルトが帰ってくるのにずいぶんかかったからのぅ……お前もおにいちゃんぐらい大きゅうなったら、そのうち会いに行けるかもしれんのぅ」
本心では孫に冒険者として旅立ってほしくはないだろうが、マロシュ老は口に出すことはなかった。
それにレオシュの将来に関しては、祖父の後を継いで豪農となる既定路線を外れないという選択肢が最有力であり、従姉弟が顔を会わせることは難しいかもしれない。


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