間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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期待する者。

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ともかくこの短期間で調査を終え、さらにまたドウシュとその妻を埋葬し直すことは難しいとして、やはり二人の遺体は教会に留め置かれることとなった。
ただしまた何か良からぬことを考えることがでないよう、そして誰にも邪魔されず──レーアの気持ちを逆撫でしないようにしながら調べられるように──2人の遺体は一度ドウシュが埋められた場所に建てられた霊廟的な小屋の中に安置することになる。
そこを安置場所として決めたのは、最初ドウシュが埋められていた周囲の土壌が魔物の餌として結果的に浄化された状態となったことと、今回はレーアから譲られる形に落ち着いたガンス家の宝玉が埋め込まれた小刀と共に置くことで、今後もこの土地が魔素毒に侵されることがないかの検証を行うためだ。
それと同時に、魔窟になってしまった廃墟の魔物を討伐しつつ調査も行い、可能ならば持ち去られた遺物も探し出して安置し直し、その結果も検証しなければならない──考えただけでも数年から数十年単位の調査になるだろうというのが、アギディハーンとラン・バクーの見解だった。
「……そんなわけで、まあ冒険者ギルドの一時的な出張所というつもりだったが、おそらくは恒久的な設置になる予定に変更だ」
「そ、それでは……?」
屈強な元冒険者たちが管理をするギルド支部が据えられると聞いて、村長たちは自分たちがしでかしたこととヤラかそうとしたことを罰せられるのかと慄くよりも、期待で目を輝かせる。
大した特産品もない小さな村にちゃんとした冒険者ギルドがあるというのは、今後の村の発展に大きくかかわる事案だからだ。
「ああ。どうやったって俺たちギルド職員だけじゃ調査しきれんだろうからな。ちゃんと討伐依頼も受けられるようになるし……心配事はそこらへんだろう?」
ただ豪快なだけでなく、アギディハーンはこの村の抱える、抱えきれない問題もちゃんと考慮していた。

廃墟が発かれたことによる魔物の増加と、魔素毒による魔物植物の増加。

それらを討伐してもらおうとしても、期待する結果を出せる仕事をする冒険者をかき集めるには依頼料がバカみたいにかかる。
その依頼料をどこから出すのか──住民たちが生きていくのに必要なぐらいしか農作物の取れないこの村ではとうてい難しい問題だった。
それが今後、冒険者ギルド自らこの村の問題を解決できるかもしれない調査や検証を行ってくれ、手が足りなければ冒険者ギルドが金を出して冒険者依頼を発行し、しかもこの村に来た冒険者たちが寝泊まりしたり飲食する店などがあれば村自体も潤っていく。
「今んとこ村を広げる余裕はないだろうから、この教会と子供たちの勉強場所を提供してもらうがな。お嬢ちゃんの家が確かまだあったよな?」
「ええ……あ、あの……だいぶん荒れてしまっているのですが……」
「そりゃ、そっちはお前らでどうにかしてやんな!お嬢ちゃんは身の安全も考えて、この教会の自分の部屋で寝泊まりするのがいいだろうから、そっちの家を子供たちの教え処や預かり所にすりゃあいいだろうが?」
確かに呪われたドウシュが住んでいた家ということで村の誰もその家には近付きたがらなかったが、村長以外でも皆すでに真相を知っているため、勝手な思い込みでつまはじきにしてしまったレーアへの贖罪の意味も込めて改装を手伝う者はいるはずだ。
もうその家に住む者がいなかったとしても、今アギディハーンが提案したような用途で使うというならば、レーアに許諾をもらうのも難しくはないかもしれない。


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