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認めざるを得ない者。
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村の男たちやレーア、アギディハーンとラン・バクーがそれぞれ怯えや悲しみ、嫌悪や怒りといった感情を現わしている中で、ひとり首を傾げているのはバルトロメイである。
だいたい金銭や『価値』といった『ヒト』のやりとりを知る前に、その存在自体をなかったものにされるために、森に捨てられた赤ん坊だ。
幸いにして『父』であるドワーフと『母』であるエルフが『家族』に迎え入れてくれたが、本来精霊や魔物魔獣の類が人間に対してそのような保護を与えることなど、まずはない。
人間は知能がありすぎ、己の無力さを補う知恵がありすぎ、自然の中にある『他種』を忌み嫌って排除しようとするだけの結団力がありすぎた。
それは魔族や魔物たちと似ている行動理論や生存本能だったかもしれないが、彼らよりも脆弱で寿命ははるかに短かったため、共存共栄が可能な精霊たちや獣人族は双方の『害するもの』たちとは交わらないように結界を張って住処を隠して生きてきたのである。
その中で奇跡のように生かされてきたバルトロメイはあまりにも『ヒト』に染まらずに成長したため、何故周囲の『大人たち』が多種多様の表情を浮かべているのか、あまり良くわかっていないのだ。
13年間の森の中での生活に比べその半分にも満たない『人間』の中で学んだことは少なくはないが、そこに性的な情報はあまり含まれておらず、ついでにそれ自体が売買の対象になるものであるということも知らなかった。
保護した者たちが意図的に隠していたということもあるし、『知っていて当然』という先入観もあったのだろうが、とにかくレーアが自分の『派遣先』を話した時に感じた違和感のとおり、バルトロメイはその意味を理解していなかったのである。
「……疲れました」
「ああ」
「何なんでしょうね……まるで『神の子』だ」
「ああ」
「でも、まったく聖職者らしくなく……いかなる宗教の教えも理解していないし、身についているべき作法も経典もない」
「ああ」
返事のたびにアギディハーンは酒を煽り、ハァッと溜息をついたランはちびりと自分の酒を啜る。
場所は教会長の応接室だが、驚くほど高価な──少なくともこんな小さな村では手に入らないほどの高級な酒がずらりと揃っていた。
しかも酒だけではなく、これまた上等な酒肴も隠すことなく戸棚に置かれていたのには驚いた。
だがその美酒佳肴のどれもが理性を失わせるには程遠く、先ほどまで余人を交えず質問攻めにしていたバルトロメイの扱いに困ったという認識が消えない。
師匠であるバルトバーシュとマクロメイのおかげで『知識』はあったが、『常識』にかける部分が多々あった。
『信仰心』はないが、『聖職者』と同じ生活を送っていたことがわかった。
歴史を知らず、地理を知らず、人間の生業や生活や人生を知らなかった。
なのにバルトロメイがここまで来た行程を聞けば聞くほど、彼は冒険者として新しいランク基準を確立してしまった『勇者』に匹敵する人間だと確信せざるを得ず、たとえ常識が無かろうとも冒険者ギルドの名において『勇者』と認めねばならないと意見は一致してしまったのである。
だいたい金銭や『価値』といった『ヒト』のやりとりを知る前に、その存在自体をなかったものにされるために、森に捨てられた赤ん坊だ。
幸いにして『父』であるドワーフと『母』であるエルフが『家族』に迎え入れてくれたが、本来精霊や魔物魔獣の類が人間に対してそのような保護を与えることなど、まずはない。
人間は知能がありすぎ、己の無力さを補う知恵がありすぎ、自然の中にある『他種』を忌み嫌って排除しようとするだけの結団力がありすぎた。
それは魔族や魔物たちと似ている行動理論や生存本能だったかもしれないが、彼らよりも脆弱で寿命ははるかに短かったため、共存共栄が可能な精霊たちや獣人族は双方の『害するもの』たちとは交わらないように結界を張って住処を隠して生きてきたのである。
その中で奇跡のように生かされてきたバルトロメイはあまりにも『ヒト』に染まらずに成長したため、何故周囲の『大人たち』が多種多様の表情を浮かべているのか、あまり良くわかっていないのだ。
13年間の森の中での生活に比べその半分にも満たない『人間』の中で学んだことは少なくはないが、そこに性的な情報はあまり含まれておらず、ついでにそれ自体が売買の対象になるものであるということも知らなかった。
保護した者たちが意図的に隠していたということもあるし、『知っていて当然』という先入観もあったのだろうが、とにかくレーアが自分の『派遣先』を話した時に感じた違和感のとおり、バルトロメイはその意味を理解していなかったのである。
「……疲れました」
「ああ」
「何なんでしょうね……まるで『神の子』だ」
「ああ」
「でも、まったく聖職者らしくなく……いかなる宗教の教えも理解していないし、身についているべき作法も経典もない」
「ああ」
返事のたびにアギディハーンは酒を煽り、ハァッと溜息をついたランはちびりと自分の酒を啜る。
場所は教会長の応接室だが、驚くほど高価な──少なくともこんな小さな村では手に入らないほどの高級な酒がずらりと揃っていた。
しかも酒だけではなく、これまた上等な酒肴も隠すことなく戸棚に置かれていたのには驚いた。
だがその美酒佳肴のどれもが理性を失わせるには程遠く、先ほどまで余人を交えず質問攻めにしていたバルトロメイの扱いに困ったという認識が消えない。
師匠であるバルトバーシュとマクロメイのおかげで『知識』はあったが、『常識』にかける部分が多々あった。
『信仰心』はないが、『聖職者』と同じ生活を送っていたことがわかった。
歴史を知らず、地理を知らず、人間の生業や生活や人生を知らなかった。
なのにバルトロメイがここまで来た行程を聞けば聞くほど、彼は冒険者として新しいランク基準を確立してしまった『勇者』に匹敵する人間だと確信せざるを得ず、たとえ常識が無かろうとも冒険者ギルドの名において『勇者』と認めねばならないと意見は一致してしまったのである。
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