間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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告白する者。

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「……あ~…この礼儀のなっていないハーン様がぜんっぜん紹介してくれないので、しょうがないので自分で名乗ります!私は王都にある冒険者ギルド中央本部役員のラン・バクーと申します。専門的に古代遺跡探索の冒険者をやっていたのですが、今は引退しまして……ただ、今回の件があって調査のために臨時にこの村の冒険者ギルド長となります。以後、お見知りおきを」
座ったまま片腕を胸に当てて一礼をするギルド職員──もとい、ラン・バクーをポカンと見ていたバルトロメイやレーア、そして村の者たちは慌てて頭を下げる。
自分が挨拶した時よりも丁寧に頭を下げる人たちを見て、アギディハーンがむぅっと口を尖らせた。
「俺よりも気持ちが籠ってるじゃねぇか……」
「そりゃそうですよ!突然ハーン様みたいな強面の人が、『ギルドから来た!よろしく頼まぁ!』なんて大声で挨拶したら、そりゃ縮み上がりますって!」
単純に怖そうな人と優しそうな人に対する気持ちの違いではあるのだが、アギディハーンはそうかと納得して頷いた。
「そりゃそうか……ま、いっか」
「はいはい、いいんですよ…で、ですね?さっきハーン様が言ったのは、けっこうよくある報復のひとパターンなんです。そして教会関係者の中には『自分たちは選ばれし神の使い。凡人とは違う。凡人は自分たちの言うことを聞くべきだ』って考える輩…ゴホン、そういう驕った考えの者たちも多々いるんです。それこそ、若い修道女を勝手に貴族の妾として売ったり…とかね」
チラリとレーアに視線をやったが、すぐに逸らして今度は村長に笑いかける。
その言葉に村長は居心地悪そうに尻をずらし、誰もいない部屋の隅に顔を僅かにそむけた。
「……なるほど。まったくの無罪というわけではないようですね?」
「村長さん……」
レーアの小さな声に、村長はピクリと肩を揺らしてさらに顔を俯ける。
だがそれは他の者たちも同様で、顔色を変えていないのはアギディハーンとラン、そしてどういう意味なのかまったく理解できていないバルトロメイだけだった。

ランだけでなくアギディハーンも思いついたのは、この若くて美しい修道女について村の男たちは他の利用法・・・・・を知っていたのではないかということである。
それを証明するかのように男たちの1人がグイッと村長に近寄って叫んだ。
「何だってっ?!アンタ、それ知ってたのか?!レーアを貴族に売るだって?こいつは村の共有財産だろう?!今は修道女長がいなくなっちまったんだから、こいつが代わりをやるはずだろう?!」
「共有……代わり……?」
唾を飛ばし目を血走らせながら詰め寄る男を他の者が押さえつけたが、村長の顔色は悪いままだ。
そしてレーアもまた。
「……レーアさんはやはり何も知らなかったようですね。ええ、教会長と修道女長はあなたを貴族のもとへ慰み物として売り払っていました」
「それは……存じております」
「おや」
「でも……そ、その……私自身が村の『共有財産』……というのはいったいどういう意味で……そして修道女長の代わりって、どういうことなんでしょうか?」
答えは聞かなくともわかっている──が、それを聞きださないではいないという強い意志と非難を込め、レーアは村長、その後ろに立つ者から取り押さえられている物まで順番に視線を巡らせた。
「きょっ、教会長様が言ったんだ!お、お前みたいな親に見放されたみなしごは、村の皆が面倒見てやらないといけないって!でも、お前には恩を返せるわけもないから、お前が修道女長様の代わりに村の男たちを自分の身体を使って奉仕する役目をやるんだって!」
「おいっ!だっ、黙れっ!!」
「うるせえぇっ!!」
口を塞がれそうになり、男がその手に噛みつくとグアッ!と悲鳴を上げて手が緩んだ。
その隙をついて、さらに男は言い募る。
「しっ、しかも、その1番は、村の中でも1番多く寄付をした家の男がその権利をもらうって!だ、だから親父は俺のために、たっぷり教会に寄付したんだ!お、親父はお前を嫁として家に入れられねえとか言ってたけど、子供ができちまえばそんなことは言わなくなる……なっ、なぁ!だからよお、レーア……お、俺。本当にお前を愛してるんだ……だから、貴族んとこに行くことなんて……」
歪んだ求愛の言葉は、無言で立ち上がったアギディハーンの腕のひと振りで途切れた。
聞くに堪えないその言葉の羅列に顔を歪めていたレーアがついに啜り泣き、部屋の中にはその悲しい音だけが静かに広がる。


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